異世界トラウマ冒険譚
クロノの移動魔法で、次の目的地である“湯治の場”に向かった。
本来であれば、移動魔法の世界でつながる扉には、扉の向こうの世界の特徴を凝縮したようなものになっている。
ヤァヤァの館は元いた世界の西洋のようなおしゃれな扉にドアノッカーがついていたり、ネモフィラさまがいた世界では木や森を模した自然溢れるものだった。
しかし、今回の扉は何て言うかー。
いや、すでにもう門は“潜り抜けてきた”から、いいのだが。
しかし、あれは扉というよりも…。
「お尻だったな」
「あぁ、お尻だった」
珍しくヒルナとクロノが同意見である。
仲がいい二人も、さすがにあの扉の衝撃で、お互いに不仲なことを忘れてしまっているらしい。
巨大なカバのようなお尻の中を歩いてきたとは、思い出したくない。
そうだ、忘れよう。
これから行く湯治の場が、どうかカバのような場所ではありませんように。
私たち三人は、カバのお尻の穴のような入り口に入ったあとは、真っ暗な洞窟内の中をしばらく歩いた。
少しするとトンネルの出口が見えた。
広がっていたのは、沼地のような開けた森の中のようだった。
「不思議。水が光っている」
丸い池のような水溜まりは、なんとピンク色に光輝いているではないか。
覗いてみると魚のようなザリガニのような小さな生き物が泳いでいた。
水面に顔を近づけると、なんと沼の水が温かいことが湯気で分かった。
なるほど。
この沼地は湿地帯のようになっていて、霧のように視界に見えるものは、全部沼地の水分だったのだ。
濃いめの桃色に光輝くこの沼地の真ん中には小高い丘があった。
「わぁ~まるで温泉みたい。入りたいなぁー。湯煙温泉旅行したいわー」
私は呑気に言った。
「…お姉ちゃん?」
クロノが硬い表情で、沼の真ん中にある丘を指差した。
「…あまり言いたくはないが、あの丘は、尻じゃよな?」
クロノが言ったことをすぐには理解できなかったが、私は瞬時に察した。
不幸にも、私たちの目の前にあるのは小高い丘ではなく、カバのような生き物だった。
はいいろで寸胴のからだに小さめの耳(しかも4つも!)
さらには立派な角がおでこから3つ生えている。
カバとサイを足して割ったような生き物だ。
軽く2階に着くくらいの大きさはある。
カバとサイのハイブリッドは、寝ているのか目をつぶり、長いまつげを上向きにしていた。
「う…っ」
思わずヒルナもクロノも先ほどのトラウマが呼び起こされる。
すると、不思議なことが起こった。
「“過ぎ来し方の鏡”でいらっしゃいますね?
お連れさまは、お二人。
ようこそ、お待ち申し上げておりました。どうぞこちらへいらしてください」
あれだ。
野球場で選手の名前をアナウンスするーウグイス嬢のようだー声が沼地一帯に響き渡った。
「私たちを、呼んでいるわよね?」
「そうみたいじゃな」
「うむ。しかし、どこから声がするのか?」
声が反響して、出所が分からなくなっている。
「失礼しました。
今皆様の目の前にいる巨大な生き物を通して語りかけています。
この子の名前はトゥラー。湯治場に不要なものを寄せ付けないための立派な番人です。
そして、トゥラー自体が検問になっています。
さぁ、トゥラー、お客さまをお通ししてあげて」
声が終わると、トゥラーと言われた巨大な生き物はゆっくりと立ち上がり、くるりと回った。
カバに似て足も短いが、しっぽはからだと同じくらい大きかった。
母体の皮膚と同じように厚めで少しごつごつした印象を受ける。
その大きくて丸い玉のような尻尾が空に向かって立ち上げた。
すると、出てきたのはー。
「扉だな」
「扉じゃ」
「扉ね」
再びトラウマが呼び起こされた。
「さぁ、お越しください。お嬢様がお待ちでございます」
急かされる言葉に私たちは重い足取りで扉に向かった。
幸いにして、匂いはしなかった。
寧ろお風呂のお湯のような柔らかい匂いがするくらいだった。
扉はまさに豪華絢爛だった。
金の装飾に宝石がちりばめられ、いかにも高そうな印象を受ける。
ここが動物の肛門でなければ、最高なのだが。
扉に近づくと、幸いにして自動で開いたので、扉に触れることはなかった。
「さぁ、どうぞ」
再び声がした。
湯治の場は、どんな光景が広がっているのだろうか。
私はワクワクしながらも、トラウマを払拭するために、意識をどこかに飛ばしつづけるのだったー、、、。
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