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13、めくるめく「ニーポン」の世界


 見上げる空は青いのに、ときどき吹いてくる師走の風は肌を刺すように冷たい。


 向かったショップで無事目的の物を購入した帰り道、着ている薄手のダウンのポケットに手を突っ込んいると、その腕にミィーリィーがそっと(つか)まってきて、今まで女性と腕を組んで歩いたことのないタクヤは、それだけで上機嫌だった。


 欲しかった商品を手に入れた喜びよりも、ショップ店内のキラキラした装飾や、美しくディスプレイされた圧倒的な商品群を見て、目を丸くしているミィーリィーがタクヤには新鮮だった。  


 いつも大人っぽい言動のミィーリィーの、隠れた一面を見たような気がした。もっとも、大人っぽい言動とは裏腹に、その顔は少女の面影を十分過ぎるくらいに残しているのだが。


「もう帰るのか?」

「そりゃ、もう。早く帰って、コレ見たいですからね!」

 タクヤがそう言った時、間近に見える高層ビルを見上げてミィーリィーが尋ねた。

 

「それにしても、向こうに見える巨大な城は誰の居城なのだ? ニーポンの王でも住んでいるのか?」

「ああ、サ〇シ〇イ〇ですか。まあ、建てられた頃は日本一高いビルだったらしいですけど。今じゃ5、6番目くらいなんじゃないですかね」

「なに!? これよりも大きな城がそんなにあるのか? おそるべし、ニーポン国。圧倒的な物量だな。どおりであれだけの数の勇者を送り込んできたわけだ…」


 振り返り、子供のように驚くミィーリィーの顔がかわいらしく、タクヤは少しドキリとした。

「行ってみます?」

「おおっ! 城の中に入れるのか? さすがは勇者どの、国王にも顔が()くのだな!!」

「いや、まあ、城じゃないですけどね・・・。王様も居ないんで、誰でも入れますよ」



 道々、いろいろなキャラの衣装の人たちが行き来している。それを見てミィーリィーが不思議そうな顔で見送る。

「ああ、今日はコスプレのイベントをやっているみたいですね」

「随分奇妙な格好をしているな。ナーザルに住まう者たちのような出で立ちの者がいるかと思えば、ニーポンでも見かけないような姿の者もいる」

「まあ、コスプレですから。現実には存在しない人物になりきって楽しんでいるわけで・・・」

 すると何かを見つけたように、不意に立ち止まったミィーリィーが、タクヤの腕を離して叫んだ。


「ガスべル、ガスべルではないか! お前もニーポンに転移して来ていたのか!?」

 叫んだミィーリィーが駆け出して、小悪魔のコスプレをしている三人組の女の子の一人の手を取って話し掛けた。


「えっ? 私、どっかで会いましたっけ?」

 突然飛び出してきたミィーリィーの熱量に押され、言われた方は少々怯えている。

「何を言う! もう、4万年以上の付き合いではないか。白々しい」


 最初は何かの演技かも、こちらもノリで返した方がいいのかと迷っていた三人組も、ミィーリィーに危ない人の雰囲気を感じ取り、

「ごめんなさい、人違いだと思います~~!!」と叫んで逃げて行った。


「おい、ガスべル、待たんか! どこへ行く!」

 追い掛けようとしたミィーリィーに、

「たぶん人違いですよ、美里さん。それにこの先は入場券がないと入れませよ」と言って、追いついたタクヤが腕を掴んだ。

「だが、しかし…。あれは確かに…」

「まあ、世の中にはよく似た人が三人はいる、とか言いますからね。美里さんの場合、本当に異世界から来たんだったら、こちらに三人、向こうに三人、都合六人はいるわけです。ハハハ・・・」



 その時、少し離れた場所でこちらを見ていた、ファンタジーゲームの冒険者のような服を着た男が、静かに近づいて来た。


 男はおもむろに腰に手をやると、素早く()いていた短剣を引き抜いた。弱い冬の日の光を反射し、刀身が瞬間(きら)めく。——と、見るや、短剣を構え、何やら叫びながらタクヤに向って猛然と突進して来た。 

「勇者殿、お命頂戴、もはや猶予がありませぬ!!」


 それに気がついたタクヤだが、一瞬のことに反応できず、動けない。

 瞬時にミィーリィーが短剣を突き出してきた男の手首を打って叩き落した。アスファルトの地面に落ちた短剣が、ギンッと高く重たい音を周囲に響かせた。


「うっ…」

 よろめき、男は一瞬(ひる)んだが、振りむいてミィーリィーの顔を見て睨んだ。が、そのまま背を向けて駆け出した。

「貴様! 何者だ!?」ミィーリィーが後を追い掛けようとした。


「これって、本物!?」

 短剣を拾い上げたタクヤが、刀身を見て呟いた。


 次の瞬間、どこから現れたのか、騎士の鎧を身に着けた男が、後ろから剣を振りかざして、ミィーリィーに斬り掛かった。

ミィリー(美里)!! 危ない!!」気づいたタクヤが叫んだ。


 声に振り向いたミィーリィーが身を(かわ)すが、左腕を騎士の剣が(かす)めた。服の袖を切り裂き、開いた傷口から鮮血が飛ぶ。

「くっ!」

 斬られた左腕を押えてミィーリィーが片膝を着く。目の前で鎧兜の騎士が再び剣を振り下ろしてきた。


――やられる・・・


 そう思った時、ガチッという音が響いて、小さな火花が散った。タクヤが手にした短剣を両手で支え、騎士の振り下ろした剣を受けて止めている。


「……タクヤ!!」

 叫んだミィーリィーが跳び上がり、回し蹴りで騎士の首を蹴り倒した。そのまますぐに転がった剣を拾い上げると、よろよろと起き上がった騎士の首を素早く刎ねた。宙に舞った首と胴体が一瞬で光の粒子に変わり消滅した。



「美里さん!! 大丈夫!?」

 タクヤが駆け寄って来た。

「あいつら一体……」

「タクヤこそ大丈夫か? すまない、守ると言っておきながら、油断した…」

 ふと見ると、遠くでこちらの様子を伺っていた、先程の冒険者風の男が走って逃げて行くところだった。

―—追いかける余裕はないな… 一体何者だ?


「しかし、流石は勇者どのだ」

「ああ、なんか夢中で」

「命拾いをした。礼を言う。剣の腕もなかなかのモノだな」

「いや、俺ずっと剣道部だったから、って関係ないか。そんなことより、腕大丈夫? 血が出てる」

「大丈夫、こんな傷、こうすればすぐに治る」


 そう言うと、ミィーリィーがいきなり身を寄せ、タクヤの唇に口づけた。

「ん~っ!!」タクヤが目を()いて(うめ)く。

 精気を吸い、みるみる自分の腕の傷が塞がっていくのがわかる。


 これを見て、騒ぎに集まっていた人々から「おおっ!!」というどよめき、大きな歓声と盛大な拍手が沸き起こった。何事かと見ていた人々も、最後の二人のキスで、やはり何かのイベントでの寸劇だったのだと納得して帰って行った。


 しばらくして、後ろから

「ちょっと、君たち、許可もなく、こんな所でいきなり演劇とかされちゃぁ困るんだよね」と、声を掛けられた。

 タクヤが恐る恐る振り向くと、警察官とコスプレイベントの関係者らしき人が、怖い顔で立っている。


「ご、ごめんなさぁ~~い!!」

 叫んだタクヤがすぐにミィーリィーの腕を引っ張って逃げ出した。

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