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3.まさかの脈あり

 本日のアンジュも、少しばかり雰囲気が違う。そう皆が訝しる中、アンジュはこれからどう振る舞おうかと模索していた。

 元々のアンジュは『ガサツ』ではあるが、特に性格に難があるわけではない。仕事も人間関係も何も問題なく、ただ結婚願望が強いというだけの残念なガサツな美女だった。

 前世の記憶があるからといって、基本的なことは変わらない。寧ろ結婚願望が更に上乗せされたくらいだ。

 

 ただ精神年齢が高くなった分、落ち着きが出てしまうのは仕方のないことだろう。それを人は『成長』と呼ぶのだろうが、一日二日で急に落ち着くというのも、無理があった。その考えに至ったところで、アンジュはいい解決策はないかと考える。


「う~ん……まあいっか」


 早々に諦めるアンジュであった。



 申し送りのあと、夜勤の看護師たちが退勤すると、途端にアンジュたち日勤は忙しくなる。その忙しない時間が一段落する頃に、患者たちへの面会が開始された。

 

 今日も自分の担当する患者たちの彼女が来るのだろうと、アンジュは昨日のイチャつきぶりを思い出してうんざりとしていた。それでも魔導部隊の隊長が独身だと教えてくれた彼女には、悪いことをしたなと、少しばかり肩を落とす。折角教えてくれたのに、アプローチの仕方を間違えて、台無しにしてしまったのだ。

 振られた挙げ句、お詫びもしなくてはならないと思うと、アンジュの気持ちはズンっと沈んだ。


 面会開始時間となり、最初は誰の彼女さんが来るのかと密かに一人で賭けていたアンジュだったが、予想は大きく外れてしまう。

 最初に現れた人物、それは昨日アンジュが声をかけた魔導部隊の隊長だった。


「おはようございます」

「お、おはよう、ございます」


 アンジュがその姿を認め挨拶をすると、少しぎこちなく、隊長が挨拶を返す。昨日と同様に小さな花束を手に持っていることに、マメな人なのだろうとアンジュは思った。


「あ、あの、昨日は名も名乗らず、失礼しました」

「いえいえ、私も名乗りませんでしたからお相子ですよ」


 勢い込んでそう告げる隊長に、アンジュは物腰柔らかく笑顔でそう言う。

 そんな優しい表情をみせるアンジュに、隊長は頬を赤らめた。その様子にアンジュは『おや?』と首を傾げる。

 昨日は脈なしだと思ったが、意外にこれはいけるのでは、とアンジュはじっと隊長を観察した。


「申し遅れました。私はジェイクです。ジェイク・オールディスです」


 胸に手を当て、腰を少し折ったジェイクは、何故か手に持っていた小さな花束をアンジュに差し出した。そして何となく、流れでアンジュはその花束を受け取る。


「私はアンジュ・ベントです。よろしくお願いします。あの、それで、この花束は私がもらってしまってもいいのでしょうか?」


 可愛く見えるように首を傾げ、少し困惑した表情を作る。そのあざとい仕草に、近くにいた同僚たちが『またやってるよ』というような呆れた目でアンジュを見遣った。それをまるっと無視して、アンジュはジェイクを見つめた。

 アンジュよりも濃い金髪に碧眼。なかなかに整った顔は童顔で、可愛いという言葉がぴったりだと、アンジュは舌舐めずりした。


「はい! それはベントさんへの贈り物です。小さくてすみません」


 モジモジとしながらそう言うジェイクは、アンジュの好みどストライクだ。女慣れしていないおどおどした仕草は、自分色に染めるには打って付けだと鼻息を荒くする。そして『おーおー、可愛いのう』などと、どこぞの中年親父のようなことをアンジュは心の中だけで思っていた。


「まあ、ありがとうございます!」


 にこやかにそう言うと、途端にジェイクは真っ赤になった。

 何度も言おう、アンジュは顔だけは良いのだ。


「それで、ベントさん! 今度お休みの日にでも、一緒に出かけませんか?」

「え?」


 姿勢を正し、上を向いてギュッと目を閉じ、ジェイクは意を決してアンジュを誘う。

 昨日の夜にでも一生懸命練習したのかな?などと思いながら、アンジュは微笑ましい気持ちになった。


「まあ、嬉しいです! 私の今度のお休みは明日なんですけど、流石に急ですから次のお休みにでも……」

「いえ、明日! 明日にしましょう!」


 アンジュが言い終わらない内に、ジェイクが言葉を被せてきた。頬を上気させ、拳を握ってそう迫って来るジェイクに、随分と余裕がないなと、その必死さに頬が緩む。


「分かりました。明日ですね。ですが、私は大丈夫ですけれど、オールディスさんはお忙しいのではないですか?」


 討伐の後始末とか、隊長ともなればそれなりに忙しいだろうとアンジュが気にかければ、途端に嬉しそうにジェイクは笑顔を零した。


「いえ、僕の方も大丈夫です。元々あのダンジョンには一個小隊が常駐しているので対応も早いですし、報告書も既に出し終わっていますので」

「まあ、お仕事が早いんですね」


 昨日のことを踏まえ、『頼りになる』とか『慕われている』などの言葉に弱いジェイクをアンジュはとにかく持ち上げた。するとジェイクは酷く照れながら「いえ、そんな」と益々モジモジしだした。


「では明日、どこで待ち合わせましょうか?」


 そろそろ仕事に戻りたいアンジュは、本題へと入る。そのことに、ジェイクがビシッと背筋を伸ばした。


「この辺の土地勘が無いもので、申し訳ありませんが、この病院の前でもいいでしょうか?」

「はい、大丈夫です。病院の裏手が私たち看護師の寮になっていますので、私もその方が助かります」

「そうなのですね! じゃあ、時間は面会開始のこの時間で!」

「はい、わかりました」


 予期せずアンジュの住んでいる場所を知ることが出来て、ジェイクは浮かれた。そしてアンジュは、ギリギリまで寮で寛げると、呑気に考えていた。

 ジェイクとの温度差がどんどんと開いていくことにアンジュは気づかずにいた。

 そのことが後にアンジュを苦しめることになるのだが『この子、チョロいわ』などと最低なことを考えていたアンジュは、知る由もない。


「では、僕はこれで。お仕事の邪魔をしてしまってすみませんでした」

「いえ、とんでもないです。お仕事頑張ってくださいね!」


 入り口まで見送りができない分、満面の笑顔を浮かべると、「はいっ!」とジェイクが上ずった声で答えた。それに益々笑顔を深め、その背を見送ったアンジュだったが、ふとあることに気付く。


「あれ? 皆のお見舞いはしていかないの?」


 首を傾げつつ振り返ったアンジュは、魔導士の面々がしょんぼりとしている姿を見てしまう。


「あらら……早く彼女さんたち来ないかしら」


 今日ほど彼女さんたちに早くお見舞いに来て欲しいと思ったことはないアンジュだった。




お読み頂き、ありがとうございます。

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それを励みに、今後も執筆をしていきたいと思います。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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