眠れないときは、異世界の鈴虫の音に耳を傾けよう
「眠れないの?」
鈴虫が羽を震わせて、素敵な音色を響かせる夜だった。
季節は夏の終わりだろうか。
唸るような暑さが収まって、涼しさを感じる夜だった。
「うん、ちょっとね」
ロキは宿の外でぼんやりと夜空の星を眺めていた。
「だよね、私もなんだ。ちょっと話そっか?」
「そうしよう。楽しい話がいいね」
異世界に来てから、時計やカレンダーを意識する生活はしていなかったが、きっと今は夜の10時くらいだと思う。
昔なら、まだ会社で仕事をしていた時間帯だ。
「イズミは、外の世界から来たんだよね。どんなところなの?」
「うんとね、なんだかみんなが常に忙しそうにしているところだよ」
「面白いな、それ。もっと詳しく聞かせてよ」
私は元いた世界、日本について話した。
「電車って言うのがあってね、みんな朝仕事に向かうときに乗るんたけど、みんな本当に疲れているの。死んだ魚よりもひどい顔をして、仕事に向かうんだ」
「なぜそんなにも仕事をするのだ?」
「んー、なんでだろう。お金を稼ぐためかな?承認欲求を満たしてもらうため?なんとなくみんながそうしているかな?」
改めて聞かれると分からない。
なぜ、働くのか。
「僕は、お金のために働いたことはないけど、名声のために動いたことはあるから、よく分かるよ。認めてほしいんだ。誰かから認めてもらうことって、お金をたくさんもらうよりも難しいんだよね。でも、声をひとことかけてもらうだけで変わる。不思議だよね」
「うん、ホントに」
「イズミは、元の世界に戻りたいと思う?」
「今は、いいかな。こっちの方がよっぽどスリルもあって刺激的で楽しいもん」
「それはよかった」
ロキの笑顔が少しずつ解れてきているように思える。
「そういえばさ、他にも私みたいに外から来た人って知っている?」
誰か前例があれば、何かしらの情報を得ることができるかもしれない。
「それが、ネモフィラだったんだ」
「え?!ネモフィラさまって、ここの世界の人じゃないんだ」
「そうなんだよ。だからこそ、会わせたかったんだ。ただ、イズミの言っていた祖国とは違うみたいだから、分からないがね」
ますます会いたくなってきた。
「徐魔法意外にも力を貸してくれると思っていたんだが、上手くはいかないみたいだね」
「ううん、そんなことないよ。ロキ、いろいろ考えてくれてありがとう。ネモフィラさまってどんな人なの?」
「ああ、ネモフィラはね、とても頭がいいんだ。頭がよく切れるし、回転も早い。歩く本のような存在だ。除魔法以外にもたくさんの偉大な魔法をこの世に作ったすごい人なんだ。
性格はちょっとというか、とても癖がある。基本的には無口なんだけど、だからこそ言葉の力が強い。
僕とネモフィラは、僕が名声こそ全てだと思い込んで、兄弟殺しを計画していた時に出会ったんだ。ネモフィラは旅をしていてね。異世界から来たから、いろいろと見て歩きたいと行って、長く旅をしていた。そのときちょうど彼女と僕は出会って、そして異世界のことを教えてもらったり、いろいろな発明品のヒントをもらったんだ。空や海を渡ることができる靴なんてものを作ったりしたんだ」
「会いたいな、ネモフィラさま。1週間後には目覚めるんだよね」
「そうみたいだね」
異世界の鈴虫は、絶えず鳴り響くけれども、決して煩くなく、私たちの気持ちを汲んでいるかの様に、優しく音を届けてくれた。
「あと1週間で、この村で何が起きているのかを探ろう。そして、ネモフィラを開放してあげよう。5年も人質になって、生贄になるんておかしい。彼女はもっと、世の中に出ていくべき人だから」
「うん。私もそう思う」
ロキと言葉を交わしたら、心のもやももやが自然と晴れていった。
誰かと話すのって、こんなに心地よいんだ。
ネモフィラさまの死。
村に広がる謎の儀式、そして奇病。
手がかりを持つ村長。
そして、私の命運を分ける除魔法。
冒険はまだまだこれから、始まったばかりだ。
異世界生活5日目は、白の美少年ロキと鈴虫の泣き声で終わるりを迎え、6日目に突入しようとしていた。
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