幻想(にちじょう)
4月
親類が行方不明になった。
きっと別に珍しい話でもないんだと思う。私は今までそういう事態に遭った事は無かったけど、テレビとかで普通に見る程度のことだ。
テレビってやっぱり現実だったんだね、って。ちょっとした感慨は有ったけど、現実味はやっぱり希薄。行方不明になったのが、普段あまり顔を合わせていない人だからかも知れない。
だから、私はいつも通りに学校に行って、いつも通りにトモダチと話をしてる。
「でも本当に平気なの?家族とか大騒ぎだったり?」
そんな風に心配してくれているのは私の友達のルミ。
本名は外場るみ、だけどなんとなくカタカナの方が似合う気がする。
「大丈夫だよ。元々あんまり縁は無かったし。最近になって近くに越してきたらしいんだけど、挨拶とかも来てないしね」
「それじゃ近くで行方不明になったってこと?徘徊とかする歳なの?」
「徘徊?無い無い。確かまだ30代だもん。大丈夫だよ」
私は笑って否定したけど、ルミはなんだかシリアスだ。
「そっちの方が問題じゃない。この近くで事件が起きたかも知れないってことだよ?」
「誘拐とかってこと?だったら怖いけど、そういう事件とかってそうあるものじゃないでしょ?ただの失踪だよきっと」
少なくとも、私はリアルでそういう事件に巻き込まれた人なんて会った事も聞いた事も無い。都会の繁華街なんかでは物騒な事件とかもよくあるのかも知れないけど、この辺りは田舎だし。それに、30代独り身の男性なんて誘拐しても何にもならないだろうし。
「佳呼ちゃんの親類・・・やっぱり佳呼ちゃん似で、綺麗な人なの?」
問いかけてきたのは、私のもう一人の友達の美濃利依己。通称エコ。因みに佳呼っていうのは私の名前ね。フルネームは夏飼佳呼。
私達三人ともフツーの女子高生。今まで事件とかに巻き込まれたことは無いし、これからも無いと思う。だから、今回の行方不明もきっと、そんな大した問題じゃないと思う。日常って、そんなサスペンスみたいな展開なんてしないよね。
「目元とか似てるらしいって話は聞いたことあるけど、私も殆ど見たこと無いしよくわかんないなぁっていうか、そもそも私綺麗じゃないんだけど」
と謙遜してみる。綺麗って言われると嬉しいけどね。
「そうだよエコ。そんなお世辞は言わなくて良いんだから」
「ちょっ、ルミ~。そこは敢えて否定しないでよ、友達として」
ルミは基本良い子だけど、こういうとこで冷たいと私は思う。
「友達として。誤った認識が定着しないように正しとかないとね」
そう言って笑うルミ。本当に、冷たいなぁ。
「友達甲斐の無いヤツめ」
「ありがとう」
「褒めてない!」
結局その日はそんな話ばかりして終わった。
行方不明を知ってから一週間が経った。
別に私の生活に変化はない。それはまあ一応は血縁だし、無事であって欲しいなとは思うし、心配しないこともないんだけど。今のところただの失踪のように思えるし、仮に事件だったとしても私に特別何か出来る訳でもない。
そう思ってるうちになんとなく、徐々に何事も無かったかのように日常を続けていく。
結局のところ、周りで何が起ころうとも自分には自分の生活があって、自分の生活より大事なことはない訳で。
「それにしてもさ」
放課後の帰り道、ルミと並んで歩きながら、小さく溜息を吐く。
「ん?」
「随分な話だと思わない?」
「ああ、おじさんの件?」
ルミはこういう時話が早い。察しが良いっていうのかな。
「だってさ、せっかく私たち三人ともまた同じクラスになれて、新学年もこれから楽しみだねって言ってたのにさ」
そう。私たちは去年も同じクラスだった。と言うより知り合ったのが去年で、それからすごく仲良くなって。年度末には『また同じクラスだと良いね』なんて言い合ってたんだよね。それが叶って新学年も順風満帆なスタート!ってところだったハズ・・・だったのになぁ。
「青春を謳歌すべきJKともあろうものが、浮いた話一つもなくあるのは親類の失踪事件とか。どういうこと?って思うよね」
「別の意味で浮いてる話ではあるけどね~」
・・・まあ確かに一般的女子高生が抱えるエピソードにしてはちょっと浮いてるかなって思うけど。なんかルミが上手いこと言ってやった面してるのが絶妙にウザい。
「いや別に上手くないけど。不謹慎ネタやめてもらって良いですか?」
敢えて冷たいトーンで言ってみる。実際のところ、現実味が湧かないから不謹慎だとか本気で思ってはいないけどね。
でもルミは笑顔だ。
「やだなぁ。不謹慎を笑えなくなったら不幸の証明だよ?本来人間は他人の不幸を笑える生き物なんだから。まして今までロクに縁のなかった人のことなんかで佳呼が笑いを減らすことは無いって」
我が友ながら、ルミは悪い子だと思う。
「ところで今日エコは?」
そう言って私は話題を逸らした。悪い子トークはあんまり好きじゃないし、今はもっと重要な話題があった。
いつも一緒に帰っているエコが今日はいない。いつもなら帰りのホームルームが終わると自然と三人集まるんだけど。
「ああ、用事があるとか言って速攻で帰ったよ」
「え、寄り道する訳じゃないんだから一緒で良くない?そんなに急ぐ用事なの?」
自分で言うのもなんだけど、エコと私は仲が良い。というか、割と私は愛されていると思う・・・んだけど、エコが私と一緒に帰ることより優先する用事ってなんだろう。
「聞いてはないけど、男でしょ」
「は?」
ルミはさらっと言ったけど、それは衝撃の一言なんてレベルじゃないよ?
あれ?私、自意識過剰だったかな?
「いやいやいや、何それ?いつの間に?」
そんな相手がいるなんて聞いたこと無いんだけど!
「ん~、2、3日前かな?エコが同学年の男子と歩いてるの見たんだよね。ほら、私エコと家近いじゃん?」
ルミの家はエコと割と近い。というか、家が近いからルミとエコは昔から友達だったらしいんだよね。具体的にいつ頃からかはちょっと知らないけど。
二人は一駅分くらい離れた地区に住んでるんだけど、私と別れた後は、いつものんびり歩いて帰っているみたいだ。ウチの高校には同じように遠くから通う子もそこそこいるけど電車通学をする子は殆どいない。まあ、どうせ電車通学するならもっと都会の高校行くよね。
因みに二人の住んでいる辺りはここ十数年で開発が進んだらしく、高校とかは無いんだけど、この辺りでは珍しく高層マンションなんてものが建ってたりする。というか、まさにエコがその唯一の高層マンションに住んでいるんだけど。
「いや、一緒に歩いてただけなら分からなくない?ほら、最近物騒だからボディガードとか!行方不明になった人とかもいるご時世だしね」
まあ、実際のところ高層マンションに住んでいるからと言ってエコは普通の人だからボディガードなんて付いたりする訳ないんだけど。
「まあ佳呼さん、物騒で行方不明だなんて、不謹慎ネタやめてもらって良いですかぁ?」
すごく演技掛かった調子でブーメランが返ってきた。まあ、事件じゃなくて自発的な失踪だと思っているからこそネタに出来るんだけど。・・・事件じゃないよね?自分で言っててなんか不安になってきた。
すごく寂しい気もするけど、エコの身を守ってくれるなら、私その恋応援しても良いかも知れない。
「因みにどんな人?」
唯一の目撃者であるルミに聞いてみる。
「ん~、去年の文化祭でウチのクラスに来てた集団覚えてる?」
「ああ、ルミと同じ中学だったっていう?」
「まあ私とも一応同じだけど。どっちかと言うとエコと同じって言うべきかな。でさ、あの中にいたちょっと主張が弱そうな奴」
「ああ、なんか優しそうな眼をした?覚えてる覚えてる」
顔のディテールは正直朧気だけど、キャラクターは思い出せた気がする。ちょっと元気が良過ぎる他の男子の後で、騒がしくてごめんねとか言ってた。うん、私の中での好感度はそんなに低くないぞ。
ルミの評価は大分辛口だけど。・・・ルミはどっちかと言えば陽キャ寄りだし。いや、別に私も陰キャじゃないけどね?
