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生殺ジャンクヤード  作者: 綿鎬虎具
10/17

華生圏


しかし、どこもかしこも花、花、花、花だらけだ。進めど進めど目に入るものは花とそれに引き寄せられる虫たちだけで、狂暴な獣や怪物は影ひとつ見当たらない。

「何故なんだろう?」

「トモリ殿?何か気になることでも?」

疑問をプレゼントさんと共有する。

「あまりにも敵性生物がいなさすぎますよ」

「ふぅむ…確かに。何かの生物が暮らしている痕跡は今のところないですな」

そんなことが有り得るだろうか。

少なくとも自然ではない…と、思わされる。

「土を荒らす生物が居ないとは、花達にとっては天国とも呼べる場所かもしれませんな」

プレゼントさんはそう言って笑ったが、僕はこの土地を進む度だんだんと不安を感じるようになっていた。理解の及ばぬ何かがこの場所で起こっているのではないかと。

進めば進むほど花は量を増していく。

まるで深い森の中をわけいるようにその中を進んでいく。

そしてたどり着いた。

花の中に建つ小さな村を僕たちは見つけた。


「たどり着きましたなトモリ殿!」

「…」

「トモリ殿?」

村は石造りの家がいくつも建っていて周りには柵も何もない。どこからでも入れるわけだが。

「本当に危機感がないというか…なんというか」

「この地が余程平穏なのでしょうな」

僕らの侵入を遮る物は何もない。

「住民の方を探してみますか」

「…そうですね」

そうして僕らはこの花の村に足を踏み入れた。


「すみませーん…」

「どなたかいらっしゃいませぬかー!」

プレゼントさんは大声で呼びかける。僕は周りを警戒しながら小声で。

村の中に入っても周りは静かなものだった。家と思わしき建築物からは人の気配はない。村の外とは違って道は石で舗装されている。人の手は入っているようだが…

「自分達は旅の者ですがー!」

プレゼントさんはノンストップで呼びかける。これだけ騒いで何も反応がないと本当に人が居るのか疑わしくなるな。

「…」

ようやく、プレゼントさんが停止した。

僕は水筒をプレゼントさんに手渡す。

「誰も居ませんね」

「うむ…お出かけ中ですかな…」

はぁーっと溜め息をついて、プレゼントさんが座り込む。

「…ケホ」

「あんなに大声で叫ぶからですよ。水飲んでください」

「?自分ではないですぞ?まだ喉は全然平気ですが」

「?でもむせてたじゃないですか」

「…ケホ」

また聞こえた咳は確かにプレゼントさんからではなく、近くの建物の方から聞こえていた。

誰かいる。

建物に近づく。

ケホケホと消え入るような咳が聞こえる。

病人…?

ドアをノックしてみると、小さな声で返事が返ってきた。

「誰ですか…?お母様…?」

「あ…えっと…」

「自分達は外からきた旅の者ですぞ」

「旅の…人?」

ドアがカチャリと開く。

中から出てきたのは白い服にストールを羽織った少女だった。

「えっ!?あの…」

少女はビックリして、おずおずと話しかけてくる。

「頭に…箱が…」

…そうだった。なんかなぁなぁで流してきてたけどプレゼントさんの第一印象はだいぶヤバいのだった。

「うむ!自分のトレードマークですぞ!」

「はぁ…そうなのですね」

トレードマークで納得してくれたのだろうか、人の事情に深く突っ込まない優しさを感じる。

「とりあえず…中にどうぞ。立ち話もなんですし…」

「これはどうもご丁寧に、お邪魔しますぞ」

「あ、お邪魔します」

誘われるまま僕たちは石造りの家に入った。


中はこざっぱりとしており、ベッドとキッチン、小さなテーブルだけのひどく簡素な部屋だった。

「どうぞお座りください。今お茶を…ケホッ!」

「大丈夫ですか?」

「すみません…今日は調子が悪いみたいで…」

「無理なさらず、こちらがいきなり押しかけたようなものですから。少しお話させてもらえればすぐに出ていきますので」

「すみません…」

「えっと…まだ自己紹介もしてませんでしたね。僕はトモリ。こっちの奇抜な方は」

「プレゼントと申します」

「トモリさんとプレゼントさん…私の名前は若葉といいます」

「若葉さん、先程も言いましたが僕らは旅の途中でここに立ち寄った者で、この村には交流や、物資の補充のために来ました。出来ればこの村がどんな村なのか教えてほしいです」

