24、epilogue
エリカの額に汗が滲む。詠唱と共に、左手前方にある魔法陣に魔枝を向けた。反応して明滅する。
「我が親愛にして森羅万象統ぶるところの聖霊よ、我畏み敬って白す。大きなる鉄の車乗りたるかの者に、睡りの業を・・・。傍らなる童の小さきに、苛つの業を・・・」
さらに左手に持つ魔枝を、正面前方の魔法陣に向け、右手の人差し指と中指、二本をたて口元に運ぶ。
「時満ちたり! 来たり給え、勇者 サイトウ タクヤ、ナーザルへ。今ここに、我を抱きて坐しませ!!」
手にした魔枝を下から上へと斜めに振り上げる。
――決まった・・・。これで召喚された勇者さまは、私をお姫様だっこして現れるはず・・・
笑みがこぼれた。
天井の大きな魔法陣が渦巻き、強烈な光を放つ。 その中から何者かが現れようとしている。
「今だわ!!」
魔法陣の中から何者かが現れた瞬間、エリカが跳び上がる。
やがて、まばゆい光の中から、エリカをお姫様だっこして現れた者は・・・
「こころよりお待ちしておりました、勇者さま……」
その顔を見上げたエリカの眉間にしわが寄る。
「誰だ、お前は? なぜ私に抱かれている?」
訳も分からず、ミィーリィーが辺りを見回して言う。
皇帝カイエルはじめ、集まった帝都の者たちがあっけに取られている。
ミィーリィーの腕の中から跳ね下りたエリカが叫ぶ。
「おのれ! 悪魔、なぜここに!!」
「そっちこそ何者だ? ここはどこだ?」
「勇者さまはどこ!!」
「そうか、タクヤ!」
ミィーリィーが周囲を見回した。
すぐに、エリカとミィーリィーがにらみ合い対峙する。
「なによ、なれなれしく勇者さまの御名を呼ぶんじゃないわよ!!」
「貴様こそなんじゃ?」
「さてはアンタが勇者さまに憑りついた淫魔ね、悪魔退散!!」
エリカが魔枝を振り下ろす。居合わせた者たちも剣を抜き、一斉にミィーリィーに襲い掛かった。
「貴様らあぁ~~!!」
声と共にミィーリィーがインクバスに変身して、電撃を放った。返り討ちにあった者たちが吹き飛び、床に大きなクレーターが出来た。
そのまま舞い上がったミィーリィーが、王宮の天井を突き破り、空に飛び出した。
「大丈夫か、エリカ!!」
ピーターとフィリップスが駆け寄ってきた。
「一体、どういうことだ」
皇帝カイエルもエリカの傍にやって来た。
「恐らく、あのサクバスが召喚の儀の邪魔だてを・・・」
エリカがこの騒動で汚れた顔を拭おうともせず、厳しい表情でつぶやく。
「しかし、困ったことになったな。勇者の召喚に失敗したとなると・・・」
難しい顔でフィリップスが言う。
「いいえ。御心配には及びません。今度は私が勇者さまを、直接ニーポンにお迎えに上がります」
口元をキュッと締め、眉を吊り上げた表情に、彼女の秘めた決意がうかがわれる。
「俺は絶対行かねえぞ!!」
ピーターが叫んだ。
一方、帝都の王宮から脱出したミィーリィーは、一路魔王城を目指す。
――そうか、タクヤの代わりに私がとーらっくに撥ねられ、ナーザルに戻ったという訳か。だが、このままでは終われん。待っていろ、タクヤ。必ずニーポンに戻るぞ!!
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