表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

今日も頑張れガンバ君

作者: 天道 一真

「……むにゃ。これ以上、俺の口に生のラム肉を詰め込まないでくれぇ……」


 ピピピピピ!

 目覚ましの音が耳に入ってくる。


「ハッ!」


 瞼をガッと上げてバッと起き上がってサッとカーテンを引く。

 窓越しに入ってくる朝日が暖かい。


「うん! 本日も、興悶きょうもガンバにとって最高の一日になるように務めるぞ!」


 朝の宣誓をし、さっそく俺は部屋の外へと出る。


「さて、まずは歯磨きからダァヴァ!?」


 右にあるトイレの扉がいきなり開かれ、俺の顔面に激突する。脳にまでその強い衝撃が響いてくる。


「あ、ごめん兄さん。いるの気づかなかった」


 冷淡な声で謝罪をしてきたのは、我が妹の無清むきよだ。奴は無表情でドアを閉める。

「気にしなくてもいいぞ! おかげで目が覚めたからな。感謝!」

「うざ」


 よし、嫌悪感一〇〇%の返事だ。今日も元気そうで安心した。

 俺はささっと歯磨きを済ませ、リビングに行って食パンをトースターの中に置き、スイッチを入れる。

 その間に俺は麦茶を飲もうと、食器棚からコップを取り出し……手を滑らせる。

 結果、見るも無残にも割れてしまった。


「おおお気に入りだったのにぃ!? ……いや、落ち込むよりもまずは片付けなければ」


 とにかく新聞紙を取りに行くために足を動かす。

 グサッ!


「うみょおおおおおおお!?」


 足にガラスの破片が刺さり、俺は右足を両手で抱えてその場で飛び跳ねた。足の肉が裂かれ、そこに挟まっている。気持ち悪い。それに血が、血がああああ!


「兄さんうるさい。これでさっさと片付けて早く」


 無清がひょこっと現れ、新聞紙を一枚だけぽいっと投げ、どこかへ行ってしまった。

 とにかく俺は破片を引っこ抜き、残りのガラス片を新聞紙にまとめた。


「よし、何とかなった……と、そういえばなにか焦げくさああああああああ!?」


 トースターを見ると、タイマーが止まっているのにもかかわらず、まだ中は明るままだった。つまり焼き続けられているのだ。

 急いで取り出し、電源コードを引っこ抜く。

 熱すぎて両手をあたふたさせながら確認すると、案の定食パンは黒焦げだった。

 だが昨今は食品ロスの問題がある。捨てるわけにはいかない!


「い、いただきます。……むしゃむしゃ。もぐもぐもぐもおええええええええ!」


 マズすぎて吐きそうになる。だがそれはだめだ。食べる、食べる、食べる。もしかすると、炭を食べたら同じ味がするのではないかと、よくわからないことを考えながら食べる、食べる、食べる。

 なんとか完食した俺は、改めて麦茶を飲み、右足を庇いつつ自室に戻る。

 前日に備えていた、教科書などの持ち物に忘れ物がないかをチェックし、リュックサックを背負う。

 そして扉に手をかけようと足を前に動かす。


 しかしそれは地面に着くことなく……小指を本棚の端に突いてしまった。


「ブッ!? ……ひょ~」


 下半身から脳天まで電撃が駆け巡る。もうここまでくると快感に近い。変な声まで出てしまった。

 どちらにせよ、本日の俺の右足君はダメになってしまった。残りの時間はは片足で過ごす他あるまい。

 より気を使いつつ玄関に向かい、悶えながら靴を履いて外へ出る。

 新鮮で心地よい空気が体に染み渡る。太陽光も、窓を介するより気持ちよく感じる。


「フッフッフ。ここまでの不幸は、これから起こる幸福の前兆。つまり! 今日は必ず幸せな一日になるということだハーッハッハッハ! いざゆかん、我が学び舎へ!」


「兄さんうるさい。近所迷惑」


 おっと、いつの間にか横にいた無清に注意されてしまった。


「それはすまない! 以後気をつけよう!」


 改めて俺は、左足で跳ねながら通学路を進み始めた。


            〈了〉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