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謎のマントの人物、木から生まれ変わる魔法使い

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」


遠くから、誰かを呼ぶ声が耳に響く。


(お姉ちゃん…誰…?)


「お姉ちゃん、お姉ちゃん!大丈夫?!」


その声はどんどんと近づき、そして私の目の前でいちばん大きくなった。


「お姉ちゃん、何があったの…?」


「その声は…クロノ…?」


「はぁ…、よかった…何事もなくて…」


クロノは洞窟の岩肌の上に横たわる私に手を添えた。


「お姉ちゃん…探したぞ…油断をしていた…本当にごめんなさい」


まだ意識が完全に戻っていないのか、目もはっきりと見えておらず、クロノがどんな顔をしているのかは見えない。


けれども、きっと悲しそうな顔をしているにちがいない。


「…ごめ…んね…。心配…かけて…」


私は、体のあちこちに仄かな痛みを感じていた。


光の集合体である私の体にも痛覚はあり、そしてあのマントの人が何かしら私に施したのは間違いない。


「今は一旦この世界線から戻ろう。お姉ちゃんがいちばん心配じゃ。回復魔法なら悔しいがヒルナの方が得意じゃから、帰るぞ。


それに、村長は白じゃ。何も関与しておらんようだった」


「そう…じゃあ、犯人は、あのマントの人なんだね」


「マント…?なるほど。お姉ちゃんの方は、何か掴んだようじゃな…。


それでも、今は一旦引き上げようぞ」


クロノはそう言って、私を両手の中に優しく入れて、洞窟を立ち去った。








「なるほど。そのマントの人物が鍵を握っているんだな」


ロキは椅子に腰かけるクロノと、そのクロノの手の中で休む私に向かって言った。


顎に手を当てて、悩むポーズはとても凛々しい美少年にしか見えない。


「そうじゃ。マントの人物がこの村の災いを呼び、そして毎年ネモフィラを死に追いやっている」


「もう一回、あの世界線に行くのはどうなのだ?」


ヒルナも心配そうな顔をして、話を続けた。


眉間にシワを寄せても、美少女は美少女であることには変わらない。


「それは懸賞済みじゃ。お主たちに言われる前に、何度か試みてみたが、ダメじゃった。その黒マントの人物は、うぬと同じように世界線を移動している。


うぬ達に気づいたのか、そのあとは決して姿を表さなかったのじゃ。しかし、用意周到なのか機転が早いのか、この世界線との“辻褄合わせ”は、抜け目なくやっていたぞ」


「“辻褄合わせ?”」


「そうじゃ。お姉ちゃんが言うには、洞窟の中で、ネモフィラとそのマントの人物が契約を交わしたと言っておったな。


しかし、そのあとの世界線では、ネモフィラは村長と契約を交わしていたのじゃ。村長が、村の平穏のために、ネモフィラを毎年供養として人身御供するとな。


ネモフィラが亡くなるときに放たれる魔力が村を守るのだそうだ。そしてその魔力は毎年村の木と鳴動して、新しいネモフィラが生まれる。


それか、魂だけは此村にとどまり、再生を強いられているのか、だ。


村も助かるし、ネモフィラは結果生まれ変わるし、見た目には無事に見えるがな」


「そんなの…間違っているよ」


「そうなのじゃ、そうなのじゃ。しかし、この100年間、村はネモフィラの死を持って平和に過ごせておるし、むしろこの村人にとってはネモフィラが死ぬことは当たり前なのじゃ。


彼らの当たり前を打ち砕くためには、ネモフィラの死を止めねばらなぬ」


全員が暗い顔をしていた。


「つまりは、ネモフィラの再生を待つしか今は道は無いな」


ヒルナはいつものように冷静に答えた。


そのとき、ネモフィラさまの付き人が走って縦穴式の宿に来た。


時空間移動の椅子を囲むように立っていたヒルナとロキが縦穴の入り口に視線を移した。


「失礼します。あの、ネモフィラさまが、“宿られた”ので、折角なので、一緒に見ませんか?お誘いに来ました」


なにやら息を切らして急いで来たらしい。


「“宿られた”とは?」


ロキが眉を潜めながら言った。


「また、お産まれになるのです。みなさまがご不在のあいだに、ネモフィラさまの御体は村の森に埋めさせていただきました。


その木から、またネモフィラさまが産まれるのです。


とはいっても、あと6日はかかりますが。


本当におめでたいことなのですよ。ネモフィラさまも喜ばれますし、何よりも村はお祭りなので」


クロノ、ロキ、ヒルナ、そして私を含めた全員が視線を交差させた。


「まずは、行くしかないわね」


「そうじゃな」


「うん」


「そうだな」


兎に角今は、この状況をできるか限り把握して、情報を得るしかない。


私たちは縦穴式の宿から、人々でごった返す村の森に向かっていった。


(ネモフィラさまが、“宿る”気とは?)


私は不安な気持ちのまま、クロノの手の中で移動を続けたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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