異世界の禁忌
産まれた直後は、とても敏感で繊細な時期と言うことで、会えるのは翌日にということだった。
いくら何十回と生まれ変わっているネモフィラさまでも、誕生と言う営みは相当の体力を消耗するようだ。
それに今回は、平均一週間かかる体の生成を二日で行ったために、かなりの疲労をしているらしい。
それもあって、パラはお世話に奮闘していた。
ちなみに、お世話係はパラ以外にもいて、それは何世帯かが伝統的に継承をしているらしかった。
村は、お祭り騒ぎだった。
あらこちらに灯籠のような赤い提灯がところ狭しと飾られ、各家々の前には花も添えられ、露店にはたくさんのご馳走が並び、意気揚々とお酒を昼から飲む人々が増えた気がする。
村人の顔もとても生き生きとして、本当にネモフィラさまの再誕を喜び、お祝いをしているようだった。
そんな中、このお祝いモードについていけていない者が四人だけいる。
私とクロノとヒルナとロキだ。
私は異世界かは来たので、あの衝撃的な無花果の出産シーンはさすがにトラウマだった。
しかし、もともと異世界にいる面子もそれは同じだったと帰路で所感を共有した。
やはり、どこの世界でも“生命の誕生”には、倫理的な価値観があるようで、生き死にに関わることは神の所業の範疇と言う認識があるようだ。
神族であれば、生死に関わる一連のことは、それは神族の使命であり義務であり、逃れられない定めであるという。
魔女のヤァヤァが、アロゴの恋人であるカブイーラの心臓から子供に変態させたことですら、魔女裁判にかけられてもおかしくない一端だった。
ヤァヤァの場合は、長期間保存していた心臓の細胞に魔法で働きかけを行い、ロキのユニコーン体の角から肉体を生成したということで、魔術の範疇と言う結論を下されたので、刑罰は逃れた。
“もともと生きていたもの”の形を魔法で変えただけ、ということである。
しかし、今回のネモフィラさまの再誕はどうだろう?
神族の所業にも収まらない、何者かの意図して起こっている生き死にに関わることだ。
この村が幸いにして、移動魔法でなければ行けないほどの秘境にあり、小さな村でおこなわれている儀式の延長線上のこととしてスルーされているだけである。
だが、神族であってもこの再誕を罰する権利はない。
誰も止められないのだ。
「僕も長いこと生きているし、神族にも弟子入りをしたけど、こんなことが行われているなんて、聞いたことがない」
ロキが眉間に皺を寄せながら言った。
「ヒルナもだ。ヤァヤァに光魔法の電報で情報を求めたが、ヤァヤァも気味悪がっていた。やはり、この村で起きていることは普通ではない」
「クロノも父さまに聞いてみたんだけど、やっぱり変だなと言っておった。
そして、謎のマントの人物についても聞いてみたが、情報は得られなかった。じゃが、あやつも時空間を移動できる存在であることは町がいなさそうじゃ。それに、容易に過去の出来事を改編できる力を持っておる。
少なくともいまのクロノじゃ太刀打ちできぬ魔力を持っておるのは確かじゃ。謎のマントの人物は、なかなかの曲者じゃ」
私たちは村の中で唯一静けさがあるこの縦穴式の宿場にいた。
そこで、それぞれの布団の上に座りながら、今後の行く末を考えていた。
「まだ父さまに聞いているが、ネモフィラといい、マントのやつといい、本当に目を伏せられぬ」
全員がこの雰囲気の味の悪さを感じている。
「パラが言っていたけど、今夜は再誕の儀ってことで、お祭りなんだよね。それで明日はお披露目の儀で、ネモフィラさまに“謁見”ができるって。
いま私たちができるのは、明日を待つことかな」
なるべくみんなの負担を軽くしたく、明るい方向に持っていった。
「そうだな」
そうして、私たちは晴れない気持ちを引きずりながら、明日のお披露目の儀を待った。
異世界生活六日目はこうして膜を下ろした。
この晩食べたご飯ほど、味気なく感じたことはなかった。
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