「そっか~。まあ優しそうな人ならエコとは合う・・・かも?」
「佳呼?エコは大人しく見えて結構怖い子だよ?」
なんかルミが言っているけれど、ちょっと意味が解らない。
「まあ、エコが良いって思っているんなら、私その恋応援するよ。友達として。寂しいけど。すごく!寂しいけど!」
ていうかさ、浮いた話あるんじゃん。ああJKらしいなぁ。私には浮いてる話しかないのになぁ。
とかなんとか言っているうちに、私の脳は親類のこととか幽かな不安とかを綺麗さっぱり忘却していた。
5月
親類の行方不明からおよそ一ヶ月が経った。
一ヶ月は正直あっという間だった。親類関係で何かしたとかは全く無いけど、新学年のスタートはなんだかんだ忙しい。むしろ、もう親類のことは遠い世界のただの物語で、私の日常は何一つ変わらないんじゃないかなっていう考えまで浮かんでしまう。
「そういえばさ」
放課後にルミが声を掛けてきた。
「どした?」
「おじさんの件はその後どうなった?」
ルミはこの一ヶ月、何度か親類の件の近況を聞いて来ている。最初にルミが言ってたように近所で事件が起きたとすれば気になるのも解るし、或いは、ルミなりに私を心配してくれているのかも知れない。
でも正直、親類の件は現実なんだけど現実味が無くて、ルミがいなかったら、私は親類が存在していた事実すら忘れて生活していたかも知れない。・・・私って結構冷血なのかも。
「どうにもなってないよ。相変わらず誰からも連絡は付かないし、誰にも連絡は来てないんだって。だから今度、本格的に家捜ししてみるらしいけど」
むしろ、何にも変化が無いからこそ私の印象も薄いんだけど。日頃接点が無かったこともあって、ウチの親も特にその親類に関心は無さそうだし。それどころか、事件だと怖いから失踪だと思い込みたい雰囲気まである。
「一ヶ月音沙汰なしってこと?それもう生きてないでしょ。ねえエコ?」
ルミがとんでもないことを言う。いやまあ、その可能性は誰もが一度は考えていると思うんだけど。仮にも親類である私の前でそれを言う辺りがなんともルミらしい。
急に話を振られたエコは・・・なにやらじっと私を見つめている。
「佳呼ちゃん」
「な、何?」
改まって見つめられるとちょっとドキドキする。
「佳呼ちゃんはずっと生きていてね」
ああもう、エコは可愛いなぁ。
よくよく考えれば親類が生きていない前提の発言のような気もするけど、それは全面的にルミのせいだしね。
「ほら、ルミが変なこと言うから純真なエコが真に受けちゃったじゃない!」
エコが可愛かったから、心の中でグッジョブと思わなくもないんだけど、一応ルミには抗議の意を示しておく。が、なんだかルミは大爆笑しているので全然きいてなさそうだ。
なんか、やっぱり親類の行方不明ですら私の人生においてはただの話題の一つでしか無いんだな。テレビのニュースが他人事でしかないように、接点のない親類もまた、私にとっては他人事なんだ。どのくらいまで身近になれば当事者意識って湧くんだろうね。
それからおよそ一週間。事態はちょっと予想していたのと違う展開を見せた・・・のだけど。
「くっ、ははっ!マジうけるんだけど!え、ん、こ、う・・・ですって?ぷっ、きもっ!」
その件について話し始めるやいなや、私の友達たるルミさんが爆笑を始めたのだった。
因みに今は放課後の帰り道。周りを歩いている生徒の目が集まる。・・・やめて。
「ちょっと待って!可能性!あくまで可能性の話ね!」
取り敢えずルミを止めようとする。まあ、多分こうなるだろうなって思ってたけどね。だからこそわざわざ放課後まで待って話したんだし。私の判断は正しかったよ。もしこれが教室だったら、場合によっては転校も辞さない。・・・徒歩圏内に他の高校ないけど。
「あ、ゴメンゴメン。話の腰折っちゃって。で、誰が何だって?」
急に真顔に戻ったルミが話の続きを促した。・・・さては今の大袈裟な爆笑、演技だな?
