オタマヒコとお尻の穴の世界
トラウマになりそうなこと(カバのお尻の中に入ったこと)は、もう思い出さないようにした。
ウグイス嬢の声の赴くままに、私たちはその“穴”の中を進んだ。
すると、奥にぼんやりとした柔らかい光が見えてきた。
その光に近づいてみると、それは揺れる水面であることが分かった。
しかしこの水面は地面から垂直に存在していて、もっと言えば斜度は85度くらいで、完全に重力を無視している。
橙色に色づく岩肌の真ん中に、丸くきれいに切り取られたような窪みがあって、そこに埋め込まれるように、虹色に輝く水面が風もないのに、ゆらゆらと優雅に揺れていた。
そしてその水面からは柔らかな花のような温泉のような匂いがしてきた。
「こちらからお入りください。特別に事前に入場許可をしております。
普段であれば、ここにすら認められない者は、立ち入ることはできません」
ウグイス嬢の声が洞窟内に響いた。
私たち三人は、トラウマで少し疲れていたこともあり、少し額に汗をかきながらも、言われるがままに水面に向かった。
さすが、湯治の場と言われるだけある。
水面から熱気が伝わってくる。
ゆっくりと、指先で水面に向かった触れると、それは温かいお湯のような印象だった。
心地よい水圧が、指先を締め付けて、そして、さらに奥に入ることを体が求めているようだった。
肘くらいまで入れたところで、水面の奥が安全だと分かり、そのまま息を止めて、目をグッと固く閉じて体をすべて水面の奥に動かした。
「大丈夫ですよ。水面に含まれる空気が肺に届くので、息を止めなくても、呼吸できている状態です。
それに目と同様の成分であり、それ以上に効能があるのがわが温泉の自慢ですので、むしろ目を開けていただいた方が、日頃の疲れや病を直すことができます」
(そうは言われてもー!
目はまだいいが、そろそろ息を止めるのも苦しくなる…ここは、勇気を持って果敢にいくべきか?!)
「ミー、大丈夫だ。何も変わらない。息をするのも瞬きするのも造作もない。
寧ろ心地よいくらいだ。体の芯から温まり、力が沸いてくるようだ」
「左様でございますでしょ?」
ウグイス嬢の自慢げな声か上から降ってきた。
私も意を決して目をゆっくり開き、そしてゆっくりと肺を開いた。
「?!」
不思議だ。
息も普通に吸えるし、目も痛くない。
ヒルナが言うように、どんどんと体が軽くなって、力が沸いてくるようだ。
「あれ?クロノ、髪伸びたんじゃない?」
ふとクロノの方を見ると、なんと肩までのボブヘアが背中の真ん中までいつの間にか伸びているではないか。
「あぁ、本当じゃ!これはすごいぞ!」
クロノは無邪気にはしゃいだ。
「なぁ、お姉ちゃん。昔のように三つ編みをしてくれぬか?」
「昔?(私には心当たりはないけど)いいよ、もちろんよ」
「皆様、それでは謁見の間に向かいましょう。この国のお嬢様がたが首を長くしてお待ちでございますよ」
ウグイス嬢が嬉しそうな声が響いた。
「お嬢様…」
ネモフィラさまが言っていた、“厄介なやつ”にちがいない。
「はい。ネリさまとウリさまがお待ち申し上げております。
そこに乗り物を用意しましたので、ぜひ」
目の前には黄色のでかいヤドカリと海牛を足して割ったような生き物がいた。
なんとも前にいた世界の動物とは異なるし、表現が難しい。
足はざっと数えても1000本くらいはありそうだが、ちょうど頭の出っ張りのところにある貝殻は座り心地が良さそうだ。
ワゴンくらいの大きさはあるので、3人は余裕で座れそうだ。
「オタマヒコという名前の生き物ですが、特別に飼い慣らして、この湯処の移動手段になってもらっています」
「グゥエウー!グゥエウー!」
オタマヒコと呼ばれたその生き物は変な声を出した。
1000本以上ある足をバタバタとさせて、ここだけ見ると、興奮する幼児のようにも見える。
「あら、みなさん。オタマヒコが“皆さんを乗せられて嬉しい”と興奮していますわ。さすが、“運命の力”を持つ者ですね」
「いやぁー、それほどでも」
「では、オタマヒコでこの湯処を簡単に観光して見てください。ここでは、“他にないもの”がたくさん見られますよ」
そう言ったウグイス嬢の言葉は嘘ではなかった。
水面に入ったときから気づいていた。
ここは、相当凄いところだ!
私もオタマヒコのように興奮して、鼻の穴を少し広げながら、オタマヒコの貝殻の上に腰を掛けた。
さぁ、湯治の場の観光と、ネリさまウリさまへののご挨拶だ!
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