お前の心臓を捧げよ
やはり、生き死に関わる所業に手を出して、ただでいられるわけはないのだ。
100年生き死にを繰り返してきたネモフィラさまの体は確実に変化を受け、その代償が彼女を蝕み始めたのは確かである。
ネモフィラさまの体は紛れもなく人間の体ではなく、“獣”と化していた。
たった一日でここまで変化をするのもなのか?
ネモフィラさまが、黒の大樹の枝の先にある大きな無花果から産まれてからまた24時間経っていない。
しかし、ここまでの変態ぶりを見ると、毎年加速度的に変化という影響を受けているように思える。
(パラさんが急いでネモフィラさまのお世話をしていたのは、この為なのかもしれない…)
そうなると、ネモフィラさまの獣化はあまり良いものではないのだろう。
人が獣になることのメリットはなんだ?
そんなことを考えながら、私は引き続き荷物の裏に隠れていた。
(それにしても…あの耳、羽のような手、もふもふしていて触り心地良さそう~!
仲良くなったら触らせて貰いたい!)
そのときー。
ネモフィラさまと完全に目が合った。
お互いに動作が制止した。
目が合うことで、勘違いというものは存在するとは思っていても、これは完全に“目が合っている”という他の表現がない。
お互いの視線は確実にひとつの糸を結び、視界の中心にお互いの存在を写している。
ここは、意を決することにした。
そもそも、そのためにここに来たのだと、本来の目的を思い出した。
「…ネモフィラ…さま?」
「ひィ?!!しゃべったァ?!!?」
ネモフィラさまは思わず後ろずさりをしたが、あまりにも驚いたので、後ろの暖簾を巻き込んで、大転倒してしまった。
「あ、すみません。驚かせようとしたわけではないんです。すみません。
あ、私イズミって言います。折り入ってお願いがあってここに来ました」
「…イズミ?」
お召し物の着物が大胆にはだけながらも、その青色の瞳をぱちくりさせながら、私のことを真っ直ぐに捉えた。
「はい、橘和泉といいます。あの、ロキという名前をご存じですよね?
私、先日体と魂が分離する魔法で、体への帰着が遅くなってしまって、戻れなくなってしまったんです。
そこで、ロキがあなたのことを紹介してくれて、徐魔法をやっていただきたいな…と」
私は転倒したまま床に寝転ぶネモフィラさまの上をふわふわと綿毛のように飛びながら言った。
「…あぁ、あいつか。そう言えば、ユニコーンの匂いはしないが、まさか元のからだに戻れたのか?」
「はい、そうなんです。ロキはとっても素敵な美少年ですよ」
「なるほど。その見返りというわけか」
惨憺の姫と呼ばれるこの妙齢な人物は、とても理解が早かった。
「ロキには若い頃にお世話になった縁があるからな。いいだろう。徐魔法で元のからだに戻してやる」
「あ!ありがとうございます!」
「だが、しかし、条件がある」
「は、はい?なんでしょう?」
(労働か?奉公か?金か?なんだ?)
もふもふした肩よりも大きく広がるその白い耳をびょこぴょこと動かしながら、着物を整えて言った。
綺麗に波打つ水色の髪が、輝く海のように美しくなびいた。
「お前の心臓を捧げよ」
「…はい?」
惨憺の姫、なかなかこれは一筋縄では行かないぞ。
村の儀式の真意の解明を含めても、長い戦いになると改めて覚悟をしたのだった。
異世界生活6日目、スタート!
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