普段は良い子なんだけどこういうところ、本当にルミは悪い子だと思う。人をおちょくらずにいられないと言うか。
「そうそう、例の親類のね。ケータイに誰も知らない連絡先が登録されていたらしくてさ。その―――」
「え・・・携帯、見付かったの?」
今度はエコが口を挟んできた。
「え?・・・机の奥だかにあったらしいけど・・・」
質問の意図がわからなくて困惑する私。
「佳呼、失踪するのに携帯置いてったのか、ってことだよ」
何かを察したような表情で、ルミが補足してくれた。
あーね。確かに現代社会でケータイ無しの生活なんて考えられないもんね。
エコもルミもよくすぐそこまで考えが及ぶよね。私の友達は私より頭が良いらしい。
「えっとね、そのケータイ、家族も会社の人も登録されてないらしくてさ。セカンド携帯っていうのかな。で、そこに誰も知らない連絡先が登録されてたの。で、そこに掛けたら若そうな女の人が出て、すぐ切られたらしいんだよね」
「それで、援交かパパ活かもって?おっさんの純愛かも知れないじゃん。独り身なんでしょ?」
「うん、だから可能性の話。だけど、親類の誰もそういう交友関係を知らなかったし、その連絡先すぐに着信拒否されたみたいで。しかも、銀行の通帳見たら残高が物凄く減ってたんだって。だから、やましい関係なのかって」
「それ、誰が掛けたの?男の携帯から女の声が聞こえたら普通は切ると思うけど」
そうかも知れない。ルミはこういう時、本当に頭の回転が速いなぁって思う。
「まあでも」ルミが続ける。
「ん?」
「少なくとも、その携帯が家に置いてあるってことは、計画的な失踪ではなくて突発的にいなくなったってことだよね」
確かにそうだ。純愛かどうかは別として、秘めた交友関係があるならその証拠を家に残したまま失踪なんてしない気がする。・・・え、じゃあこれ本当に事件なの?美人局とか反社とかそういうのに繋がる可能性もあるのかな。・・・なんだかちょっと怖くなってきたんだけど。ひょっとしてこの話は深く知らない方が良いのかも。
6月
行方不明からおよそ二ヶ月が過ぎた。
ここ最近はルミがそれについて尋ねてくることも無くなっていた。人の噂も七十五日とは言うけど、ルミの興味は四十九日くらいで切れるのかも知れない。
もっとも、この件についてはもう調べるのはやめようって親類間で結論が出たらしいので、これ以上情報が入ることは無いと思う。
多分だけど、きっと何か悪いことに手を出して、そして多分死んじゃってて、でもその悪いことが身内から出たという事実を確定させたくないから。そして、恐らく関わっているであろうコワい人たちに、調べることで近付いてしまうのが怖いから。
確認しなければ、半分生きている扱いのままこの件を終わったことに出来るから。
なんだっけ、箱の中の猫が生きているかどうかみたいなお話があったような気がするけど、そういうの?よく知らないけど。
結構酷いことだとは思う。人が一人死んでいるかも知れないのに、私たちは私たちの日常を守るためにそれに蓋をして、無かったことにするんだ。
そしてその日常の繰り返しの間に時は流れ、記憶は風化し、いつしか初めから何も無かったかのような平穏が訪れる。
極端に言えばこの二ヶ月、私の生活で変わったのは季節くらいだ。
「なんかさ、別に植物に詳しい訳じゃないんだけど、あじさい見ると季節を感じるよね」
いつも通りの放課後、なんとなく目に入ったあじさいを眺めつつそう言う私。
「まあ、季節の定番として刷り込まれてるからね。梅とか桜とか紅葉とか。マスコミと学校教育による情報戦の成果みたいな」
なんともルミらしい、ひねくれた答が返ってきた。
「あ、でもルミは植物好きだったよね」
「ん?全然好きじゃないけどなんで?」
ルミが不思議そうな顔を浮かべた。けど、私も多分不思議そうな顔を浮かべていたと思う。
「あれ?前に球根の本読みたいとかって言ってなかったっけ?栽培方法がどうとかって」
「・・・そんなこと言ったっけ?」
一瞬、ルミが凄く怖い顔をしたような気がした。
「あ~、でも私興味が長続きしないから、そんなこともあったのかも?覚えてないけど」
へらへら笑いながらルミが続けた。さっきのは見間違いだったのかな。それとも何かイヤな記憶にでも触れちゃったのか。
「それにしても佳呼はよく私のことを覚えてるよね。そんなに私のこと好きなのかな~?」
ルミが怪しい手付きをしながらにじり寄ってきた。
「いや、普通じゃない?・・・ってコワい!コワいってルミ!」
女同士とはいえ、手をわきわきさせながら近寄ってくるのは恐怖を感じるよね。
「・・・るみちゃん?」
エコが静かな口調で声を掛けた。その手には槍のように構えられた傘。因みに、先端は金属製。うん、あじさいの時期は傘の時期でもあるもんね。置き傘派だから私もルミも今日は持ってないけど。エコは雨の予報だと必ず傘を持って来て、降らなければそのまま持って帰る。学校に傘を置いたままにするのが嫌いらしい。そういえばリコーダーも必ず持って帰っている。何かイヤな記憶があるのかも。
「いや、佳呼、黙ってないで止めろって。死ぬから。私が死ぬから!」
ルミの悲鳴が聞こえたような気がした。私の日常って平和だなぁ。
それから少し後のある日。
そう、ある日。親類の行方不明がいつのことだったのか。もう改めて数えないと正確には思い出せなくなってきた。7月が近付き気温も上がってきていたけど、雨のお陰で今日はちょっと涼しい。
「なんか漫画の定番イベントって感じだよね」
ルミが言った。
放課後の帰り道。目の前には段ボールに入れられた子猫と「ひろってください」の注意書き。ひらがな表記と字の下手さで予想するなら、猫を拾ったけど親御さんの許可が下りなかった子供、とかなのかな。捨て猫なんてリアルでお目にかかることはあんまりないけど、親類の行方不明よりかは珍しくないか。なんか最近物事の判断基準がちょっとズレてきたような気がするけど。
エコがそっとしゃがみ込み、子猫の眼をじっと見つめている。
なかなかに絵になる光景だなぁと、どこか他人事のような感想を抱く私。雨の中、美少女が子猫を拾うとか、なんか良いシチュエーションだよね。まるで現実じゃないみたいな綺麗さというか。でも、エコの家って確か・・・
「あれ、エコのマンションってペット禁止だったよね?」
尋ねる私。
「うん。・・・でも、この子は要らない」
エコが子猫の眼をじっと見つめながら答える。どうやらあまりお気に召さなかったらしい。エコって、たまに結構きついこと言うんだよね。
「佳呼のが良いんだってさ~」
茶化すルミ。
と、その言葉を聞いた瞬間、エコが衝撃を受けた様子でこっちを見つめてきた。
「・・・そっか、ペットじゃなければ飼えるんだ・・・」
「そういう問題!?」
思わず突っ込む私。
「いや~、流石エコだわ。でも佳呼はお持ち帰りしちゃダメだぞ~」
ルミが凄くのんきな口調で言う。因みに満面の笑みだ。
ルミもエコも、たまに物凄い冗談を言うから困る。
でもお持ち帰りは別としてエコの家は行ってみたいかも。エコは家に誰も入れたがらないんだよね。ルミは昔行ったことがあるらしいんだけど。というか、ルミがエコの部屋で何かやらかしたせいで、エコが誰も部屋に入れなくなったらしいんだけど。・・・何やらかしたんだろう。ルミとエコの関係もなかなか不思議だよね。
因みに、子猫は誰も拾わなかった。ルミの家もペットは禁止らしいし、ウチも両親が動物苦手だから。でも捨て猫は次の日にはいなくなっていた。良い飼い主に拾って貰えてたら良いなとは思う。
夏休み
7月。期末テストは特筆するようなこともなく終わり、世間は夏休みに入っていた。
というか、エコの家は母子家庭で親御さんが殆ど家に居ないらしいし、ルミの家は学校の成績を全く評価しないらしい。なんか微妙に羨ましいな。
とにかく、成績を気にするのはウチだけだったし、家庭の事情的な意味で話題にするのも憚られたから、期末テストなんていうイベントには触れないのが私たちの暗黙のルールだった。
まあそれはそれとして、今は私の家で三人で集まっている。いざ集まろうと思うと、学校無いの逆に不便だよね。
「これは私の友人のお爺ちゃんの兄弟の奥さんの息子さんの話なんだけどね・・・」
暗くした部屋の中、ルミがおどろおどろしい雰囲気で、静かに語り始める。
ルミが「夏と言えば怪談」とか言い張るのでこうなったんだけど。ウチでやんな。
なんか微妙に近いんだか遠いんだかわからない設定だし。
「その日はいつも通り、仕事が定時で終わらなくってね。その人も、それはもう疲弊した状態で家路に就いたんだって」
あれ、これ別の意味で怖い話かな。
「最終電車に乗って、自分の家のある無人駅で降りたの。寂れた駅だから他に降りる人はいなかったし、ホームには当然誰もいない。で、その人は疲れ切ってたからホームに置いてあるベンチで少し休もうと思ったのね」
深夜の駅。やっぱり普通の怪談かも知れない。そういえばウチの最寄りも無人駅だっけ。ルミん家の方はちゃんと人がいるらしいけど。この設定、嫌がらせか?
