器の開花、“過ぎ来し方の鏡”の能力
体のどこにも力が入らない。
感覚という感覚が無くなっていく。
取り止めていていたいのに、どこかに溶けてしまう。
これが、死なんだ。
どんどんと自分が消えていく。
痛みも辛さも苦しみも。
何もー。
「ハッ!所詮“運命の力”を持つものも、私のように強きものと弱気ものがいる。強いものは、弱いものに喰われる。それだけだ」
もう視覚がほぼないので、音だけが情報として入ってくる。
目の前は真っ暗だ。
自分が目を開けているのかいないのかも分からない。
もしかすると、いま自分達は暗闇のなかにいるのかもしれない。
それすらも分からず、ただ、静かな空間にネモフィラさまの声や音だけが響いていた。
パチンッ
指を鳴らしたかのような乾いた音が響く。
「みな、ありがとう。しばし休まれよ」
クゥーン…
キャシュー…
キェキェキェキェ…
初めて聞くような動物の声がして、そのあとはブゥゥゥゥウンッと鈍い音が聞こえて、瞬間静かになった。
もしかしたら、召喚された魔獣たちが戻されたのかもしれない。
それすらも分からず、暗闇だけが私の前にあるだけだった。
「“運命の力”も所詮ここまでか。もしもお前に血からがあるなら、おそらくロキやエルフの娘や時の神の子もこの事態を聞き付けてくるだろう。
だが、私の結界魔法もないなかなかのものだろう?久々にここまで戦ったが、私の魔法の腕もまだ衰えてはいないようだな。新しい魔法を作り出してもいいが、もうこの世には興味なくてね。
まぁ、よかろう。しばしの間、楽しませてもらった。約束通り、心臓を頂くぞ」
ネモフィラさまの声が多くなってきてので、恐らく私に近づいてきたのかもしれない。
「…」
声をだそうしたが、無理だった。
いま私はどのような姿でいるのだろう。
最後に見た自分の姿は、血溜まりに沈む光景だった。
「せめて、痛みはないようにするからな」
この声は、とても優しかった。
少女というよりも、むしろもっとか弱く可憐で純粋な何かー。
「…?!」
私に残された僅かな感覚が何かを感じ取った。
「お前、何をした?!」
ネモフィラさまが焦る声が聞こえる。
「何が、何が起こっている?!」
私の中に、温かいお湯のようなものが押し寄せる感覚がする。
(…?)
心の中を温かいお湯が流れていく感覚。
不思議な感覚。
初めてのことだ。
そしてその直後に、冷たくて氷のようなものが細い管を無理矢理通るような感覚を感じる。
(…これ…は…?)
「お前…さては今“開花”したな…?」
体の内側から熱を感じる。
血液が身体中を勢いよく走り、力が漲っていくような熱すら感じ始めることができた。
「…こ…」
ついに言葉も出た。
視界も戻ってきた。
私の周りを暖かい桃色の光が優しく包んでいた。
「…“八枝子”…?」
自分でもその名を口にしたのに驚いた。
八枝子とは、誰なのだ?
「なぜ、お前が私の名前を知っているのだ?…まさか“過ぎ来し方の鏡”なのか?」
ネモフィラさまは目を大きく見開き、驚いた表情で私を見ていた。
「“八枝子…苦しませてすまなかった…だが、もう苦しくはない…おとんとおかんが全部冥土に持っていくからな…”」
私の唇が自然に漏らした言葉だった。
「おとん…おかん…」
ネモフィラさまは床にすとんと座り込んだ。
すると、みるみるうちに、ネモフィラさまの水色の髪は真っ黒に色を変えた。
「…“過ぎ来し方の鏡”よ。完敗じゃ」
私は元大魔法使いに勝利した。
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