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15、刺客


 会議場に入って来た召喚術師エリカが、皇帝カイエルにしばし頭を下げる。ゆっくりと顔を上げたエリカを一同が注目する。


「お初にお目に掛かります、皇帝陛下」

 小柄な身体に幼い少女の顔立ち、淡い桃色の髪。ロングでタイトな薄桃色のスモックドレス、その上に濃い桃色のマント。右手には暗い桃色の(かし)(じょう)、先端がぜんまい状になって、そこだけ薄青く光って常に魔法陣が渦巻いてる。


 会議場にどよめきが起こった。

「はっ! まだ子供ではないか。このような小娘に、勇者の召喚などという、今までに例のない儀式の術師など務まるものか! フィリップス様も焼きが回られたか」

 皇帝の側近の一人、ドニエルが笑いながら言った。

 

(なんじ)! 不遜(ふそん)なり」

 声がして、エリカの背後から、突然、光り輝く小さな少年の妖精が飛び出した。蜻蛉(とんぼ)のような薄い羽で、瞬時にドニエルの前まで来ると、すっと、右腕を振り下ろした。と、同時に稲妻が走り、卓上のグラスに直撃し、四散した。

「次は、お前の番だ!!」再び腕を振り上げる。


「おやめなさい、ピーター!」

 呼ばれたピーターはエリカを振り返り、今度はゆっくりと舞い、大人しくエリカの背後に戻った。 

 一同が静まり返る。


「私の使い魔が大変失礼をいたしました。どうか、お許しください」

 無表情でドニエルにエリカが頭を下げる。


 場をとりなすように、フィリップスが立ち上がって話し出した。

(はばか)りながら、ドニエル殿、確かにエリカはまだ、今年(よわい)19の娘ではあるが、今までに多くの妖精、魔獣の類を召喚している。実力は私が保証する。先般の『西方の城壁の戦い』において、召喚した数多(あまた)の聖獣、魔獣を使役し、魔王軍の撃退に貢献している。彼女こそ、当代きっての召喚術師と言えましょう」


「おおっ! そなたがあの時に聞いた女召喚術師か!!」

 皇帝カイエルが叫んだ。

 会議場内からも驚きの声が上がった。


「聞いておるぞ、よく来てくれた。 一刻も早く真の勇者、サイトウ タクヤを召喚してくれ!!」

「はい。しかしながらこの度の勇者召喚の儀ばかりは・・・。私にとっても初めての経験、どのようことが起こるかわかりません。万全を期すため、少しばかりお時間を頂戴(ちょうだい)したく」


「もはや、そんなには待てんぞ。どのくらいかかるのだ?」 

「はい。フィリップス様の(えき)によれば、この12の月、25の日。その日こそ、ナーザル、ニーポン、ともに最も吉なる日。その日に勇者召喚の儀、執り行いたいと存じます」



 ****



「ありあっしった~」

 言葉と同時に頭を下げる。

「斉藤君、もうちょっとはっきりと挨拶(あいさつ)してね。もうレジいいから、後ろの方の床が汚れてたんで掃除しといてくれる?」

 店長が言った。

「あ、はい」

 ホウキとちり取りを持って店の奥へ向かった。


 あの後、タクヤは妙子にお金を渡し、心配するミィーリィーと別れ、自分はバイト先のコンビニに向った。

 普段は深夜中心でシフトに入るのだが、ミィーリィーが来てからというもの、不意に精気を吸われて動けなくなったりして、何度か休んでしまった。その時交代してもらった人の分の借りを返すべく、今も働く羽目になってしまった。



「あの、すみません、外のゴミ箱に、コーヒーのカップと一緒に大事なものまで捨ててしまって・・・、(ふた)を開けてもらえませんか?」

 レジで薄手のグレーのジャケットを着た若い女が店長に話し掛けている。

「ああっ、はい。少々お待ちください」 

 他のお客のレジ対応中の店長は、「ちょっと、斉藤君、みてくれるかい?」と叫んだ。

「あっ、はあ~い。どうぞお客様、こちらへ」

 そう言って、タクヤはホウキとちり取りを持ったまま、女と一緒に店の外へ出て行った。

 