「ベンチに腰を下ろして、大きく息を吐いてね。疲れてたから一瞬意識が飛んでたかも知れない。そしたらね、いつのまにか横に小柄な女の人が座ってたんだって。もう電車も来ない筈のホームで、何も言わずにただ座ってるの。で、おじさんはびっくりして立ち上がろうとしたのかな、バランス崩してベンチから転げ落ちたの」
なんか意外と描写が細かい。・・・ルミが怪談したがったのはこれを話したかったからなのかな。割と本気で作ってきたんだろうなぁ。
「そしたら、横に座っていた女の人が無言で顔を向けてきたの。周りの状況もあるんだろうけど、現実離れしてるというか、幻想的な雰囲気でね。思わず見惚れているとその女の人が口を開いたの。『綺麗な眼ですね』って」
深夜の駅に謎の女性。怪談のテンプレだけど、情景を思い浮かべるとちょっと怖いよね。いきなり隣に人が現れたら私だって怖いと思う。
因みにエコは・・・なんか嫌そうな顔をしてる。怪談あんまり好きじゃなさそうだもんね。
「で、どう反応すべきか迷ってるとその女の人がね。『お持ち帰りしても良いですか』って言うの。で、おじさんも男の人だからさ、お持ち帰りってそういう意味なのかなって思いながら思わず『はい』って答えちゃったんだって」
なんか妙に生々しい描写が出てきた。エコの教育に悪いよ!
「そうしたらその女の人が静かに刃物を出して言うの。『ありがとう、でも体は要らないから置いていきますね』って。おじさんの目の前に刃物が迫って来て。激痛とともに、何も見えなくなったの。それがおじさんが見た最期の光景だったんだって」
ルミが大きく息を吐いた。この話はこれで終わりらしい。
「なんというか、思った以上に怪談でびっくりした」
「え~、もっと怖がってくれなきゃ楽しくないじゃない。泣き叫んだり発狂したりしてくれても良いんだよ?」
ルミは不満げだ。なんか凄いこと言ってるし。
「あ、じゃあこれでどう?・・・この話は概ねノンフィクションです」
「怖っ!・・・いや怪談でそれ言うの反則じゃない?しかも概ねってことは結局フィクションじゃん」
不満を述べる私。
「まあ、そうなんだけどね。う~んダメか~。良い話だと思ったんだけどな~」
すごく残念そうにルミが溜息を吐いた。
因みに、ルミの発案で急に始まったこともあり、私もエコも全く怪談らしい話が出来なかったので、この怪談会はすごく微妙に終わった。正直ルミは無茶振りが過ぎると思う。
「ところで佳呼は来月のお祭りどうする?」
ルミが唐突に切り出した。
この辺りでは8月に夏祭りが行われている。別に強いて行く必要のない行事なんだけど、娯楽の少ないこの辺りでは割と友達同士で遊びに行くことも多かった。
「え、行くなら行くけどみんなは予定無いの?」
漫画知識だけど、祭りと言えば彼氏彼女の素敵イベントじゃん?
「取り敢えず無いね~」「・・・特にないかな」
答える二人。あれ?
「そういえばエコって彼氏いたんじゃなかった?」
疑問に思い尋ねる私。
「いないよ」
エコが即答する。
「うっそ、中学の知り合いと仲良かったんでしょ」
「仲良くないよ」
エコの声が微妙に不機嫌そうだった。
「え、何、喧嘩?」
「喧嘩・・・?してないよ。でも、色々うるさかったからバイバイしたの」
静かに答えるエコ。
「えぇ、束縛するタイプだったんだ。意外だわぁ」
文化祭で見た時は、大人しくて押しの弱そうなタイプに見えたんだけど。まあいるよね、身内にだけ態度がデカい男って。それ系だったかぁ。なんか幻滅だな。
「アレはダメだとかコレはするな、とか。黙ってた方が素敵な人だった」
「そっか。人はミカケによらないねぇ」
しかし、これで私たち三人とも浮いた話無しか。まあ、それも良いかな。今はただこの三人でいることが楽しいし。エコには悪いけど、正直エコが彼氏と上手くいかなくて良かった気さえする。友情が壊れるのは大抵恋愛関係だって言うしね。
「ところでルミさんはそういう話は?」
なんとなくルミにも聞いてみた。
「私のために馬車馬のように働いてくれる人ならいつでも歓迎なんだけどね」
ルミはいつも通りルミだった。
祭りの日。
結局誰の予定もなかった私たちは、特に用もなく祭りに来ていた。
祭りとは言っても、花火が上がる訳でもないし、立派な神輿が練り歩く訳でもない。ただ盆踊りの舞台と屋台が並ぶだけの簡素なものだ。
なので、なんとなく屋台を眺めて夏っぽさを味わうのがこの祭りの目的だ。
「いや~、見事に誰にも予定無かったね~。私とエコはまあ判ってたけど、佳呼は家族旅行無かったの?」
ルミが尋ねる。確かに、この時期は休みの会社も多いみたいだし、家族旅行をする家も結構ある。というか私には彼氏の可能性無いのが前提なのか。
「それがさ、親類の空気があんまり良くないみたいでさ。どこで『旅行なんてしている場合か』なんて叩かれるかわからないから一応自粛ムードなんだってさ。私はセーフらしいけど」
「アホくさ。毎日世界のどこかで誰かに悲劇が起きているのに」
こういう時、ルミは本当に容赦ないな。
「まあお陰で三人揃って祭りに来れてるんだし。悪いことばっかりじゃないよ」
「うん。お祭り、来れて良かった」
エコが頷いた。本当にそうだ。
「出来れば、ずっとこうやって三人でお祭り来たいよね。この辺だと大学とか就職とか大変だろうけど」
「それは無理だろうね」
ルミが断言した。
「冷たっ!」
「だって、無理でしょ。現実的にずっとは一緒に居られないよ。佳呼なんかはこの辺の男に永久就職するかも知れないけど、その時にはエコにはお務めがあるだろうし。私は・・・こんなところで収まる器じゃないし?」
みんな解っていると思うけど、最後のところでルミがドヤ顔をしている。
「ツッコミどころしかない!」
永久就職って。どちらかと言うとエコの方がありそうだと思うけど。
「るみちゃんの器は、ここに合わないならどこに行くの?北朝鮮?」
エコがいつになく冷たい声で言った。ひょっとして怒ってる?
