種が芽吹く
若葉さんは僕たちを招き入れてすぐベッドに腰かけた。
「お加減大丈夫ですか?」
「えぇ、少し立ちくらみするだけです」
「無理せず横になってくだされ。自分達のことは気になさらず」
若葉さんは少し逡巡していたが、
「すみません…お言葉に甘えて…」
と言うとベッドに横になった。
「お水でも飲みますか?」
「おっ!トモリ殿アク殿に頂いた保存食があったではないですか!あれでスープを作って差し上げましょう!」
「いえ…お客様にそんなことをさせるわけには…」
「病人は遠慮しちゃダメですよ」
「そうですな。安心して待っていると良いですぞ」
プレゼントさんが立ち上がろうとした若葉さんをまたベッドに横にさせる。「あぅ…」と、何か言いたげだった若葉さんも観念したようで大人しくなった。
「お鍋とか使って大丈夫ですか?」
「…はい」
飲み水を鍋に張り、アクさんに貰った袋から干し野菜と塩漬け肉を取り出す。肉の方は食べやすいように切り分け、塩を落とす。野菜の方は既に加工されてるのか食べやすいサイズに統一されてた。それらを鍋にぶちこんで沸騰するまで煮る。
「トモリ殿慣れてますなぁ」
「これくらいなら料理の出来ない人でも失敗しませんよ」
浮き上がった灰汁を捨てながら袋に残った塩を使って味を整える。調味料はこの塩しかないのであまり複雑な味にはしようがない。若葉さんはあまり濃い味付けは良くなさそうだ。
「プレゼントさん味見してくれます?」
「承知!」
プレゼントさんにスプーンを渡し、一口食べてもらう。
「旨いですぞ!」
大丈夫そうだ。
「底の深いお皿ありますかね」
「自分が探しておきましたぞ」
一食分を皿によそって、若葉さんに持っていく。
「若葉さんスープ出来ましたよ」
「非常に美味ですぞ!」
若葉さんは横になっている間に少し眠っていたようだ。慌てて起き上がる。
「す、すみませんお客様に料理させて私が寝るなんて…」
「いいですよ。スープ出来たんで飲んでみてください」
お盆に乗せたスープを若葉さんの前に持っていく。
「一人で食べれますか?」
「あ、えと…」
「自分が食べさせて差し上げますぞ」
答えも聞かずにプレゼントさんがスプーンで一口分すくい、若葉さんの口に持っていく。え、え、と言っていた若葉さんも勢いに負けてされるがままスープを飲まされる。
「!美味しいです」
「それは良かったです」
「トモリ殿が鍋に沢山作ってくれましたからな。どんどん飲んでくだされ」
プレゼントさんは次から次にスープを飲ませている。若葉さんはそれにこたえるように次から次にスープを飲んでいる。
親鳥から雛鳥への餌付けか、いや、子供がペットにエサを無限に与え続ける光景の方がしっくり来るな。
あっという間にスープを一杯平らげてしまった。
「とても美味しかったです」
「お口にあって良かったです、残りはまた明日にでも飲んでください」
「さぁご飯が終わったら病人は寝なきゃダメですぞ」
「あわわ…」
若葉さんはさっきからされるがままだ。
「すみません…」
「なぁにお世話は自分の得意分野ですぞ」
プレゼントさんは若葉さんのお世話を楽しんでいるようで、大分張り切っている。
「若葉殿は外の話が聞きたかったのですな?」
「はい、私この村以外のことを全然知らないので、旅をしてるプレゼントさん達の今までの旅の話を聞きたくて」
「お安いご用ですぞ!」
「あ…僕ちょっと用事を思い出したのでプレゼントさんお任せしていいですか?」
「用事ですか?」
僕はまだこの村に言い知れぬ不安を感じていた。花しか生産しない、病人しかいない村。この村には何かがある。
そして秘密の鍵になるのはやっぱり花だ。
で、あればやはりロッカさんの管理している建物。あそこの中は確認しておきたい。潜入できるかどうかはわからないが探せば裏口でもなんでもあるかもしれない。
立ち上がりドアから外に出る。
