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生殺ジャンクヤード  作者: 綿鎬虎具
6/17

人生の寄り道亭

「ラビさん!」

声は大蛇の叫びにかき消される。

必死に追いかけても瞬く間に引き離される。

荒れた大地に足をとられ、無様に地を舐めた。

顔を上げた時にはもう大蛇は崖に落ちていくところだった。


あっけない。

僕を食べて強くなった大蛇も、

僕を助けてくれたラビさんも、

目の前で消えてしまった。

僕は、何も、できなかった。

半端な作戦をたてて、

メメに頼って、

会ったばかりのラビさんに頼って、

僕は何もしてない。

ラビさんは僕の代わりに作戦失敗の責任を負ってしまった。

あの役はきっと僕がやるべきだったのに。


後ろからメメがたどり着いて、僕を起こしてくれた。のそのそと立ち上がる。

辺りはさっきまでの騒ぎが嘘のように静かだ。ラビさんがいなくなったことを僕に証明するように。

トボトボと崖の方に歩く。何の音も聞こえない。

崖からまっ逆さまに落ちたのだ流石にあの大蛇でもただではすまない、はず。

でなければ一緒に落ちたラビさんがあまりにも報われない。

僕は崖下を覗き込む。

眼下には鬱蒼とした森が広がっている。かなりの高度だったのだろう。大蛇の姿は見えない。

ラビさんの姿も…

「ぅぉーぃ…」

幻聴まで聞こえてくる。僕は思ったよりも精神が疲労している。当たり前だ。自分のせいで人が死んだのだから。

「たっけてー」

「…」

「化けて出るぞー」

僕はもう一度崖下を覗き込む。

すると、岩壁にへばりついたセミみたいな者を見つけた。

「トモリくーん…メメちゃーん…」

「ラビさん!」

「たっけてー」

さっき使ったロープがあればと戻ろうとしたら、一足先にメメがとりに行ってくれていた。

木にロープの片端を結びつけて崖下にロープを垂らす。

ラビさんがロープを伝って戻ってきたとき、僕は安堵した。

「作戦失敗だったけど討伐は成功だねー」

変わらず明るく振る舞う彼女に、彼女の言葉にただ安堵した。


ラビさんに肩を貸し、森の中を歩く。

さっきの大蛇にロデオした時に、大蛇は木の枝やら岩やらにぶつかりながら進んでいた。その時に左足を負傷したようだった。

「もしかしたら、その前のジャンプで痛めたかもだけどね」

ラビさんは朗らかに笑う。

「…すみません」

「何のすみませんだそれはぁ?」

左腕でヘッドロックしながら、頭を撫でられる。

「僕の作戦のせいで…ラビさんは」

「私がのった作戦が失敗して、私が下手をみただけだよ」

「ラビさん…」

「成功率100%の作戦なんてあり得ねぇから。いちいち凹んでたら人生楽しくないぞ?」

「…はい」

「いやぁマジで冒険って感じだったわ、大蛇を叩き落とした私は超カッコいい主人公だったでしょ!」

明るく振る舞う彼女を見てると心が軽くなる。

責任を一緒に背負ってくれる。

意見を聞いて判断してくれる。

そんなことがとても嬉しくて、

信頼してしまう。

僕の2人目の恩人だ。

「武勇伝できたわ。あとでアクとプレちゃんに自慢話として読み聞かせてやろっと」

「はは、じゃあ僕が証人ですね」

「うむうむ、ていうか武勇伝の前にトモリ君に宿の案内しなきゃだね、昼寝スポットと、夜寝スポットと…」

恩人の重みを肩で感じながら僕は歩いていく。

もう片方の肩には1人目の恩人がポヨポヨプニプニしている。

メメも宿に行くのが楽しみなのだろうか。…かくいう僕も少し楽しみになってきた。

どんな人に会えるのだろうか、

どんな関係になれるだろうか、

前世では人に関わるのなんてまっぴらごめんだったが、

今はそれを考えるのが少し楽しい。

隣のウサギの影響だろうか。

きっとこれが成長なんだと思いたい。


ゴゴゴという音が聞こえてくる。

「ラビさん」

「うん」

「何か聞こえません?」

「うん」

ゴゴゴという音が徐々に大きくなってくる。

恐る恐る振り返る。

遠くの森から巨体を引きずりながらこちらに直進する何かが見える。

先程崖から落ちたヒュージバイパーが恨みも携えながらより一層興奮して僕を探してきていた。

「しぶてぇえぇーーー!」

「ラビさん走ります!」

全力で走る、が、大蛇との距離は引き離せない。

万全の状態でも逃げれなかった相手だ、今はラビさんに肩をかしてる状態で逃げきれないのは誰が見ても明白だ。

轟音が近づく、全滅は目前だ。

だからこそ考える。

足を動かしながら、それ以上の早さで頭を回す。

「メメ!ラビさんの真似できる?」

メメは一瞬ビクッとしたが、すぐにいつものプルプルに戻る。肩から足の方に移動していく。

「ラビさん!」

「うぇっ!なにっ!?」

「さっきのジャンプもう一回出来ますか!右足で!」

「そりゃできるけど右足だけじゃさっきみたいには跳べないよ」

「お願いします!全力で!」

ラビさんは僕の言葉にビックリしたみたいだけどすぐに力を溜めはじめた。

