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生殺ジャンクヤード  作者: 綿鎬虎具
5/17

博打うち

…そんで戻ってきたのはいいものの…

私たちが帰るべき方角にはどっしりと蛇がかまえていた。アイドルの出待ちかってくらい。

「ぜーんぜん動く気配ないっすね」

「ですね…」

遠回りで帰るルートもないことはないけど、川渡ったりとか崖キワキワのとこ進んだりとかで初心者にはお勧めできないんだよな。

「トモリ君なんか敏捷とか筋力とか自慢のステータスある?」

「いや、特には…」

そっかぁ…。やっぱりこの道を使いたいな。

「あ、残機は多分無限?なんで自信あります」

「でも、トモリ君相手にとってはパワーアップアイテムみたいな感じっぽいからなぁ」

「栄養豊富ですみません…」

今すぐ栄養失くせといって失くなるもんでもなし。さて、どうするか。

こちらの戦力は可愛いウサギと死んでも死なない男の子とでっかいわらび餅だけ…どないしろっちゅーねん。

「あの…」

服を引っ張られる。顔を向けると相変わらず彼は無表情で言う。

「あの蛇をどうにかすればいいんですよね」

「?そりゃまあ…」

「ちょっと試してみたいことが…」



その怪物は待っていた。

何を?きまっているあの美味い獲物を

一口囓れば身体の奥底に溜まる力を感じた。

本能のおもむくまま二口、三口。

食べれば食べるほど身体には力が満ち、抑えきれなくなっていた。

肥大化する身体に比例して内に潜む食欲も肥大していく。

食べたい、食べたいタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイ

アノニクヲモウイチド



「…マジー?」

そんな上手くいくかー?

「この子結構すごい子なんで十分可能性はあるかと」

メメは自慢げにプルプルと震えている…ように見える。

「すごい博打な気がするけど…しかもトモリ君がミスった時私フォロー出来そうにないよ?」

「自分の面倒くらいはなんとか…やってみたいです」

うーむ…

「ダメ、でしょうか?」

「まぁいっか」

他のいい手も思い浮かばないし、やっぱ作戦考えるの苦手だわ。

「いいんです?」

「いいよー他の手が全く思いつかん。それに…」

これが一番面白そうだ。

「即席コンビネーションで大蛇退治やってみようか」



飢えが脳を支配する。

まだ来ないのか、ならば迎えにいこう。

この森の全てを呑みながら、

メインディッシュの前菜だ。


「!」


遠くに見つけたのは"あの肉"だ。

即座に身体が動く。

弾けるように肉も逃げ出した。

逃がすはずがない。逃れるわけがない。

涎が口内から溢れる。

あぁはやくはやく

お前を食べさせろ。

地面に伏した肉めがけて私は飛びつく

口内にとらえた

と、思った瞬間


大地が、失くなった。



その瞬間を待ち構える。

手にはロープ。それは幾つかの木を経由してトモリ君の死体に繋がっている。

作戦は非常にシンプル。落とし穴だ。

餌となる死体の下の地面はメメちゃんがごっそり穴を掘って(地面を食って)空洞となっており、中には並々とメメちゃんが詰まっている。

大蛇が死体を食いにきたところをメメちゃんが捕獲し、そのまま捕食する。

簡単に聞こえるけど、私の役目もちゃんとある。

トモリ君の死体を食われては大蛇がパワーアップする。どのくらいの成長をするかはわからないけどイレギュラーは排除するに越したことはない。

食われる直前に私がロープで死体を引っ張りあげる。

トモリ君の誘き寄せ、私の牽引、メメちゃんの捕食。どれかひとつでも失敗したら皆全滅だ。

そう考える度に鼓動が早くなる。緊張で心臓が潰れそうになる。あぁ、これがスリルってやつなんだとひとりごつ。面白い、こうでなきゃ、

地響きがここまで届く。

鼓動のカウントダウンがどんどん早くなる。

木のへし折れる音が聞こえる。

おぞましい咆哮が響く。

そして、私は思い切りロープを引っ張った。



ガチン!と牙は虚空を噛む。

身体は沼に沈められたかのように重い。

同時に表面が溶けるような激痛に蝕まれる。

だが、そんなことはどうでもいい。

あの肉はどこだ。

食欲と飢えが身体を動かす。

この沼を吹き飛ばすように激しく。

あの肉はどこだ。

あの肉はどこだ。

あの肉はどこだ。

この沼を出て、あの肉を食わねば。



何一つ失敗はなかった。まんまと罠にはまった獲物はあとは捕食されるのみだ。そのはずだ。

大地が震え、木々がざわめく。

蛇はもがき続けている。何も諦めてはいない。

今にもあの穴から飛び出してきそうだ。

作戦に失敗はなかった。

最初から見誤ってただけだ。

腰の剣に手をかける。

足に力を込める。

目の端に彼をとらえた。私は轟音でかき消えないように叫ぶ。

「作戦失敗だ!」

叫ぶと同時に思いきり跳躍した。図体がデカイってのはいいことだ。つかまりやすい。

大蛇の頭部に飛びつき私は大蛇の片目目掛けて剣を突き立てた。

グチュリと音をたて、突き刺さる。

「メメちゃん!放して!」

大蛇が沼から解き放たれ、痛みと空腹に我を忘れながら前に突進する。

ここら辺の地理は覚えてるんだよね。

「…!」

後ろで誰かが叫んでる。

大蛇は止まらない。

すぐに森を突っ切る。

先には道はない。

ただ落下するだけだ。

そのまま大蛇は崖に呑まれていった。





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