外ではもう日が落ちて暗くなってきていた。
「メメ」
呼びかけると相棒はすぐに出てきた。
「プレゼントさんと若葉さんを護衛してくれる?」
メメは頷くように上下に揺れると僕の身体から家に飛びついて擬態するように背景に溶け込んだ。何か新しい技を編み出してる。
「トモリ殿」
「えっ、プレゼントさん」
少しビックリした。見ると後ろにプレゼントさんが立っていた。
「少々お願いしたいことが…」
部屋の中に戻ると若葉殿が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「大丈夫ですか?プレゼントさんも一緒に行かなくて…」
「問題ないですぞ。トモリ殿は非常に優秀な方ですからな。さあ自分は今までの旅を読み聞かせましょうぞ」
闇のなかを隠れるように進む。
歩いているうちに暗闇にも目が慣れてきた。
教会の近くまでたどり着く。
さぁここからどうするかなんだよな…
とにもかくにも教会を注意深く観察してみる。未だにロッカさんは何かをしているのか明かりがついている。起きているなら尚更潜入は難しいかも…
裏口を探して見つけはしたものの、鍵がかかっているようだ。
それに潜入できても中でロッカさんにばったりってことになりかねない。
本格的に詰んでしまったか…
と、思った矢先事態が動いた。
「ほらしっかり前見て歩くのよ」
玄関からロッカさんが何かに肩を貸しながら出てきた。そのまま僕が来た方向にヨタヨタと歩いていった。暗さで何を運んでいるのかはわからなかったけど天から降ってわいたチャンスだ。
扉に手を掛ける。ガチャリと扉が開く。
何かを抱えていたせいで鍵をかけられなかったのか、そもそも鍵をかける習慣がないかはわからないが都合がいい。
ロッカさんが帰ってくるまでに早く調べてしまおう。
中は会ったときの話とは裏腹にホコリひとつない整然とした場所だった。
片付けると言っていたし、そのせいかもしれないがそれにしたって塵ひとつ見当たらない教会には得体の知れない恐怖を感じた。
教会内の部屋を1つずつまわってみる。
倉庫には確かに園芸用のスコップやじょうろがしまってあったが、それ以上に目を引いたのは大量の種だった。
倉庫のほとんどは種の保管に使われているようだ。
肥料もなにもない。まるで植えられればいいと言わんばかりだ。
次は保管室と書かれている場所。
中に入ると大量の棚とそこに飾られるように置かれた無数のガラスの容器。それら全てに様々な色の花が入れられている。
容器にはラベルが貼ってある。
書かれているのは番号のようだ。
全ての容器を確認してみたいが余りに膨大な量だ。ロッカさんがいつ帰って来るかもわからない以上1つの場所に時間をかけるべきではない。残念だけど次の部屋を探そう。
次の部屋は栽培室と書かれた部屋だ。
プランター等が置かれているのかと予想して入ると面食らってしまった。
部屋には窓もなく、プランターの類いも一切見つからなかった。代わりに大きな箱のような容器が何個も置かれていた。
箱は人間が入れるほど大きい、まるで棺桶のように…
嫌な考えがよぎった僕はその内の1つを開けて確かめようとした。
蓋は重く、持ち上げることは出来ず何とか力を入れて横にずらした。
箱のなかは花で埋めつくされていた。この箱で花を栽培しているのか?なんでそんなことを?
箱の中を探ろうと手を入れる。花をかき分けるように底の方を探しているとすぐに異変が現れた。
人間の肌だ。花は土ではなく人間に根づいて美しく咲いていた。
「タ…ズケ…デ…」
中から声が聞こえる。
まだ生きている。
ゾッとして身を引いた。
箱の中からは助けを懇願する声が途切れ途切れに聞こえてくる。
ここにある箱すべてに人が…
その瞬間後ろから衝撃を受けた。
崩れるように床に倒れた。
僕の意識は日が沈んだように途切れた。




