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生殺ジャンクヤード  作者: 綿鎬虎具
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墓穴探求

ーー空を見上げても何も見えなかった。

真っ暗な夜は僕の心を表してるようで、何処にも星は見当たらなかった。

ずーっと見ていると次第に空と陸の境目すら曖昧に見えてきて、目を開けてるのか閉じてるのかもわからなくなって、そのまま僕の意識は闇に溶けた。


生まれた頃から要領のいい奴ではなかった。夢もなく得意なこともなく熱意を打ち込む趣味も、やってみたい仕事も、守りたい人も、暮らしのこだわりも、なーんにもなかった。

沢山の他人に心配されたり、迷惑がられたりされながら生きてきた。

大丈夫?

そんなんじゃ駄目だよ?

もっと本気になってみたら?

そんなこと言われても無理なんだ。僕は大丈夫じゃないし、自分が駄目なことを知っているし、今も本気で頑張っているのに。

それでも人並みに誰かの目が気になって、使い古した作り笑顔でずっとその場を逃げてきた。

子供の頃はそれでもよかったけど大人になるにつれて息苦しさと生きにくさだけが増えていった。

そんな自分を好きになれるわけは無くて、誰かがこんな僕を好いてくれるとは思えなくて、誰かに本心を曝すことなんてできなかった。

誰とも関われずにただ生きているだけの僕は自分に存在価値を感じることもできなかった。死にたいと思うことも1度や2度ではなかった。

だからそれはきっと僕の願いが届いた結果なんだろう。

薄れゆく意識の中で僕はただありがとうと感謝の気持ちを浮かべていた。


それからどれほどの時間が流れたんだろうか僕の意識は再び覚醒した。そこは一切の光が無い空間だった。周りの状況が全くわからない場所だったが不思議と取り乱しはしなかった。ただただ死ねなかったことが僕の心を否応なく落ち込ませた。


意識が戻ってから相当の時間が経ったが周りの状況はかわらなかった。一寸先も見えない闇に徐々に不安を覚え始める。ここは屋外じゃなくて屋内なのか?僕の最後の記憶はあの夜空だったのに…誰かが僕を運び出したのか?一体誰が?思考を始めると無性に今の状況を確認したくなる。地面に手をつきながら立ち上がる。天井に頭がぶつかるようなことはなかった。であれば、次は横方向に探りを入れる。おっかなびっくり歩きだした。足に伝わる感触はとても硬質なもので意識を失う前に居た場所とはやはり違うようだ。石畳のような硬い地面を歩いているようだ。……まだ壁にはたどり着かない。だいぶ広いな。その間も足には何かがあたるあたる。かつんこつんという音が空間に響く。音が反響してるって洞窟かなにかなのか?という僕の推測は直ぐに答え合わせが出来た。ほどなくぶつかった壁はゴツゴツとした岩壁だった。

やった洞窟だった、ってわかったところで何なんだ。こんな洞窟が僕の住んでた地域にあったなんて聞いたことがない。一朝一夕で帰れるような場所じゃないみたいだ。…帰る?どこに?何のために?帰っても帰らなくても何も変わらないのに?浮かんだ疑念を振り払い、僕はそこら辺にあった石を拾う。右手で石を持ち両手を壁につく。こうすれば壁づたいに歩いて確かめられる。視界は真っ暗だ、石で傷をつけなきゃ堂々巡りになっても気づかないかもしれない。ただ帰ることを考えなきゃ、それが「普通」なんだから。ガリガリと音を立て、僕は歩き始めた。


結論から言うと、この場所は天然の洞窟のようだった。壁づたいに歩いて自分がつけた傷を左手がなぞったところでこの空間につながる道というものは無いと確認出来た。その後半ばやけくそに地面をゴロンゴロン転がりながらどこかに抜け穴がないか探してみたが床がゴツゴツしてること以外はわからなかった。つまり、この空間を出るには上方向を目指すしかないってことだ。登るの?この岩肌を?あまりに現実的ではない脱出方法は僕から著しくやる気を奪ってくれた。仰向けになって先の見えない天井を見やる。といっても暗くて何も見えないけど…

諦めが早いのは僕の長所であり、短所だった。やる前から結果を想像して勝手に諦めていた。この場所を脱出したいという気持ちが僕には決定的に欠けていた。死ねるならこのまま眠るように死にたい。そう思ったらもう、何も出来なかった。僕は目をつむって死が訪れるのをただ…待つことにした。


ただ眠る日々を続けて新しい発見があった。空腹を感じないのだ。どころか喉の渇きも、寒さも暑さも感じない。生命を維持するための行動を全く必要としなくなった。やはりあの時僕は決定的に何かを失ってしまったんじゃないか。ショックは大きかったが慣れてしまうとひたすら寝続けるこの生活にこの体質はうってつけで、僕はもう10日以上もここで寝転がり続けている。