「この村のことですか…あまり語ることは多くないですが、見ての通り花に囲まれた花の村です。私みたいな住民が集まって暮らしています」

「若葉さんみたいって…?」

「病弱ってことです…」

病人しかいない…?

「そんな私達をお世話してくれるお母様がいて、皆安らかに暮らしている村です。交流を目的としているならお母様に会ってみるといいかもです…」

「そのお母様って人はどこに…?」

「村の中心に教会って呼ばれてる場所があります。花に囲まれているので行けばわかるかと…お母様はそこで花の生産管理をしてるはずです」

「花の生産管理?」

「ここは花に囲まれた村、見ての通り生産物も『花』だけです。お母様は食用花や薬になる花を作っておられるのです」

そう言われて、キッチンの方を一瞥する。

「皆さんが食べているのは花だけなんですか?あの、他の物とかは?」

「ありません」

ぞっとする。

そんなはずがあるか。

立ち上がってキッチンの方を調べる。

棚には花を乾燥させたお茶や、収穫したばかりなのか生の花が置かれている。それ以外の食材は見当たらない。

花だけで人間が生きていくためのエネルギーを全て担うなんて不可能だ。ファンタジーの妖精ならまだしも、見る限り若葉さんは僕と同じ人間だ。

「なんとも、栄養価の高い花なのですな。是非とも種や苗を貰っていきたいのですがそのお母様という方に聞いてみればよいですかな?」

「そうですね…私の口出しできるものではないので…」

だが、何かを隠している素振りでもない。そう見えるだけかもしれないけど、少なくとも彼女は知っていることいつもやっていることを正直に話しているように見える。

「それじゃあそのお母様という方に会いにいってみますか」

「ですな!若葉殿、お話ありがとうございました」

「いえ、お力になれたなら良かったです」

若葉さんは僕たちを見送ろうと立ち上がろうとするが、

「ケホケホッ!」

と、咳き込んでしまう。

「大丈夫ですか?」

「えぇすみません…お母様以外の人と話すのは久しぶりで、ちょっと話しすぎたかも…」

「ご自愛なさってください」

「ありがとう…」

扉を開けて外に出る。と、

「あの…」

若葉さんに呼び止められる。

「何ですかな?」

「もしよければ…ここでの用事が終わったときまた、ここにお話に来られませんか?今度は私外のお話聞いてみたいです」

「もちろん良いですぞ!ねぇトモリ殿」

「そうですね」

「ありがとう」

若葉さんは儚げに笑った。


若葉さんの家をあとにし、教会とやらに向かう。

道すがら、他の家の前を通りすがるとゴホゴホという咳き込む音が聞こえる。

「全員病弱というのは本当みたいですね」

規則正しく建ち並ぶ家と、中から聞こえてくる咳や嗚咽の声。

「…まるで病院みたいだ」

ポツリと呟く。外から見る限り若葉さんの家と同じような大きさだ。間取りも同じようなものだとしたら、病室を連想してしまう。

「お母様って人はこの全ての家を回ってるんですかね」

「相当な苦労ですな」

いくつかの家を通りすぎると周りに花を植えている建物にたどり着く。ここが若葉さんの言っていた教会だろう。

建物に近づくと、1人の女性を見つけた。

花の世話をしている、柔和な雰囲気を感じる女性だ。

「すみません」

「ぴぇっ」

すっとんきょうな声をあげて女性は跳びあがる。

「なななななんですか!?」

「…ごめんなさい驚かせてしまって」

「どどっどどちらさま!?」

なんか…残念な女性のような気配が…

