元大魔法使いの涙
二度目の帰還ほど、悔しいものはなかった。
何も出来なかった。
何も。
しかし、確信が生まれた。
ネモフィラさまは、助けを求めている。
確かに、心臓を渡すという無謀な条件は飲むことはできないが、それでも門前払いではない。
彼女が心臓をあれほどまでにほっする理由ー。
「ネモフィラさま、心臓がないのかな…」
縦穴式の寝床に向かう帰り道に、私がポツリと呟いた。
「うん、ないんだと思うのじゃ」
珍しくクロノが答えた。
「あの胸にぽっかり空いた穴は、心臓があった場所だろう。心臓がないのに何百年と生まれ変わるネモフィラは、より神格化されているのじゃろようよ」
夜空の星を見ながら淡々とクロノは言った。
「心臓がほしいってことは、元のからだに戻りたいってことだよね。つまりは、もう生き死にを止めたいんじゃないかな?
ちょっと飛躍した考えかも知れないけれども」
「アロゴの恋人のときも心臓だったね。カブイーラだったよね名前は。でも、あれはヤァヤァが保存魔法で状態をキープさせていただけだもんね。
大魔法使いでも、心臓は生成できない、と」
「そして、生き死にを繰り返す度にボロボロになっていく体を何とかしたい。
そのためにも彼女には心臓が必要なのもかもしれないな」
ヒルナも、ロキもネモフィラさまを心配するような口調だった。
なんだかんだ、皆根は優しいのだ。
「私、もう一回だけ行ってみる。ネモフィラさまの心が変わらないうちに」
「お姉ちゃん、儂もついていくのじゃ」
クロノが言った。
「ううん、大丈夫。一人でいかせてほしいの」
「勝算はあるのか?」
ロキは心配そうだ。
「分からない。分からないけどね、元いた私の世界には“三顧の礼”っていう言葉があるの。一度だ目でも諦めるなって意味だと思ってる。
ネモフィラさまも異世界から来た人物なら何か通じるものがあると思うの」
「ヒルナはミーが決めたことに従う」
ヒルナは優しく微笑んでくれた。
「ありがとう。また失敗しちゃうかもしれないから、その時は、慰めてね」
私はこの場から離れ、またふわふわと空中を浮遊しながら、元来た道を戻り、ネモフィラさまに会いに行った。
次に出会ったネモフィラさまは、泣いていた。
文字通り、枕を涙で濡らしていた。
声を殺し、ただ静かに目から涙をながすその光景はとても悲しかった。
何がダメで、彼女が声をあげて泣くことが出来ないのか?
「…ネモフィラさま?」
「…ひぃ?!?」
よほどビックリしたのか、ネモフィラさまの涙は一瞬で止まり、布団から羽上がった。
「ななななんだ、お前。失礼なやつだな。もう帰れと言ったのに。なんだ、盗撮が趣味か。かつての同胞の風上にもおけん」
すぐにいつものネモフィラさまに戻った。
少女のように泣く彼女の姿はない。
「いや~、三顧の礼と言いますか、なんというか…」
「用がないなら帰れ!」
ネモフィラさまはそう言って、寝返りを打った。
「違うんです。目的はそこじゃなくて…単刀直入に聞きますね。
誰か、会いたい人がいるんですよね?」
「…」
ネモフィラさまは、うんともすんとも言わなかった。
(ビンゴだ)
私はこの交渉の勝ち筋を少しだけ見いだした。
勝って見せる!
この元大魔法使いのネモフィラさまから!
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