今日も頑張れガンバ君
「……むにゃ。これ以上、俺の口に生のラム肉を詰め込まないでくれぇ……」
ピピピピピ!
目覚ましの音が耳に入ってくる。
「ハッ!」
瞼をガッと上げてバッと起き上がってサッとカーテンを引く。
窓越しに入ってくる朝日が暖かい。
「うん! 本日も、興悶ガンバにとって最高の一日になるように務めるぞ!」
朝の宣誓をし、さっそく俺は部屋の外へと出る。
「さて、まずは歯磨きからダァヴァ!?」
右にあるトイレの扉がいきなり開かれ、俺の顔面に激突する。脳にまでその強い衝撃が響いてくる。
「あ、ごめん兄さん。いるの気づかなかった」
冷淡な声で謝罪をしてきたのは、我が妹の無清だ。奴は無表情でドアを閉める。
「気にしなくてもいいぞ! おかげで目が覚めたからな。感謝!」
「うざ」
よし、嫌悪感一〇〇%の返事だ。今日も元気そうで安心した。
俺はささっと歯磨きを済ませ、リビングに行って食パンをトースターの中に置き、スイッチを入れる。
その間に俺は麦茶を飲もうと、食器棚からコップを取り出し……手を滑らせる。
結果、見るも無残にも割れてしまった。
「おおお気に入りだったのにぃ!? ……いや、落ち込むよりもまずは片付けなければ」
とにかく新聞紙を取りに行くために足を動かす。
グサッ!
「うみょおおおおおおお!?」
足にガラスの破片が刺さり、俺は右足を両手で抱えてその場で飛び跳ねた。足の肉が裂かれ、そこに挟まっている。気持ち悪い。それに血が、血がああああ!
「兄さんうるさい。これでさっさと片付けて早く」
無清がひょこっと現れ、新聞紙を一枚だけぽいっと投げ、どこかへ行ってしまった。
とにかく俺は破片を引っこ抜き、残りのガラス片を新聞紙にまとめた。
「よし、何とかなった……と、そういえばなにか焦げくさああああああああ!?」
トースターを見ると、タイマーが止まっているのにもかかわらず、まだ中は明るままだった。つまり焼き続けられているのだ。
急いで取り出し、電源コードを引っこ抜く。
熱すぎて両手をあたふたさせながら確認すると、案の定食パンは黒焦げだった。
だが昨今は食品ロスの問題がある。捨てるわけにはいかない!
「い、いただきます。……むしゃむしゃ。もぐもぐもぐもおええええええええ!」
マズすぎて吐きそうになる。だがそれはだめだ。食べる、食べる、食べる。もしかすると、炭を食べたら同じ味がするのではないかと、よくわからないことを考えながら食べる、食べる、食べる。
なんとか完食した俺は、改めて麦茶を飲み、右足を庇いつつ自室に戻る。
前日に備えていた、教科書などの持ち物に忘れ物がないかをチェックし、リュックサックを背負う。
そして扉に手をかけようと足を前に動かす。
しかしそれは地面に着くことなく……小指を本棚の端に突いてしまった。
「ブッ!? ……ひょ~」
下半身から脳天まで電撃が駆け巡る。もうここまでくると快感に近い。変な声まで出てしまった。
どちらにせよ、本日の俺の右足君はダメになってしまった。残りの時間はは片足で過ごす他あるまい。
より気を使いつつ玄関に向かい、悶えながら靴を履いて外へ出る。
新鮮で心地よい空気が体に染み渡る。太陽光も、窓を介するより気持ちよく感じる。
「フッフッフ。ここまでの不幸は、これから起こる幸福の前兆。つまり! 今日は必ず幸せな一日になるということだハーッハッハッハ! いざゆかん、我が学び舎へ!」
「兄さんうるさい。近所迷惑」
おっと、いつの間にか横にいた無清に注意されてしまった。
「それはすまない! 以後気をつけよう!」
改めて俺は、左足で跳ねながら通学路を進み始めた。
〈了〉