奇妙な寝たきり生活がはじまって僕の心は落ち着いていた。何日も経ったがこの場所は一切の光が入らず僕の身体は不調を感じない。一人で過ごすぶんには一切の不便を感じなかった。ただただ膨大な時間を思考に費やし、飽きたら眠るを繰り返した。覚醒と就寝を繰り返した果てに降ってわいたのは画期的な脱出のアイデアでもドラマチックな救助の手でもなかった。


ビチャリという音が聞こえて僕は目を開けた。音がした方向に目を向ける、まぁ何も見えないんだけど。その後もビチャリビチャリと水溜まりを踏むような音が聞こえてくる。近づいてきてる…?にわかに不安が浮かんできたが僕はその場を動かなかった。この何かが僕を害そうとも僕は一向にかまわなかった。死に損ねたこの命を奪うために怪物が現れたのだと思うと少しは気が明るくなった。


水音が近く、大きくなると異変に気づいた。暗闇しかなかったこの世界にぼんやりとした光が生まれた。それは徐々にこちらに近づいてくる…音の発生源と光の発生源は同じ物のようで僕はひたすらその光の行く先を見ていた。


光は何かを探すように蠢いている。まるでここに来たばかりの自分を見ているようだった。暗闇の中、親を探す子供のようなそれを見ていると久しく僕の心に哀れみに似た何かが沸き起こってきた。


手を差し出したのはただの気まぐれだった。もう死ぬことしか考えてない僕にとってこの物体は生まれたての赤子のように思えた。だったら昔の僕がうけたように、誰かに心配されるべきだと思ったのかもしれない。


差し出した手にコイツは驚いたようで一瞬ビクリと震えたが、即座に僕の手に纏わりついてきた。比喩でもなんでもなく、僕の腕は生温い液体のようなもので包まれた。瞬間、燃えるように肌が溶ける不思議な感覚を味わった。その感覚は腕から肩、肩から胴体そのまま全身にまで広がった。温かい羊水に包まれるような感覚にやっと死期が訪れたと安堵し僕は眼を閉じた。


存在が消えていく感覚を味わっていたら、衝撃とともに眼が覚めた。場所は…先ほどと変わらぬ洞窟の中だった。死んだはず…だけれど、僕はまだこの世界に存在していた。五体満足で、すぐ近くには先程の光がある。さっきよりも大きくなってるけど、近づくとその子?はまだ先程の僕?の身体をまだ食べている?ようだった。…そう、僕の身体は二つあった。


光の食事風景を眺めながら僕はまた現在の状況を整理していた。

1つ、僕は死亡しても、ほぼ同位置に新しい僕が生まれるようだ。

正にゲームのリスタートのようなものだ。記憶の欠陥も、身体の欠陥もない。何のデメリットもない、死者蘇生だ。この能力がある以上僕は死亡することができなくなったわけだ。寿命で死んだときも復活するんだろうかとか、疑問もわいたがその時になればわかることだし後回しにした。

2つ、目の前の光は人間を食べる、もしくは食べられる雑食だか、肉食だかの何かということ。

普通だったら絶体絶命、ホラー映画のモブの死亡シーンみたいな状況だが、どうせ喰われてもちょっと横にずれるだけときたら緊張も失せる。


僕はまた横になってボーッと光を眺めていた。この状況整理は、僕の気力を著しく奪った。求めていた死を奪われ、この暗闇の中で何を待つべきかと頭を抱えた。いっそのことはやく気でも狂ってしまわないかと思い、ただただ僕は眼を瞑った。


…何時間、何日が経っただろうか、洞窟内は何も変わらなかった。光が僕を食べ、復活し、また食べられていた。飽きもせず僕を食べ続ける光に僕は話しかけた。返事なんて期待してない、何か話したかった。変化が欲しかった。だから僕は、

「キミ、よく食べるね。飽きないのかい?」

と光に話しかけた。

すると、光はピクリと動きを止めた。最初に手を差し出した時にも光は反応していた。あのときは何かの反射行動かと思ったが、この光は僕の言葉に反応しているようだった。そう思うと何だか嬉しくなって、

「責めてるわけじゃないよ。こんな僕でよければどんどん食べるといい」

そういって僕はまた光に手を差し出した。光は僕の手に飛びついてより一層の速さで僕を食べ始めた。その反応が僕は何だか嬉しくて、始めて誰かの役にたてたんだと思い、眼を閉じた。


それ以降光の食事スピードはみるみる速くなっていった。ひとつ、またひとつと僕の死体が増えていく。いつしかそれは洞窟の床を埋め尽くした。自分の死体が増えていく様はなんだか見ていて滑稽だったが、その様子に僕はひとつ面白いことを思い付いた。もしこのまま僕の死体が洞窟を埋め尽くしたらどうなるだろう。上へ上へと積み重なる僕は地獄に垂らされた蜘蛛の糸たりえるのではないだろうか。