「あ、ゴメンゴメン。別に一緒に居たくないとかじゃ無いし、エコカコペアが楽しい間は私もずっといるつもりだよ?」
エコカコペアって。まあ、実際私とエコは特に仲が良いとは思うけどさぁ。
「そういえばさ」
ふと疑問に思った。
「ん?」
「ルミってあんまり興味が長続きしないよね?」
これは本人もよく言っていることだ。
「あ~、そうだね。自分で言うのもなんだけど」
「でも、ずっと私たちと一緒にいるよね。もう一年以上経つよ」
ルミは結構色んな人に話しかけるし、よくわからない交友関係が沢山ある。学校でも休み時間なんかは他の子と仲良くする時期があるんだけど、不思議と長続きはしないし、放課後の帰り道も基本的に私たちと一緒だ。
ルミが日常的に一緒にいて、なおかつそれが数ヶ月以上継続しているのは、私が知る限り私たちだけなんじゃないかな。エコに至っては私よりも前からな訳だし。
「ああ、エコカコは断続的に面白いからね」
ルミがよくわからないことを言う。
「断続的?」
「そう。たとえば、芸人みたいに面白い人がいても、私は多分二ヶ月も興味が続かないと思う。なんていうか、そのくらいでこいつはこう喋る、みたいな傾向が見えちゃって飽きるんだ」
ルミは物事にハマるとそれに熱中する癖みたいなものがある。研究熱心とでも言うのかな。漫画にハマれば同じ原作者の本を片っ端から読むし、元ネタがあったりするとそういうのも調べる。・・・だから飽きるのが早いのかも。
「でも、エコカコは小出しに面白いエピソードが発生するから飽きないんだよね」
「面白いエピソードって・・・」
これはなんだかバカにされているのでは?
「おじさんの件とかもそうだけど、佳呼自体は普通でも、そうじゃないことが起こるでしょ?」
「望んでそうなってる訳じゃないんだけどなぁ・・・」
「それはまあ・・・うん・・・運命をもてあそぶ女神に好かれてるとでも言うのかな」
なんか微妙に歯切れの悪い感じで喩えられた。運が悪いって言いたいのかな。
「だからまあ、出来るだけ長く一緒に居たいとは思ってるよ、エコ」
ルミがエコに視線を送る。取り敢えずエコは怒ってはいなさそうだ。私は腑に落ちてないけど。
まあ、ルミの普段聞けない話を聞けたから祭りに来た価値くらいはあったかな。学校じゃ意外とこういう話しないし。
9月
「佳呼、ちょっと良い?」
始業式の日。
ルミが、二人きりになるタイミングを見計らって声を掛けてきた。
「改まってどうしたの?」
正直ちょっと驚いていた。ルミは割と言いたいことはオープンに言う子だし、こんな内緒話みたいなのは滅多にないから。
「エコに関わることだから一応伝えておくんだけどさ」
言うべきか悩んでいる、みたいな雰囲気でルミが言う。やっぱり余程の重要事項みたい。
「エコの別れた彼氏いたじゃん?あいつ、行方不明なんだよね」
「は?何それ!いつから?」
衝撃の単語が出て若干動転しながら訊ねる私。行方不明とか。正直もう私の高校ライフで聞くことは無いと思ってたんだけど。
「時系列的にはね。別れ話したのが6月末。で、夏休み入ってすぐくらいに、一人旅に出るって家を出てそのまま帰らないんだってさ」
「え?そんなの聞いてないんだけど」
夏休みに入ってすぐなら、もう一ヶ月以上前だ。だけどそんな話を聞いた記憶が無い。
「だよね。あいつさ、都会の学校行くんだって受験したから、学校遠いんだ。家が近いからウチの辺りには貼り紙とかも出てるんだけど、この辺には貼られて無かったし。この学校にも連絡来てないのかも」
学区の違いみたいなことなんだろうか。考えて見れば確かに元カレ君はウチの学校とは全く関係のない人物だ。
「因みに、デカいバッグ持って駅にいるところを見た人はいるらしいよ。その後の足取りは全く分かってないみたいだけど」
傷心旅行みたいなことなんだろうか。しかし、失恋して失踪したっていう流れはちょっと良くないよね。
「エコは・・・」
言葉が上手く出なかった。夏祭りには二人はもう行方不明を知っていたんだろうけど、そんなことは一言も言っていなかった。言っていなかったと思う。けど・・・あの時エコは何て言ってたっけ?「お祭り、来れて良かった」って、もしかして来れない可能性があったっていうこと?
親類が行方不明になったウチは旅行を自粛した。じゃあ元カレが行方不明になったエコは?ウチは親類に援交疑惑とかがあったからマシだったと思うけど、元カレの家族は・・・エコが遊び歩いているのを見たら逆恨みするんじゃない?ひょっとして、エコの言葉は、私が思っていた以上に凄く重い一言だったのかも知れない。
いろんな考えが浮かんでは消える。
「エコは大丈夫なの?」
言葉に出来たのはそれだけだった。
「どうだろ。警察は話聞きに来たみたいだけど。どっちかというと未来のストーカー被害者に見えるハズだよね」
確かにそうかも知れない。別れた男女の振った側。ドラマとかなら逆恨みで男がつきまとう奴だ。ああもう、自分がエコを束縛するから振られたんだろうに、行方不明になってさらにエコに迷惑かけるとかマジなんなの?なんかちょっとイラっとするな。
「見付けて説教してやらないと!」
思わず声に出た。別にそこまで強い怒りを感じた訳ではないんだけど、気持ちを吐き出して冷静になりたかったんだと思う。
でも、そうだ。ウチの親類の時は見付けないことで不安を封じようとしたけど、今度は見付けないと不安は解消されないんだ。
「ここからいなくなった人をここで捜したって見付からないよ」
釘を刺すようにルミが言った。
「それに、死者は出歩かないんだから見付かる訳ないって」
ルミは安定して冷淡だよね。まあウチの親類の時も死亡説を唱えてたから今更驚かないけど。ルミの中では「行方不明=死」なのかも知れない。
翌日。
私たちの日常は、ほぼ何も変わっていなかった。
私たちはいつも通りに学校に行って、いつも通りに話をしてる。ちょっと違うのは話題の一部が行方不明の件になったことくらい。
「本当に大丈夫?向こうの家が大騒ぎだったりしない?」
心配で尋ねる私。
「大丈夫。夏休み中はうるさかったけど、別れて一ヶ月も経つしもう関わり合いになりたくない、って言ったら大分静かになった」
やっぱり夏休み中は色々あったんだ。行方不明になったのはご愁傷様だけど、エコの日常を壊すのなら、それは私にとっては加害者だ。
なんだか嫌な気持ちになる。本当はこんなこと思いたくないのに。
なんか今年ロクなことが無いなぁ。
「それにしても、こんな田舎で年に2回も行方不明事件が起きるとか、どうなってるんだろう」
ニュースで見るような事件って主に都会で起こることだよね。田舎で起こるのは自然災害。偏見かな。
「あ~、佳呼。前から言おうと思ってたんだけどさ」
ルミが申し訳なさそうに口を開いた。
「この辺、田舎じゃないからね?」
またルミがよくわからないことを言ってる。
「いや、ルミんちの方は田舎じゃないかも知れないけど、ここは田舎でしょ。だって無人駅とかあるんだよ?」
「ん~そうだな~。ところで佳呼、ベンツってどういうのだと思う?」
ルミが急に話題を逸らしてきた。
「なんで急に高級車の話?」
「ほら」
ルミが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「真の田舎は、ベンツって言ったら軽トラックを思い浮かべるんだよ」
真の田舎って。
「田舎者を自称するなら、田舎者の皮膚感覚みたいなものを知らないとダメだよ。そういうのはボロが出やすいんだから」
