人生の寄り道
微睡む目蓋を陽射しが差した。朝日が強制的に意識を覚醒させる。
気だるげに目蓋をもちあげる。陽射しが差さないところまでゴロゴロと転がり、もう一度目を閉じた。
「…おい」
嗚呼、惰眠を貪るということはなんと幸せなことだろう。仕事もないし、このまま夜まで寝ますか。
「起きろ毛玉」
夜まで寝たら何するって?夜は寝るわ私いい子だから。夜起きてると怒られんのよ。
「…」
無言でバサッと毛布を奪われた。いやん。
「なーにさ。今日は急ぎの仕事なかったでしょー?幸せを享受してんだから邪魔しないでよ」
「そんなお前に悲しい報せだ。反応がひとつあったってよ。見回りはお前の仕事だから仕方なーく俺が直々に起こしにきたわけ。じゃあ頼むわ」
それだけ言うと男は毛布を持ったまま部屋から出ていった。二度寝を防止された私はのそのそ着替えはじめた。
自室から出て階段を下りるとさっきの男がテーブルにご飯を用意して待っていた。
「目ぇ覚めたか」
「あいー…」
もちろん覚めてない。けど身体は正直ね…テーブルに吸い寄せられるまま座り、サラダを貪る。
「んー…いい仕事してますねぇ。これを作ったのはだれだー」
「目の前にいるぞ」
「ほめてつかわす」
「ぬかせ小動物」
スープを啜ってパンを食べる。
「こんな美女をつかまえてなにを言うのか」
「俺ケモナーじゃないんだわ」
この愚痴と減らず口が擬人化した男はアク。私の上司兼お世話係の可哀想な男だ。この宿屋「人生の寄り道亭」の店主で、いつも忙しく動いている。
「反応は近づいてるんだそうだ。それ以上の情報はゼロ、また部屋に籠っちまったからな」
「わーい最高」
つまり、いつも通りってわけ。
「今度は死体以外を持ち帰りたいね」
「俺は面倒でなければどっちでも」
朝食を食べ終える。デザートも欲しいな…期待した目で見つめてみる。
「…死体以外を持ち帰りたいなら早く行ってこい。デザートは昼か夜につけてやるよ」
「キャロちゃん行ってきます!」
出かける前に壁に掛けてある鉈のような片手剣をベルトに差す。あとはー松明と、ロープと、保存食と、その他諸々ぶちこんだ私特製冒険者セットを背負って準備おっけー。
「デザートは果物のゼリーがいいです!」
「あいよー」
気の無い返事を背中に受けて、いざ!よくわからん反応を求めて!
「おや?ラビウーサ殿お出かけですかな?」
外に出ると出鼻をくじくように即座に呼び止められた。そこには籠に果物を収穫している包装されたプレゼント頭姿の男がいた。
「プレちゃんは朝早いねぇ。あとラビでいいよ、フルネームは長いでしょ」
「いえいえそんなことは」
ラビウーサは私の名前だ。キャロット・ラビウーサ。体が名を表すように即座に生まれたマイネーム。ウサギ獣人だからニンジンとウサギという初対面でもすぐ覚えれる親切仕様。周りの奴らはそもそも名前がどうでもいいとかいう世捨て人ばかりなので私が勝手につけて勝手に呼んでる。
目の前の子はプレゼント。見たまんまをつけた。プレゼント頭の部分はマジで身体の一部のようでおはようからおやすみまでずっとおめでたい雰囲気だ。
「新しい反応が出たから探ってこいって言われてさ」
「おお、新しい方ですか。早く見つかるとよいですね」
「ホントはやく見つかるのを祈ってるよ」
挨拶もそこそこに私はプレゼントに別れをつげて森の方へ歩いていく。
「お仕事開始じゃー」
新メンバー加入なるかってね。