性悪な惨憺の姫、そして擬獣化
この光の集合体の体は、何かと便利と感じることが多くなってきた。
第一に、足音がないので(足がないので)偵察にはかなり向いていること。
これで村人に気づかれずに、ネモフィラさまに近づくことができる。
第二に、姿がほぼない状態であり、どんな小さなところもすり抜けることができること。
すなわち、鍵がかかっていたり、入るのが難しい場所でも容易に侵入できる。
それに、光の集合体なので、太陽の真下にいると、そこまで存在が見えない。
もしも私が世紀の大怪盗だったら、どんな秘宝も盗み放題なんだなぁと思いながら、ネモフィラさまのいるというお披露目の場に向かっていた。
朝の清んだ空気が体をひやりと冷やして、頭をはっきりとさせてくれる。
ネモフィラさまは、どうしてこの村に固執しているのだろうか。
そういえば、洞窟で誰かに会いたい人がいると言っていた気がする。
ネモフィラさまも私のように異世界から来た人物だ。
元いた世界に大切な人を置いてきてしまったのだろうか。
それなら、私にはそうした人がいないんだなと思うと少し切なくなった。
確かに田舎の実家にはお父さんもお母さんも生きていて、友達だっている。
でも、不思議と会いたいと思う人がいないのは、今のこの世界が充実しているのと、ある程度は毎日悔いがないくらいに一生懸命働いてきたからかも知らない。
それに、今は自分のこともだが、目の前にいて困っている人を助けたい、それだけなのだろう。
私は燦々と降り注ぎ始めた眩しい太陽を背に、真っ直ぐに目的地に飛んでいった。
ネモフィラさまがいると言われる部屋は、村に始めに来た場所のとなりの建物だった。
高床式の家だが、私には階段を上る必要がないので、他の人からできるだけ見えないように、家の裏手に回った。
そしてそこから手頃な大きさの窓を見つけたので、すぐに内部に侵入できた。
「…?!」
何と運が良いことに、入った部屋にネモフィラさまがいたのだ。
あまりにもビックリしすぎて、思わず声が出そうになったが、そこはグッとこらえて、彼女の目につかないうちに、荷物の裏に隠れた。
ネモフィラさまはちょうど私に背中を向けて、さらに奥にあるやや透けた暖簾を見ていた。
暖簾はこの村ではなかなか見ることがないようなオレンジと赤の中間くらいの色をした、シルクのような柔らかい素材だった。
乗れんの奥の家具や建物の柱の影が透けて見えるくらいには薄いものだ。
ネモフィラさまは、ずっと暖簾の奥を見ていた。
(こんな朝早くから起きてて、どうしたのかな?
何度も生まれ変わると生活リズムも変わっちゃうの?)
すると、暖簾の奥から誰か姿を表した。
その形はあまりはっきりと見えないが、そこまで大きくはなさそうだった。
「今回も無事に再誕できたのだな」
「ふん。さすがの私も毎回出産の痛みには慣れないものね。出産って母体もだけど、生まれる方も命がけなんだから」
「…」
暖簾の奥にいるものは、言葉が少なかった。
「それよりも」
語気を強めてネモフィラが言った。
「毎回再誕する度に、体のあちこちが変わっていくんですけど?これ聞いてないわよ」
「私も知らなかった。やはり何かしら変化がでるのだ。生死の領域に手を出している上に果実からの誕生と言う異端行為だからな」
「これ、治してくれるんでしょうね?治るのよね?」
「…」
「ちょっと何か言いなさいよ!嘘つきなのあなたは?話と違うわ。約束守りなさい。自分のやっていることが分かるの?」
ネモフィラさまは畳み掛けるように言い放った。
場面だけ切り取ってみると、ただの性格が悪い小娘だ。
「ギブアンドテイクなのだろう。欲しいものだけ貰うのはズルい行為だ。では、今回もよろしく頼むぞ。また一年後に来る」
そう言うとその謎の人物は姿を消した。
(この声、どこかでー)
「あー!頭に来る!何なの?偉そうに!自分はいいわよね。毎年生き返って死ななくてもいいし。これならまだ、惨憺の儀式の方が痛みに耐えるだけだったからマシだわ」
怒りを露に窓があるこちらに向き直ったネモフィラさまの姿はー。
「なに、あれ…」
耳からはふさふさの毛を持った大きなエルフのような耳が2つ、そして両手は鳥の翼のように豊かに羽を伸ばしていた。
顔はウサギのようにつぶらな鼻とくちひげを生やしていた。
「人じゃない…獣…?」
生まれた瞬間の姿とは異なり、そこには豪華な着物を召した獣化した美女が膨れっ面で立っていた。
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