なんかドヤ顔で言ってるけど、ルミは一体何を目指してるんだろう。
「いや身分の偽装方法とか興味ないし」
「いやいや、偽装の手口を知っとくのって大事だよ?佳呼は簡単に騙されるんだし」
「もしかしてバカにしてる?」
結局その日もそんな話ばかりして終わった。
ちょっと嫌な部分は有ったけど、やっぱりこれが私たちの日常ってものだよね。
10月
行方不明の件を知ってから一ヶ月以上が経った。
エコの周りもすっかり落ち着いたみたいで、もう行方不明がどうとかいう話を聞くことは無くなっていた。因みに、元カレ君は傷心で自殺したっていうのが世間一般の認識だ。残酷なようだけどね。
そういえば今回はルミがこの件を話題にすることが少なかったように思うんだけど、流石にエコに気を遣ったんだろうか。
でも、それは唐突に訪れた。いや、本当は想定して然るべきだったのかも知れない。
文化祭の日。喫茶店をやっていたウチのクラスに、そいつはやってきた。
去年の文化祭にも来ていた、元気の良過ぎるエコの元同級生の一人だ。
「よお、人殺し」
あんまりな一言だ。
そこにどの程度の悪意があったのかは分からない。単にデリカシー皆無の男子高校生の一言というだけなのかも知れないから。
ただ、その一言がもたらした影響は果てしなく大きかった。
部屋の空気が凍り付いた。元カレ君の件は、ルミのように家が近い生徒もいたため校内でもそこそこ知られていたが、ここひと月あまり、誰もがあまりそれに触れないようにしていた。これは無遠慮にタブーに触れる行為だ。
「・・・どうして?」
聞いたこともないくらい冷たい声でエコが応えた。
「どうしてって、お前のせいであいつが自殺したんだから人殺しだろ」
エコが小さく息を吐いた。
「・・・そう。それで?」
エコの態度は堂々としていた。怖気るとか気圧されるとか、そういう気配が無かった。
ルミは以前、エコは結構怖い子だって言ってたけど、こういうところなのかな。
「それでってお前!なんとも思わねえのかよ!お前から声掛けて付き合ったくせに簡単に捨てて!それであいつはいなくなったんだぞ!」
「ちょっと!そんな言い方!」
思わず声が出た。でも、二人ともこちらを見ようともしない。多分、元カレ君をよく知らない私は、二人から見れば部外者でしかないから。
「・・・あの人は私の傍には要らない人だった。こんな形でお別れするとは思わなかったしとても残念だけど。でも、お別れしてもう二ヶ月も経つから。引き摺っても仕方ないよね」
エコの言葉は淡々として感情を感じさせない。感情的な相手からは反感を買いそうな態度だって、友達の私でも思う。
「はいそこまで!」
手を叩く音とともに、大きな声で会話が中断された。ルミだ。
「申し訳ないんだけど営業妨害だからその辺で止めてもらって良いかな」
辛辣な物言い。ルミらしいとは思うけど。
「お前!美濃の味方するのかよ!」
まあ、本人は義憤のつもりなんだろうから、営業妨害呼ばわりされれば怒るよね。ましてや、ルミは彼らの共通の知り合いな訳だし。それにしてもルミは敵意の矛先を変えるのが上手い。狙ってやってるなら天才だと思う。
「ん~。少なくとも、デリケートな問題を抱える女子に暴言吐く奴の味方は出来ないよ。周り見てみ?」
教室の空気は冷え切っていた。教室には事情を知らないお客さんもいる。エコが物静かなのもあって、傍から見れば彼は女の子に一方的に声を荒げるダサい男子にしか見えないだろう。
「んだよ!クソ!」
自分に向けられる冷めた目線の数々と、意図的に逸らされる数多の視線に気付き、彼は悪態を吐きながら教室を後にした。
いきなり暴れ出すようなタイプじゃなくて良かった。
「いやぁ~、怖かったね。無事に追い出せてよかったわ~」
大きく息を吐いてルミが言った。正直、緊張していたようには見えなかったけど。
でも教室の雰囲気は緩和された気がする。教室に徐々に雑音が戻る。
「ゴメンね、エコ。防げなくて」
ルミがエコに言った。
「良いよ。今のは対象外」
対象外?よくわからない言葉だ。この二人の関係性は未だに判らないことがあるけど、それを聞くのは今じゃないとは思う。
「あいつにはちゃんと報いを受けてもらうから、エコは気にしないでね」
ルミがエコに笑いかけた。
頼もしいような怖いような笑みだ。
「報いって・・・」
「まあ、今起こった事実を広めるだけだけど。女子の噂ネットワークを甘く見たら世の中生きていけないからね。知り合いを6人辿れば世界中に繋がるって話もあるし、もうあいつはこの辺じゃまともな人生送れないと思うよ」
笑顔で怖いことを言うルミ。冗談だとは思うけど、確かに実名で悪評が立ったら就活とかにも悪影響出るだろうし、人生台無しになる可能性はあると思う。怖い世の中だなぁ。
翌日。
エコは学校に来なかった。
昨日のあいつがまた来ないとは限らないし、無難な行動なんだと思う。腑には落ちないけど。
「本当に、人殺し呼ばわりはあんまりだよね」
思い出しても腹立たしい一言だ。
「ん~、それは別に。事実として、エコがいなければ彼が今も無事だったのは間違いないからね」
ルミは意外と気にしていないみたい。なんというか、ルミは結構人の感情に無頓着な所があるよね。
「でも、教室で不用意にああいう発言をするのは頂けないな~。問題発言を公に垂れ流すのは、組織人としては無能の証明だし」
なんだろう。お前が言うな感。というか、女子高生が組織人がどうのって言ってもな。
「ところで、昨日言ってた、対象外とかってどういうことなの?」
昨日から気になっていたことを訊いてみる。
ルミも、訊かれることは想定していたのだろう。特に言い淀むこともなく答えが返ってくる。
「ああ、ちょっと説明が長くなるんだけど。保護の対象外、みたいな感じ?」
保護?また不思議な言葉が出てきた。
「エコってさ、元々結構イジメられやすいんだよね」
「は?いや、そんなの見たことも聞いたこともないんだけど」
少なくとも私が知る限りの一年半でそんなことは無かったと思う。まあ、元カレ君の件は別として。
「佳呼はそういうタイプじゃないけどさ。テレビの中の美女は好きだけど、利害の絡む位置にいる女、例えば自分の気になる男の周りにいるカワイイ女は気に食わないっていう感覚。解るかな」
ルミの言うことはまあ、解らないこともない。憧れと嫉妬は紙一重だ。例えば人気の読モがいたとして、もしそれが同じクラスに転校して来たりしたら。残念だけど絶対に陰口を叩く女子が出る。普段可愛いって褒め合ってる同士が、喧嘩した途端相手をブスと罵り合うなんていうのもそこそこよくある光景だ。ああ、つまりそれが利害か。
「でもエコって誰かと利害関係なんてあるの?なんていうか・・・私たち以外とは、ほぼほぼ口も利かないし。つまりその、コミュ的なさ」
「うん。好き嫌い激しいし、コミュ障なところあるけど。でもエコって結構カワイイじゃん。つまり、仲良くなれないけど外見で男には好かれる女。女に嫌われるタイプだよね」
ルミは本当に言葉を選ばないよね。友達であっても容赦のない物言いをする。
「でも実際嫌われて無くない?」
ルミの説が正しいなら、もっと日常的に悪口を言われたりするハズだ。
「そうだよ。嫌われてたのは中学の前半くらい、私がエコの友達になる前の事だから」
さも当然、という感じでルミが言う。自分の影響だってこと?因みに、今回はドヤ顔をしていない。真面目な話だからかな?