「僕たちは旅の者です。僕はトモリ、こちらはプレゼントさん。この村の代表者がここに居られると聞いてここにきたんです」

「わー!箱が頭に!頭が箱に!」

…僕の話聞いてくれてるだろうか 。

「愉快な方ですな」

「あなたの頭も大分めでたくなってますよぉ!」

とりあえず落ち着くまで待とう。僕は口を噤んでプレゼントさんに詰め寄る女性が落ち着くのを待った。


「いやー旅人なんて初めて見ました。花しかない村ですけどゆっくりしてってください」

「ありがとうございます」

「できるならば、ここで栽培している花の種や、苗を少し頂きたいのですが」

「あぁ!もういくらでも持ってってください!なんならアタシが見繕いますよ!」

「それはありがたい!感謝しますぞ…え~っと」

「自己紹介まだでしたっけ?アタシの名前はロッカ。この華生圏の管理人です」

かしょうけん?

「華生圏っていうのはこの村の名前ですか?」

「いえいえこの地域一帯のことですよ。花咲き乱れ、世にも美しい場所です」

「まったくですな。この地の花達は皆色鮮やかで華やか。生命力に満ち溢れてる印象ですぞ」

「そうなんです!わかっていただけますか!」

「もちろんですぞ!」

がっしりと握手を交わす二人。

花の話題になると二人ともイキイキしてしまい、僕の入る隙間がなくなってしまう。

何か別の話題を…

「あの建物には何があるんですか?」

「えっと肥料とか、園芸用の道具ばかりですよ」

「中を見せてもらうとかは出来ます?」

「おぉ!トモリ殿も園芸に本格的に興味を!」

単に中を見てみたいだけなんだけど。

「ヴぇッ…いやぁ~中はちょっと…」

何か隠していることがあるのかもしれない。ロッカさんは汗をかいて露骨に焦っている。

「人が来るのは久しぶりで…なんていうか中が結構荒れてるというか…」

「少しくらい覗くのもダメですかね」

ロッカさんは中を見られたくないようだ。何か人に見られたくないものがあの建物にはあるのではないだろうか。

「あの…アタシこの建物で寝起きしてまして、そのぅ、結構ズボラで、片付けもろくにしてないので」

「?」

「生活感が残ってるといいますか…そのゴニョゴニョが…」

なんか後半聞き取れなかったぞ? ゴニョゴニョしてて

「し、下着とかですね」

あ、

「す、すみません」

「いえいえ片付けてないアタシが悪いんで…」

すごい気まずい…

「きょ、今日はもう遅いですし、また明日準備しておきますので!」

「わ、わかりました」

「空いている家がまだあるので案内しますよ」

「あ、どうも…」

「トモリ殿」

「何ですか?」

「自分は少し若葉殿の家にお邪魔しようと思ってます」

「若葉さん?」

そういえばまた話をしたいと言われていたんだっけ。それにしてもプレゼントさんからそんなことを言われるとは。

「外の話が聞きたいとのことだったので語り明かそうかと、それに少し…気になるというか」

「いや、いいかもしれません。若葉さんの迷惑でなければお邪魔してみましょう」


案内された家の中を確認する。途中であがらせてもらった若葉さんの家と同じ間取りだ。荷物を置いて直ぐに外に出る。

若葉さんの家はまだ明かりがついていた。

ノックをして呼びかける。

「若葉さん、僕ですトモリと」

「プレゼントですぞ!お邪魔してよろしいか」

静かにドアが開く。

「トモリさん、プレゼントさん、また来てくださったんですね」

迎え入れてくれた彼女は最初に会ったときよりも色白で儚く見えた。

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