偉大なる魔法使いの再誕
ネモフィラさまの付き人の名前は、パラと言うのだと、道中で教えてもらった。
パラはとても興奮をしていた。
毎年、ネモフィラさまがこうして死んでは生まれ変わることは祭りになっているらしい。
そして、ネモフィラさまはこの100年で信仰の対象、すなわち神になりつつあるという。
それもそうだ、と思った。
この村では元々、迷信に近い神熊さまを信仰していた。
しかし、その神熊は結局ただの大きな熊であり、生涯一度も目にせずに亡くなる村人も多かったのだ。
それよりも、今目の前で、それこそ奇跡のように死んでは生き返るを繰り返す姫の方が、よっぽど説得力がある。
生きた仏がいるのだ。
しかし、この生き死には決して神秘的なもので、神聖な信仰心に沿うものではなく、裏で糸を引く者がいる“作られたもの”だ。
この生き死にには何も無い。
ただあるのは、虚しさだけである。
パラに連れられて行ったのは、村はずれにある森の中だった。
「今回は早いんですよ。大体一週間くらいなのですが、今回は2日でお産まれになります。
ネモフィラさまがこうして予定日よりも早くお産まれになると、その年は豊作になるんですよ」
パラは素敵な笑顔を振り撒きながら言った。
「ここは確か…」
そうだ。
ここは見たことがある。
ネモフィラさまを追って、洞窟に行ったとき道だ。
「あ、あそこです。人がたくさんいるところです」
パラが指差すよりも、人だかりができているので、すぐに場所が分かった。
黒々としげるこれらの木全てがかつてネモフィラさまだったのかと思うと、背筋が凍るようだった。
何十体と言う遺体から産まれたこの木々たちは、何だかただの木の集まりには見えない。
どうしても不気味さを感じざるを得ない。
「あ、朝よりもかなり大きくなってますよ。もう少しで産まれると思います」
他の村人達の声でパラの声がうまく聞き取れなかったが、村人達の興奮具合から、なんとなく順調だと言うことが理解できた?
大人が3人ほど手を繋いで輪っかを作ったほどの太さの大きな黒い木の上に、無花果のような大きな果実がひとつ、実をつけていた。
その実の中からは、怪しい光が定期的にじんわりと溢れては消えを繰り返していた。
そしてー。
「あ、割れた!もうすぐだ!」
村の男のひときわ大きい声がした。
無花果は気がつくと少しずつ亀裂が入り、その亀裂からは液体が滴っていた。
ビクビク、ぴくぴくと、無花果は震え始めた。
人が一人入っていても可笑しくないほどのその実は、生々しく、いま命を産み出そうとしている。
「ネモフィラさま!ネモフィラさま!」
あちこちから歓声があがる。
パキッ
無花果から音がした。
いま、果実から、ひとつの命が誕生するこの奇跡のような瞬間に、私たちは立ち会うことになる。
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