「でさ、エコって対面では静かだから、やられてもその場ではほぼ何もしないんだけど」
「うん」
確かに、昨日の件でもエコはあくまで静かに会話していた気がする。
「後でやり返すタイプなんだよね。しかも、エコって病的に頑固だから、一度決めたことは絶対に実行するんだ」
「やり返すって何を・・・」
なんか不穏な言葉が出てきたな。
「・・・まあ、やられても判らないようなことだよ」
判らないようなこと?そういえば夏祭りの日とかはルミに冷たく言い返したりしてたけど、あんな感じかな。
「なんだ、やられてわからない位なら可愛いもんじゃない」
「・・・まあ、それは良いや。ただね、これってエコがやり返すと決めたら、どんなに些細な事であっても絶対にやるんだよ。例えば、ちょっと勢いで酷いことを言ったら、一ヶ月後とかに突然仕返しされたり。つまりね、エコ以外は誰一人としてそれが報復だと理解出来ないタイミングで仕返しされるの。怖いでしょ?」
理由もわからずにある日突然報復される。イジメのやった側なんて大抵やったことを覚えてないだろうからエコに限らない気はするけど。とはいえ、些細な口論を一ヶ月も引き摺って仕返しするのはちょっと怖いかも知れない。知らない人から見れば、沸点が異様に低い人みたいな感じ?それは、なんか普通に嫌う人がいそうではある。
「でも、昔の話なんだよね?」
「そうだよ。最近はエコをイジメるような奴はいなかったし」
「それはどうして?」
判らない程度の仕返しなら、相手が行動を改めるようなこともない気がするけど。
「えっとさ。佳呼は、エコがレズだって噂聞いたことある?」
「え・・・いやまあ、あるにはあるけど」
というかその噂、私とエコがっていうやつだよね。本名が利依己なのに『エコ』があだ名なのも、元を辿ればエコカコペアなんていうセット名があるせいだ。
「実はその噂、私が流したんだ。エコはレズだから男には興味が無いだとか、私が色々迷惑掛けまくってるだとか、色んなエピソードを創作してさ。でさ、自分で言うのもなんだけど、私って適度にウザイでしょ?私の興味は概ね2ヶ月で切れるって話はしたと思うけど、逆に2ヶ月も私が自重せずに近くにいれば、大抵の人は私と距離を置きたくなるんだよね」
なにその自負。でも確かに、「ルミは良い子だけど親友にはなれない」っていう評判は聞いたことがある。当たり障りなく遠めの友達でいるのが丁度良いってことだ。
というか、「自重せずに」ってことは、私たちの前ではアレで自重してる方だってこと?
「つまり、エコは無害で、私に振り回される被害者だっていう印象を作りたかったんだよね。『残念で可哀そうな美人』とでも言うのかな。そうすれば、私のことを知っている人は、それ以上エコに何かしようと思わなくなるから」
仮にルミが全ての生徒と友達なら、エコは誰から見ても「友達の友達で、ちょっと同情に値する人」ってことになる。じゃあ、ルミは計算づくでウザキャラやってたってこと?エコを守るために?それはあまりにも聖人過ぎないかな。ちょっとルミの評価を改めないといけないかも知れない。
「あ、言っとくけど勿論善意とかじゃないよ?自分が大衆を管理してるって思ったら有頂天になれるっていう私式ストレス管理術みたいなものだし。大衆の多くは無知で愚かであるって言ったのはいけ好かない髭オヤジだったと思うけど、印象操作が上手く行った時は実際楽しいしね。だからエコには、副次的な効果で守ってあげられるから私の行動には干渉しないでって言ってある。Win-Winの相互保護契約みたいな?」
どこまで本当なのかいまいち掴めない所はあるけど、やっぱりルミはルミな気がする。ルミは自分の身は絶対に守るタイプだ。つまりこれは、上手いことエコの報復対象外になるポジションを確保したっていうことで。やってることはまあ良い人なんだけど、やっぱり聖人では無いよね。
そもそもエコがそこまで酷いことをするハズが無いし。ルミが必要以上に警戒してるだけだと思う。
11月
文化祭の日から一ヶ月が過ぎていた。
ルミから色んな話を聞いたし、正直私たちの日常に何かしらの悪影響が出てしまうんじゃないかって不安もあったけど、実際にはそんなことは無かったみたい。
まあ、エコの過去とかルミの行動の意味とかを知ってちょっとびっくりはしたけど、だからと言って私たちが友達であることには何ら変わりはない訳だし。
因みに、文化祭の彼の噂は物凄い速さで広まった。「他校に押しかけてまで暴言を吐くやべー奴」とか「女の敵」とか「思慮不足のバイトテロ予備軍」とか。
ルミ、容赦ないな。もっとも、あの場にいた人は自然と彼の話をするだろうから、どこまでがルミの仕業なのかは全く分からないけど。
噂と言えば、私は知らなかったけれど、この辺りで行方不明事件が結構起きているなんていうのも聞いた。噂で聞くまでもなく私の周りで2件起きてるんだけど。それとも、他にも何件か起きているんだろうか。
噂って正体が掴めないからあんまり好きになれない。
「そういえばさ、私とエコの噂ってルミが流してたんでしょ?」
どうせ出所を知ってしまった噂だし、思い切って尋ねてみた。
因みに今は放課後の帰り道。流石に教室で話せる内容じゃないし。
「ん、まあね」
「でも、エコって彼氏出来たじゃん?」
そう。私たちがレズだっていう話なら、彼氏が存在した事実はどうなるのか。それに、レズ認定が外れることで万一にでもエコが他の女子から睨まれるのなら、それはちょっと嫌だ。
「佳呼ちゃん!あれは―――」エコが慌てた様子で何か言おうとしたが、
「あ~。あんなの妥協品でしょ」
エコよりも早く、ルミが答えた。
「妥協品?」
「そ、実らない恋に悩んだ少女が、想いを紛らわすために別の男をってやつ。悲恋物の設定としては上々でしょ?幸いあいつは一般女子人気が無かったから、そこで敵は出来なかったし」
さらっと酷いことを言ってるような気もするけど、まあ上手いことやっといたってことなのかな。
「あ、あと一応言っとくけどさ」
ルミが思い出したように付け加える。
「ん?」
「噂を流してるって言っても、そんな大層な話じゃなくってさ。単純に話題の一つとしてあることないことを取捨選択しながら話しまくってるだけだからね。ガチの情報戦だとか工作員だとかじゃないんだからさ」
「いや、流石に工作員だとかは思ってないって」
だって私たちフツーの女子高生だよ?無い無い。
交友関係の広いルミが話をするとそれだけ影響が出やすいっていうだけの話だ。インフルエンサーみたいなものかな。まあ、所詮ローカル規模の話だから大袈裟に考えないでってことだと思う。
「それはどうでも良いんだけどさ。実際、エコってその彼のどこが気に入ったの?」
一般女子人気が無いって言うし、別にイケメンとかでは無かった気がする。覚えてないけど、印象に残ってないってことはそういうことだよね。
「え・・・あの」
言い淀むエコ。まあ答えにくい話だよね。実際別れちゃった訳だし。
「佳呼、エコって眼フェチだからさ」
困り顔のエコを見かねてか、ルミが代わりに答えた。
「眼フェチ?」
「そ。目元とか眼球の様子とかね。最重要なのはそこだから、イケメンだとか性格がどうこうとかは二の次なんだよね」
あれ、じゃあ元カレ君は。よっぽど酷い性格だったってこと?
