悪魔の所業、命の離散
女である武政の子供が誰かというのは、すぐに見当がついた。
というよりも、八枝子はこの出来事を事前に予見出来ていた。
それは、八枝子が卑弥呼であるときから備わっている占いや魔力の力によるものだった。
しかし、八枝子が見えたのは、“武政が妊娠する”という予知ではなかったが、“とてつもなく良くないことが起きる”というものだったが。
「八枝子、ごめん。僕、子供ができてしまった。男なのに、子供ができるなんてどうしたらいいのかな?」
武政は、父の洗脳によって、男として育てられたため、体つきが女であっても、本人は自分を男と認識している。
根が腐った父親でも、武政にとっては肉親であり、唯一の父である。
一家の大黒柱で、この村トップの地主であり、一代で富を築いた父は誰からも尊敬される対象なのだ。
しかし、八枝子は知っている。
武政の父はその持て余した性欲を振り撒いて、母以外のたくさんの女に手を出しては、捨てている。
まるで書き間違えた半紙を丸めて投げ捨てるかのように、感情もなく、手放している。
無論、こんな父親なのだ。
家族にも影響が出る。
それが、武政なのだ。
武政の母が子供を身籠って臨月を迎えた頃に、事件は起きていた。
父の止めようのない性欲が、育ち盛りの体を持つ武政に向けられた。
父は、なかなか男の子が生まれない鬱憤をそれまでも武政にぶつけていたらしい。
回数は分からないが、少なくとも武政の母が“できない日”には、ほぼ確実に。
しかし、それは“父からの教育的指導”だったので、武政自身も断ることもなく受けれ入れていた。
それが、門の外では、“頭か狂った禁止されたこと”とも知らずに。
そこからだ。
武政が本当に狂ってしまったのは。
なんと、生まれた赤子は、男の子だったのだ。
正式な嫡子ができたのだ。
つまり、“男の振りをした長女”は、次の瞬間に用無しになってしまうのだった。
武政は他の姉妹よりもひどい扱いを受け、存在すらないほどに誰からも構われなくなった。
父は“初めての長男”に興奮し、寵愛を余すことなく費やした。
武政の母は、ようやく男の子を生めたという安堵で、心までどこかに産み落としてしまったようだった。
それは、蚕がいない繭のように、母の形だけをした肉の塊になっていた。
話しかけても返答はなく、食事も誰かの補助無しでは食べられない。
歩くこともままならず、毎日天井を見るだけの時間を過ごしていた。
武政の妹たちは、武政が父から“特別な教育”をうけていることを知っており、それが“許されないこと”だということも分かっていた。
だからこそ、妹たちも武政にどう接していいか分からないでいた。
妹たちは、自分の代わりに武政が“特別な教育”を肩代わりしていたのを理解していた。
それもあって、「ありがとう」なのか「ごめんなさい」なのか「私じゃなくてよかった」なのか分からず、ただ遠くから眺めることしかできなかった。
武政は、家の中でも一人きりだったのだ。
それもあってか、長男が生まれてから約1か月後、武政は自らの命を絶った。
無論、お腹にいる赤子も同時に失った。
朝起きて、八枝子が布団から体を起こすと、首をだらんと垂らした武政が、天井にぶら下がっていた。
その悲劇を受けて、武政の母も完全に狂い、彼女はどこか離れのような檻のような部屋に移され、そのあとは同じ屋敷に住む八枝子すら分からなかった。
更に不幸は連鎖した。
大望の長男が、生後2か月で息を引き取ったのだ。
それは、当時では致し方ないことだった。
長男は生まれてから、母の母乳も飲めず、未熟児として生まれたこともあり、誰もが納得してしまう末路だった。
ただひとり、納得できない人物が武政の父だった。
自分の都合がいいように性欲の捌け口にしていた武政や大望の長男、そして従順な妻を同時に失った父の思いの行きどころは無かった。
しかし、向かった先が不幸にも八枝子だった。
八枝子は覚悟した。
武政と同じように性欲の捌け口にされてもいい、とさえ。
だが、父はもっと残酷なことを考え付いたのだ。
それはもう人とは呼べず、悪魔の所業だ。
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