大食漢
森の中は確かにいつもよりザワザワしている。
いっぱしのウサギとして聞き耳たてつつ、ゾワゾワする方へ向かっていく。
進む先からはギャアギャアキャッキャッと動物たちのエレクトリカルパレードや。美味しくないやつ、食いでがないやつ、臭いやつばっかだなぁ。昼ごはんにはなりそうにないぜ。
見た目はウサギだが、中身は人間。ゴリゴリの雑食である。野生の三元豚いないかなぁ…。
品定めをしながら動物たちが逃げてくる先に向かう。ここら辺の動物たちの食物連鎖の頂点はヒュージバイパーという大蛇で、目についた物を全て飲み込む大食漢という非常に可食部位が多い生き物だ。育ち盛りの私にとってはたまに食卓にあがる鰻みたいな扱いだ。人命救助ついでに我が家の食糧確保ができたらなという腹積もりである。
森の中を進み続けて、ひらけた場所に出た。ここまで来ると、何かがぶつかる轟音が聞こえてきた。ヒュージバイパーが獲物を捕まえれずに障害物にぶつかる音だろうが…なんか…いつもよりデカイような…
向かいの森の中から巨体が現れる。暴れるビルでも目前にしたような存在感。…やっぱりいつもより二周り大きいなぁ!
その大蛇から逃げるように1人子供が走ってきた。要救助者?っていうか現在進行形で大ピンチじゃねーか!
「おーい!」
声をかけると、その人物はあろうことか障害物も何もない場所をまっすぐ私の方に向かってきた。
「バッ…」
カと言いきる前にその子の後ろから大蛇の口が迫り、私が剣を抜いた時には目の前でなすすべなく呑まれてしまった。
バカな。障害物もない場所で自分と相手のどっちが速いかくらいわかるだろ。
…いやそんなことに気がまわるほどの大人には見えなかった。ただ必死で逃げてきた子供が助けを見つけたらただまっすぐその助けを求めるのも不思議はない。
「…あのぅ」
私の、判断ミスだ。後悔が胸につまって何も声が出せない。
「…すみません、あの」
いや、だから声でないんだって。察してよ、子供を救えなかった悲劇のヒロインなんだから。
そこには、先程大蛇に呑まれた子供が、無傷で立っていた。
「…ファッ!?」
「そこまで驚きます…?」
「あれぇ!?」
なんでぇ!?
「なんでぇ!?」
声に出ちゃった。
「えっと…諸事情で」
「諸事情で!?」
なんも疑問が晴れない!疑問はまったく消えないけれど確かにここは話す場所じゃない。未だに何かを咀嚼してる大蛇を尻目に二人で森の中に隠れるように移動する。
「なんでぇ!?」
場所を移動して改めて子供に質問する。色んな意味のこもったなんでぇ!?だ。
「えっと、僕死ねないので」
しねないので?何も理解できない私のためにその子は懇切丁寧に教えてくれた。
「つまり、キミも転生したってことやね」
「みたいです」
しかし、不死かあ…
「カッコいいね…」
「そうですか?」
「なんていうかスキルみたいなのがあるのカッコいい。私可愛いウサギなだけだからね」
「はぁ…そうですね」
素直ないい子じゃん。いや、話し通りなら精神年齢は私より上かも。
「それで、あの…」
「ん?あぁ、私の名前はキャロット・ラビウーサ。ラビでもキャロでも好きな呼び方でいいよ」
「あ、僕はトモリって言います。えっとラビさんちょっと手伝ってほしいことが」
「何ぞ?」
「さっきの蛇から逃げてる時に僕の相棒とはぐれちゃって…一緒に探してほしいんです」
「困ってる人は助けましょう!」
「あっはい」
「行くぞ!トモリ君!」
トモリ君を引き連れて私は歩を進めた。面白そうな彼の相棒を探しに。