追跡開始!最悪の発端、そしてー
ネモフィラさまは、優雅に村の中を歩いていた。
その見た目は、まさに絵本から抜け出てきた天使のようだった。
髪の根本は真っ白な雪のような色で、根本に向けて空から色を拝借したような水色が美しい髪だった。
100年前、この村で何があったのか?
その答えが、今日分かる。
ネモフィラさまは、村人に笑顔で挨拶をしながら、さらに村の奥へと進んでいった。
私も彼女のあとを、静かに着いていった。
ネモフィラさまは、森の奥にある洞窟の中に入っていった。
洞窟に入るとき、辺りを伺うようにしていたのがなんだか怪しく思えた。
他の村人からバレてしまっては、何かいけないことがあるのだろうか?
私も恐る恐る暗く深い洞窟の中に入っていった。
洞窟の中は、何の変哲もないごつごつとした岩肌だけが永遠と続く穴だった。
ただ、人の気配は全く無く、聞こえるのは洞窟の中を通る風の音と、ネモフィラさまの足音だけだった。
灯りがなければ歩くことすら難しい場所だが、ネモフィラさまは容易く歩を進めている。
これも、ネモフィラさまが魔法使いとしても能力が高いことを意味しているのだろうか?
私はいろいろな仮説を立てては消してを繰り返し、奥にあるものを想像し続けた。
しばらく歩いて、ネモフィラさまは開けた穴の場所の中心で歩を止めた。
それまで、ネモフィラさまは真っ暗な洞窟なのに松明も持たずに手ぶらで歩いていたが、指の先から豆電球ほどの光を放ち始めた。
(あれも、魔法なのかな)
人差し指のちょうど第一間接の指の膨らみから、蛍のように優しい光を灯していた。
おおよそ文明の進化がないこの100年前の村には、電気や科学なんてものは存在しない。
そういえば、ネモフィラさまは私と同じように異世界から来たんだとロキから聞いた。
私も頑張れば、魔法を使えるようになるのかもしれない。
「来たわ。約束通り、一人よ」
ネモフィラさまはよく響く美しい声で、誰かに問いかけた。
「…よく来てくれた」
返答は、洞窟のどこか奥から静かに響いてきた。
「話は手短に済まそう。あなたの要求は飲むわ。それで、願いは叶えてくれるのね」
「…あぁ」
声の主は、ワンテンポ遅れて、回答をしている。
「それであれば、交渉成立だ。私の体を授けよう。それで、世界は救えるのだな?そして、私は…彼に会えるのだな?」
ネモフィラさまは、後半泣きそうな声で言った。
「あぁ、約束する」
「…ありがとう」
ネモフィラさまの人差し指の第一間接からは、絶えず柔らかい光が放たれているが、見えているのは足元や下半身だけである。
「改めて問おう。これが最後だ。そちはいまから1000年間の間、毎年生き死にを味わい、苦痛を伴うにも関わらず、犠牲を産み出すが、それでもいいのだな?
これから起きる災いをすべて自分のその小さな体で受け止める意味が、分かるか?」
「えぇ。いいわ。あの人がいない世界なんて、死んでいるのと同じだわ。それなら、死んでいた方がましよ。
さぁ、お願い」
「…よかろう」
姿が見えない声の主は、そう言うと風のようにネモフィラさまに向かって飛んでいき、そしてー。
心臓を鷲掴みにしたのが、微かな灯りから見えた。
ネモフィラさまの心臓は黒いマントをかぶった人物の手から、高々と赤い血を流し、そして、ネモフィラさまは倒れた。
私は見た。
この村に伝わる風習の発端と裏で糸を引く黒いマントの存在を。
クロノに、伝えないと…!
そのときー。
ふわりと一瞬だけ風が吹いたかと思えば、次の瞬間私は気絶した。
(なん、で…?)
この世界の人々には、私やクロノは視認できないはずだ。
つまり、この世界の人物ではないと言うこと…?
うっすらと流れ行く記憶の中で、真っ暗な暗闇に黒マントの人物が私を見下げているように思えた。
そして、私は完全に気を失った。
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