…また、何日、何週間も経つ頃には僕の下にはおぞましい量の僕が積み重なっていた。唯一の懸念だった光の食欲もどうやら底無しらしい。僕は揺られるように上に運ばれていった。…このまま上に行くのはいいんだけれど、天井に到着しておしまいっていうオチじゃないよな…


それから何日経っただろうか、天井があるんじゃないかという僕の予想はバッチリ的中することになった。大量の岩に阻まれた僕はため息をついた。よく見れば岩には隙間があるがとても人が通れるサイズではない。

「キミなら通れるんだろうね」

光は僕の身体に夢中で聞いていないようだ。結局この洞窟からは出られない。そう思うとどっと疲れてしまった。何もしてはいないけど、期待はしてたから。僕はまた眼を閉じた。


結局、この洞窟は僕の棺桶でこうなってしまったのは僕の努力やら何やらが足りなかったんだ。そう思っていつものように諦めれば…


眠っていた僕を起こしたのは天井の岩肌だった。…ていうか、近い!近すぎ!もはや僕は一切動けないほど圧迫されていた。光は僕のことなどお構い無しに僕を食べている。

「ちょ、ちょっと待っ」

言いきる前に食べられていた。そして復活。もう入らないであろう空間に人間が一人増える。意識を取り戻すと同時に食べられ、一人増える。食べられ、増える、食べられ、増える。僕の意識のオンオフの間隔はどんどん狭まっていき、そしてとうとう完全にオフになった。


生きてた時はこんな場所には居なかった。でも、同じくらい狭く感じていた。世界に僕の居場所はなくて、潰れてなくなってしまいそうだった。


次に僕の眼が覚めた時、周りには空間が広がっていた。僕の下にはギッチギチに穴に詰まった僕の死体があった。周りには大きな岩が散らばっていた。中からの圧力で天井を崩したらしい。…なんだこの脱出方法。すぐ横には例の光が静かに佇んで?いた。僕が気づいた途端に光は動き始めた。僕を食べるのではなく何処かに移動するように。僕は光の後を静かに辿っていった。


暗い道の中で水音をたてながら移動する光は付かず離れず僕を導いている。不思議な関係だ。この光にとって僕は何なんだろう。食糧を洞窟から連れ出す理由はないだろうし、この光は僕に何を求めてるんだろう。そんなことを考えていると先からかすかな光を見つけたそれは次第に僕の視界を照らし出していた。


洞窟の出口(入口?)にたどり着くと外の世界をやっと眼にすることができた。眼下に広がる一面の森。見渡す限り広がる大陸。飛行機位でかい鳥みたいな生物。

ファンタジーだぁ…ゲームみたいな。こっちにきて色々なことがあったけど、僕はやっと異世界に来たんだと気づくことができた。


あ、そうだ光。光は何処へ行ったんだ?

辺りを見渡すとすぐに見つけることができた。僕のそばでプルプルと震えている液状の物体…いわゆるスライムがそこにはいた。身体がうっすら発光していて、光の差す外で見ると美しくも見える存在だった。


「…どうして僕を外に出してくれたの?」

光はプルプル震えている。答えが返ってくるはずもないけど…

「…ア、ア、ア」

「!」

光は自分の身体を操って言語のような音を発している。僕の言葉を真似たんだろうか?

「…僕が思う何倍もキミは賢いのかも」

まるでクトゥルフ神話に出てくるショゴスだな。僕を学習するために外に出してくれたのかな。外に…


僕はこれからどうしよう。なんとなくここまで出てきたけど。この異世界で、死ねない身体で、僕は何をしよう…

横のスライムを見つめる。プルプルとした表面からは何も感じとることが出来ない。何もわからない。

「…まぁいいか」

ここから出る理由なんて暗かったからとか外に出たかったでいいや。

何の目標もないけど、ただここより素敵な場所に行くために旅してみよう。

「キミも一緒に旅しない?」

そう言うとスライムは5割ましでプルプルする。…これはイエスなんだろうか?

…ずっとキミっていうのもなんか味気ないよな。名前…何か…好きな言葉…

前世からネーミングセンスは無かったな…死ぬことしか考えてなかったから…

「メメント・モリ…」

死を想え…ちょっと中2っぽいかと思ったけど、この世界で中2が何かわかる人もいないだろ。

「キミの名前はメメ。僕の名前はトモリ。いいね?」

メメはビヨンビヨン弾みだした。喜んでいるのか?はやくメメが言語を発声できるようにならないと色々憶測で考えることになっちゃうな。そう思いながら僕は洞窟から外の世界に旅立った。僕の光とともに。




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