「どのゴミ箱ですか?」 

「これです」

 言われたゴミ箱の上蓋(うわぶた)を開けて覗き込んだ。

「そんな大事な物って、何ですか?」

「それは・・・」

 そう言って、女がタクヤの背後から(かぶ)さるように覗き込む。(かが)んでいるタクヤの後頭部に丸く柔らかいものが当たった。


――えっ? 胸!? これって、もしかして、役得(やくとく)ってヤツ?

 我知らずタクヤの顔がニンマリする。


「あ、あの、探すモノがなんだかわからないと探しようが・・・」

「そうね…、とっても、とっても大切なもの……」


――そう! アンタの命さ、勇者さまっ!!!

 叫んだ女が、いきなり、細い鎖をタクヤの首に巻き付けた。


「ぐっ、く、苦しい・・・」

 巻かれた鎖を掴んで外そうとするが、女とは思えない強い力で、とてもではないが外すことが出来ない。

「お、お前、ナーザルの…」

「ええ、そう。みんなが待ってる。とっとと死んで、転移してもらわないと困るのよ。このまま死んでちょうだい、勇者様!」

「そんなこと、言われても…。 ぐっつ…」


 次第に意識が朦朧(もうろう)としてきた。――俺、女の子に絞殺(しめころ)されて死ぬの? 例えドМなヤツでもそんなのイヤだろ! いや、俺、Мじゃないけど……


 薄れる意識の中で、馬鹿な考えが浮かんできた時、大きな音がしたような気がした。

 不意に首に巻き付いた鎖が外れた。


 大きく息を吸い、次第に意識が戻って来る。


 目の前に、さっきの女が倒れている。


「大丈夫か、タクヤ、しっかりしろ!!」

 気がつくと、ミィーリィーが自分を抱き(かか)えてくれている。


「お兄ちゃん、しっかりして!! どうしてこんな、こんなことに……。

――女の人に恨まれて殺されかかるなんて、一体、この人にどんだけ酷いことをしたの? さすがは鬼畜ね!!」

 駆け寄って来た妙子が心配しながら(ののし)った。

「お~い、相変わらず、兄への思いやりゼロの発言だな!」

 起き上がったタクヤが怒って妙子に言う。


 その時、転がっていた女が急に立ち上がり、逃げ出した。

「待て! 貴様!!」

 ミィーリィーが後を追って駆け出した。


 と同時に店内から、

「死んでくれ!! 勇者どの~~~!!」

叫びながら男が飛び出して来た。手にした鞄の中から包丁を取り出して構え、そのまま腰にあてて突っ込んで来る。


「しまった、もう一人いたか!」

 女を捕まえたミィーリィーが振り返った。


 タクヤは妙子を自分の背後に隠し、そばにあったホウキを、柄の方を上に手に取って構え、一拍置いて男に向って行った。


「コォチェ~~」

小さく、奇妙に? 叫んで、ホウキで男の手首を叩いて通り過ぎる。手にした刃物を落とし、(ひる)んだ男の(すき)を突き、振り返って男の背中を打ち付けた。男はたまらずそのまま崩れ落ちた。


「あっ! おまわりさん、こっち、こっち!!」

 後ろの方で妙子がぴょんぴょん跳ねながら手招きする。どうやら店長が警察に通報したようだ。駅前の派出所からすぐに警官が駆けつけて来た。


「栗田君、奥の倒れている男を確保して!! 私はこの女性を・・・」

 石井巡査長が指示する。

「了解!」

 栗田巡査が走る。


 振り返えると、ミィーリィーが捕まえた女の腕を捩じ上げている。

「ご協力感謝します。あとはこちらで……。ってあなた……」

 石井巡査長が驚いてミィーリィーを見つめる。

「おおっ、いつぞやは世話になったな」

 ミィーリィーがにっこりと笑った。


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