筋肉が盛り上がる。

リミッターが外れたように際限なく。

「今です!」

言葉と同時に爆音が響く。

右肩と左足が吹き飛ぶような感覚。

風をきる肌の感覚。

そして落下していく重力の感覚。

僕達は大砲の砲弾のように空中を移動した。

目標はラビさんの宿屋。

ただ、今回の作戦も失敗だったかも。

速度が、ちょっと、のりすぎたかも。

「「誰かとめてぇえええ!」」


壁やら屋根やらを突き破ってようやっと砲弾は止まった。ラビさんは横でのびている。

僕は立ち上がって状況を確認しようとしたが、左足が動かなかった。見ると左足の膝から下はぐちゃぐちゃになっていた。

力の反動だろうか、ハッとなって僕はラビさんの足を確認した。

ラビさんの足は両方とも無事だった。僕の足とはそもそも出来が違うというか、筋量が違うって感じかな。

と、それはいいとして、誰かに伝えなければ。

大蛇が迫っていることを、床を這いずってでも…

「おーい」

「!」

「入るなら入り口から入ってほしいんだがな」

男性がそこに立っていた。くたびれた印象の男性は大して驚いていないように空からの闖入者を迎え入れる。

「うわ。お前足大丈夫か」

「あ、大丈夫です痛みもないし」

「うへー…見る方はただただいてぇわ。おい、ウサギ起きろ」

ペチペチとラビさんの頬を叩く。

「うぅ、果物具沢山ゼリーが食べたい…」

「いいから説明をしろ」

頬をつねりあげる。確かに見る方は痛いな。

「いひゃい!いひゃい!やめろぉ!」

「説明」

「やべぇ大蛇が迫ってます!以上!」

男は溜め息をはき、部屋から出ていった。

「私らも連れてけよ!トモリ君運んでー!」

「あ、ちょっと待ってください」

メメに食べてもらわないと。

ラビさんは僕の食事シーンを見てゲンナリしていた。


階段を下りるとそこにはプレゼントに頭を突っ込んだような人が待っていた。

「ラビ殿。今回は上から帰ってきたのですな。まったく人を驚かせるのがお得意ですな」

「好きで驚かせた訳じゃないんですが」

二人とも歓談をはじめてしまった。

「あの…」

「おや?こちらの御仁は?」

「トモリ君、そっちのプルプルしたのはメメちゃん」

「これはどうも、自分はプレゼントと申します」

「あ、どうも…じゃなくて。大蛇は?」

「ああ、それならば今宿のすぐ前におられますよ」

え?

言われるがまま宿の入り口に向かうと、確かに外では大蛇が待っていた。

大蛇は自分の尻尾を追いかけるちょっとお馬鹿な犬みたいにグルグルと回り続けている。

その蛇のすぐ近くにはさっきのくたびれた男性がのんきにタバコを吸っている。

「マジででかいなこいつ…」

「いつもの宿パンチやってくださいよ」

「変な技名をつけるな」

男は懐から小さな何かを口元に運び、ボソボソと何事かを呟く。すると、ほどなくして地面が揺れはじめた。

「トモリ君、どっか掴まっといたほうがいいよ」

ラビさんは宿の柱にへばりついている。メメもそれの真似かわかんないけど違う柱にへばりついている。僕はふらふらと歩きながら入り口の扉にしがみついた。

「全員対ショック体勢いいな?」

男は庭の大木にしがみつきながら問いかけてくる。

「おっけー」

「自分も大丈夫です」

「僕も大丈夫です」

「おっけ…やれ」

その言葉に応えるようにより一層大地が震えたかと思うと宿の周りから巨大な腕が生えてきた。

大蛇よりも大きな腕は轟音と共に蛇を遥か遠くに吹き飛ばした。

「やっぱり宿パンチは最強だぜ!」

「いや…アイツまだ生きてるぞ」

目を細めながら男は淡々と告げる。

「げぇー!生命力底無しか?」

「とりあえずさっさと逃げるか」

男はまたも何かを取り出して呟く。

すると次は、無数の足が生まれてかなりの速度で宿ごと動き始めた。

もはや何でもありだ。

それもいつも通りの光景らしくラビさんはテーブルに突っ伏して「デザート…」だかなんだか呟いている。

「よぉ少年自己紹介といくか」

呆気にとられてる僕に声をかけたのはタバコを吸ってる男だ。

「この宿、人生の寄り道亭の管理人、アクだ」

「あ、トモリ…です。あっちのプヨプヨした子はメメ」

「よし、トモリ。お前行く宛はあるか?」

「?いえ…」

「じゃあお前は人生の寄り道亭の客だな。部屋は空いてる所を使え、地下には入るな、仕事も手伝え」

「は?い…」

「ルールを守ればいくらでも滞在していい。自分の目的が見つかるまででも、死ぬまででも問題ない」

「詮索とかしないんですか…」

「あぁ迷惑な客だったら当たりが強くなるかもな、詮索はしねぇよ、人の事情に首突っ込むのは苦手でな」

それだけ言うとアクは宿屋に戻っていった。中からラビさんとの口論が聞こえてくる。

その喧騒に誘われるように僕も足を踏み入れた。この場所がこの世界での僕の家になるのだと不思議な確信を抱いて、

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