自分ができること
夜が明ける頃にもトモリ殿は帰ってこなかった。
何か不測の事態が起こっているのだろう。
家を出て周りを確認する。外を出歩く人影はない。
この村には外を出歩ける程健康な人物が存在しないんだろう。この村に訪れた時と同じように静寂が満ちていた。
トモリ殿を探さなければ
捜索しようとした自分を止めるようにメメ殿が現れる。
トモリ殿が自分達を警備するように頼んでいたのだろうか。
そうなると、トモリ殿は現在1人で戻ってこられない状況に陥ってるということだ。
「メメ殿、トモリ殿を迎えに行きますぞ」
応えるようにメメ殿は自分の肩に飛び乗った。
懐から紙を取り出す。
「トモリ殿」
「えっ、プレゼントさん」
何かを探りに行くであろうトモリ殿を呼び止める。
自分も置物ではない。トモリ殿がこの村に疑念を抱いているのを感じていた。
かといって、頭から疑うのも正しいとは思えない。
自分が信じて、トモリ殿に疑ってもらう。
トモリ殿に損な役回りを押しつけることになってしまうが、彼にはメメ殿もついている。だから、これは本当に最後の保険のようなものだ。
「少々お願いしたいことが…」
「何ですか?」
「この紙に『僕を見つけてください』と書いていただきたいのです。あっ、ちゃんと心を込めてですぞ」
「?」
紙とペンを手渡す。
「それだけですか?」
「えぇ」
不思議な顔をしてトモリ殿はペンを走らせる。
「これでいいですか」
「はい、確かに」
「これ…何なんです?」
「お守りのようなものです」
そう、使わないに越したことはない。
だけれど、
「自分にはこれしかできませんからな」
紙を握りしめる。
「その願い聞き届けましょう」
言葉を口にすると願いの書かれた紙は薄く発光し、粒子になって手から消えていく。
同時に頭の底に何かが溜まっていく感覚。
目眩が訪れ、そして次の瞬間には視界が開かれていく。
これで準備は整った。
自分だけにできる特殊な力。
他人の願い事を叶える力だ。
使用条件は簡単で、紙に願いを書いてもらいそれを持って自分が叶えると宣言するだけだ。
自分に叶えられるものなら思った通りに、
自分の手に余る願いなら思わぬ形で叶ってしまう。
願いを運命として確定する力だ。
非常に便利な力に思えるが、代償がある。
願いを叶える度に頭の中に何かが溜まっていく。それは元々あるはずだった運命の残滓か、自分の我が儘に対する天からの罰なのか、積もるごとに不快感や焦りが増していく。
この何かが自分の頭を埋め尽くした時にはただではすまないのだろう。
使いどころを間違えるわけにはいかない。
いつか、助けを求める誰かの力になるために。
「行きますぞメメ殿」
教会の近くにまで来た。
庭と思われる場所にはロッカ殿が花の世話のためあくせく働いている。
流石に彼女にバレずに教会に入るには何か方法を考えなければ…
と、思案しているとメメ殿に肩をつつかれる。
「メメ殿?」
メメ殿は何か案があるようで自分を物陰に引き摺っていく。
「任せてよいですか?」
メメ殿は大きく頷いて自分の身体をまるごと包み込んだ。
「フフンフーン♪」
鼻唄を歌いながら、水をあげているロッカ殿の横を通る。
「ん?」
!
「なんか…今日はより一層花が綺麗に咲いてる気がするわ?嬉しいことでもあったのかしら」
ロッカ殿はご機嫌なまま花達を愛でている。
ささっと教会に向かおう。
正面からは流石にバレてしまいそうなので裏手にまわる。
誰にも見られていないことを確認し、メメ殿を脱ぐ。
「うまくいきましたな」
メメ殿の保護色を利用して周りの風景に溶け込む作戦だったが、メメ殿の擬態は非常に優秀でわかっていても見つけられそうにない。
裏手から侵入口を探すとすぐさま裏口らしきドアを見つけた。
「ここからならば…」
ガチャ
もちろん鍵がかかっていた。
「うむむどうしますかな…」
自分が悩んでいると、メメ殿は自分の身体を薄く伸ばしドアのデッドロックをみるみるうちに溶かした。
そのまま遮るもののなくなったドアを自分の前で開けて見せた。
「お見事ですメメ殿」
万能ツールのごとき活躍でスイスイ侵入していくメメ殿に続いて中に侵入する。
自分の方がオマケのようにメメ殿が先導する。メメ殿にはトモリ殿の場所がわかっているようだ。
物音をたてないよう注意して進んでいるとメメ殿がとある場所の前で止まった。
部屋には栽培室とプレートがかかっている。扉に手をかけると自分を招くようにあっさりと開いた。中は箱のような容器がいくつか並べられている。
栽培室という名前から考えるに中に入れられているのはおそらく、発芽してしまった人間なのだろう。
確認するために手近な箱を開けてみる。中に入っていたのは想像通りではあったが自分の予想を裏切るものだった。
中には無数の植物が根を張った人間が横たわっていた。顔を確認できないほどの密度だったが服装で判別がついた。
それは自分が再会を願った変わり果てたトモリ殿だった。




