異世界“能力開花”宣言
「お待たせしました~っ」
どこか間の抜けたような、それでいて癒されるようなゆったりとした口調の声が、暖簾の奥から聞こえてきた。
「開けますよ~?」
「あぁ。問題ない」
暖簾をくぐって出てきたのは、パラだった。
手には編み籠いっぱいに例のジゾウソウやクギョウダケ、マンダラの実と言われた薬草達を抱えていた。
「あら、イズミさまですか?すでにお宿に戻られたのかと思っていました。お二人でお取り込み中のところすみません」
パラは頭をペコリと下げて、申し訳なさそうに部屋に入ってきた。
「ネモフィラさま、こちらに薬草類を置いておきますね。何かありましたらパラをお呼びください。それでは、失礼いたします」
「あぁ、こんなに夜中まですまなかったね。村のものにも、祭りの日を台無しにしてしまったことを先に詫びておいてくれ」
ネモフィラさまはパラに体を向けて言った。
「村のものは、一重にネモフィラさまのお体のことを心配しておられます。私から皆に伝えておきますね」
パラは正座をして、深く頭を下げた。
「あ、これをパラに渡さなくてはな。疲労回復ができる薬をこしらえていた。今夜はこれを飲んで休みなさい」
そう言って、翼になった手を差し出すと、そこには小豆のような赤い玉がいくつか乗っていた。
「…ネモフィラさま…!」
パラはまた嬉しいのか泣き出し始めた。
「何さ、いつもの礼よ。では、おやすみ」
「ネモフィラさまぁあぁあぁっ!ありがとうございます」
パラは鼻水を滴すほどに喜んで、そして暖簾の奥に消えていった。
「すまないが、先に私のからだの回復をさせてくれ。知っての通り、私の体には心臓がないのだ。魂が囚われてしまっていてな。回復にはちょっと特殊なやり方が必要なのさ。
もしも良ければだが、お前のところの赤髪エルフの娘を借りられないか?そうすると、お前のその頭痛やら体の痛みやらもすぐに和らげることができる。
ちなみにだが、“開花”した後は、直後よりもあとの方が痛みが強い。今のうちにできることをしよう。私も“開花”した身だから分かるよ」
ネモフィラさまの言っていることが、すんなりと理解できる。
それは、彼女の記憶を私の中に取り込んだからだ。
ネモフィラさまが、卑弥呼だったときに開花した力のこと。
卑弥呼から生まれ変わり、八枝子になってからも力が引き継がれ、そして悲惨な目にあったこと。
その悲惨な目に遭ったことから、“惨憺の姫”と言われたこと。
そして、あの謎のローブの人物と胸に空いた穴と心臓のこと。
まるで、昔からの親友のように阿吽の呼吸で会話ができた。
「良ければ、先に私が作った薬草を心臓のところに塗ってくれないか。この翼になってしまった手では上手く塗れないのだ。いつもは、パラにお願いしているが、今日は“同志”のお前に頼みたい気分だ。
それに昔話もしたい。私が日本国を去ってから、どうなったか気になる」
ネモフィラさまは、優しく笑いかけた。
この人が、かつて教科書で習った卑弥呼だったとは、誰が思っただろう。
異世界生活、なかなかに刺激的だ。
私はようやく自分の体に戻れる嬉しさと興奮を忘れ、目の前にいるネモフィラさまの介助にあたった。
暫くして、ヒルナとクロノ、ロキが私の帰りの遅さに心配して様子を見に来た。
そこで、一連の出来事を話し、そしてネモフィラさまの過去について、共有をした。
“惨憺の姫”の、忌々しい過去についてをー。
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