「あ、ごめん。私今日急ぐから電車で帰るね」
唐突に、エコが言い出した。
「え?あ、うん。お疲れ。またね」
これは、恋バナが苦手だから逃げるやつ?
「好みの奴がいても、眼くり抜いてお持ち帰りしたらダメだぞ~」
なんかルミが怖いこと言ってる。
って、それ、夏の怪談の奴じゃん。
「るみちゃん、くり抜いた眼は輝かないんだよ?する訳がない」
そう言ってエコは一人で帰っていった。怪談に乗っかるなんて珍しいな。
「あれ、ルミは一緒に帰らないの?」
「いや、一駅でわざわざ電車代払わんでしょ」
それもそうか。それに、エコも今日は一緒に帰りたくないのかも知れないし。
「しかし、眼フェチか~。全然知らなかった」
「気付いてなかった?エコってよく眼を見つめてくるでしょ?」
言われてみればそうだったかも知れない。
「因みに一番のお気に入りは佳呼だからね。エコがいる限り佳呼さんには彼氏は出来ないのだ」
へらへら笑いながらルミが言った。
「いや、どういう理屈よ?」
また別の日。
「ところでさ、エコの家って母子家庭なんだよね」
ルミと二人になるタイミングがあったので普段聞きにくいことを訊いてみた。
「今更どした?」
確かに今更だ。知り合ってもう一年半以上だもんね。
でも、デリケートな話題は避けようって意識があったのも確かだけど、ルミとの件と言い、私は思った以上にエコの事を知らないんだなって実感したんだ。
「いや、よくあんな高そうな高層マンションに住んでるよね」
この辺りで唯一の高層マンションだ。本当に高いのかは知らないけど、なんというか、高級そうなオーラが出てるんだよね。
「あ、それ聞いちゃう?」
ルミが苦笑いを浮かべた。
「え?」
「女手で圧倒的な収入を得る仕事ってなんだと思う?」
「投資とか、じゃないよね。つまり・・・」
言葉に詰まった。本当は色々あるんだろうけど、真っ先に思い浮かんだのは一つだ。
「そういうことだよ」
「・・・」
「別に何も悪いことじゃないと思うけどね。労働して対価を得るのに貴賤は無いし、なんならブルジョワジーから資産を吐き出させる革命的な仕事だよ。人がやりたくない労働をやれるのは素晴らしいよね。私はやりたくないし」
ルミの言うことは本当に直接的で、手加減が無い。
「それって、エコは」
「知らない訳がないよね。というか、エコの母親って私ですら入学式の日に見たっきりだからね。娘なんて仕事の邪魔だって、生活環境だけ残して出てったらしいし。正直生きてるかどうかもわかんない」
母子家庭で大変そうだとは思ってたけど、なんかそういうレベルじゃない。これってネグレクトとかじゃないの?
「生活環境用意してくれただけ有情だとは思うけどね。まあ、男から養育費とかを出させるために必要なだけかも知れないけど」
あんまり人の家庭環境をとやかく言うのは好きじゃないけど。なんかもう最悪だな。
取り敢えず、エコには優しく接するように心掛けようと思う。
12月
「日頃の行いって大事だよね、普段何気なく行っている行動っていうかさ」
しみじみと、ルミが言った。
風の噂で、文化祭の彼が階段で大怪我したらしいと聞いた。なんでも、階段を駆け下りていたら置いてあった空き瓶を踏ん付けて転んだとか。
「そうだね、私も階段駆け下りたりしないようにしよう」
正直、あんまりかわいそうだとは思わなかった。不幸な事故だとは思うけど。
「まあ佳呼は階段駆け下りても大丈夫だよね、エコ」
「大丈夫に決まってるよ」
エコが、うんうんと頷いている。
エコが可愛いのはいつもだけど、ルミが私を持ち上げる発言するのは珍しいな。
「ルミが優しいとか。どうしたの?病気?」
「いやいや、佳呼さんはそのままの佳呼さんでいてねって話」
ルミがなんかニヤニヤしてる。微妙にバカにされているような気もするけど。
「とはいえ、ちょっと怪我の度合いがよろしくないよね」
ルミが言う。大怪我って噂ではあったけど、そんなに深刻な状態なんだろうか。
「怪我するのは日頃の行いだけど、怪我の程度はあの人の運命力だから。どうしようもないよ」
エコが珍しく辛辣だ。やっぱり怒ってたんだなぁ。
「ま、死んだらそれまでってことで。正直、評判を広めた手前、ちょっと微妙ではあるんだけどね・・・」
ルミがちょっと困ったような顔をしている。
「もし死んじゃったら、折角悪評を広めてあげたのに無駄になっちゃうし。少なくとも就活の行方くらいは注視しておきたいじゃん?」
なんというか、本当に、本当にルミは悪い子だなって思った。
「でも、過ぎたことを引き摺っても仕方ないよね」
「まあね、彼には物理的か社会的に未来が無いだろうけど、私たちには未来があるからね」
ルミが言う。因みにいつものドヤ顔だ。別に上手くないよ?
でも、未来か。そうだよね。ルミの言うことは正しい。
「今年はウチの親類の件から始まってすごく色々あった気がするけど、来年もまた三人で一緒に居ようね」
「そうだね、佳呼ちゃん。ずっと、いつまでも友達だよ」
「まあ、ずっとかは分からないけど。エコがいる間は私もいるよ」
別れの日
私が日常と思っていたものは何だったんだろう。
その日が訪れる瞬間まで、私は私の日常は壊れないものだと思っていた。でも、私たちの日常はとうに壊れていた。或いは、壊れているのが私たちの日常だったのか。
とある高層マンションの一室で、複数の遺体が発見された。
私の親類を含め複数の行方不明者が、厳密に言えばその体の一部、要らない部分を捨て去った特定の部位ばかりが複数人分発見されたらしい。
稀に見る凶悪犯罪だってニュースが騒いでる。
けれど、実感はやっぱり無かった。これが現実だと受け入れられない。
日常って何だろう。脳が守る幻想だろうか。これだけの事があったって、私はきっと新学期が始まればいつも通り学校に行って、いつも通りにトモダチと話をするんだ。
そこにあるべきトモダチの姿が足りなくても、私の人生は続くのだから。
ただ、この高校生活の間に私たち三人が揃う機会はもう無い。その事実は私の心に重くのしかかるのだろう。
何が起こっていたのか、どうしてこうなったのか私には解らない。或いは、冷静に時を振り返ってみたら判るのだろうか。
考えるべきことは沢山あるハズだ。でも、今私が感じるのはあまりにも的外れで場違いな感情だ。
エコ、大丈夫かな。
読み返すと受ける印象が変わるよう意識してみたのですが、どうでしょうか。