生きて死ぬ、死んで生きる生け贄
「ネモフィラさまは、村の災いを収めに来てくださった救世主さまでした。それは今でも変わりません。
この村には昔から、神熊さまという信仰がございました。今ではなんの根拠のない民族間の信仰だと皆が理解しております。
五年に一度、村で2歳になった子供たちを集めて、その子供たちの中から一人、神熊さまに生け贄として捧げていました。
それはもう残酷なもので、物を覚え始めたばかりの元気な子供に薬を飲ませて昏睡状態にして、山奥の祭壇の上に両手両足を縛り付けて、大人たちは山を降りるのです。
山に住む神熊さまに捧げられた子供は、神となって村を守ると信じられていました。
ただ、実際は腹を空かせた熊にいたいけな子供を差し出して、せめてもの腹の足しにしてもらって、村に降りてこないようにしているだけでした。
冷害や雨不足など天候に恵まれないときは、木の実も山菜も果物も育ちませんよね?
それでも、生け贄を捧げればなんとか助けれると、村人は信じていました。それが嘘だと教えてくれたのは、ネモフィラさまでした。
たまたま旅をしていたネモフィラさまは、この村に滞在したときに、この儀式のことを知りました。
そして、ネモフィラさまは私たちの儀式が全くの無意味だったことを教えてくれました。
もともとネモフィラさまは魔法使いでいらしたので、この村に様々なものをもたらしてくれました。
ただ、ネモフィラさまとしては、もう次の弟子は取らないと決めていらしたようで、魔法自体は誰にも引き継がれませんでした。
それでも、魔法以外のあらゆること、この村以外のことや世界のこと、そして楽しい神話や昔話を話して聞かせてくれました」
付き人は、絡まった糸をほどくように、言葉を選びながら丁寧に話してくれた。
私たちは付き人を囲むようにして、円になり、彼女の話を聞いていた。
円の真ん中にある灯火が、ときおり風で揺れると、時が流れているのを教えてくれるようだった。
「その儀式は、すぐに終わったんだよね?それであれば、ネモフィラが死ぬこととは関係ない気がするけど?」
ロキは真剣な顔で付き人に問いかけた。
「そうなのです。儀式の件はすぐに片付き、神熊と呼ばれた大きな熊もそのうち寿命で息耐えました。
ネモフィラさまが、こうして“死を繰り返すようになった”のは、ここ数年の間です」
「“死を繰り返す?”」
全員が声を揃えて、疑問を投げ掛けた。
「あら、もうすでに村長から話を伺っていたと思っていました。
ネモフィラさまは、毎年こうして、死して生きてを繰り返していらっしゃいます」
付き人は、花びらのベッドの上に横たわるネモフィラに一度視線をくべた。
「神熊さまのお話は、私が生まれる前のそれこそひいばぁばのひいばぁばの時代の昔話です。
しかし、より深刻なったのは、ここ五年ほど前でしょうか。村に異変が起きたのです。
ただの流行り病かと始めは皆思いました。しかし、さすがに止まらぬ下痢や連日連夜の高熱に加え、人が木のように固まり出したのです。
一時間ほど前まで元気で走り回っていた子供が、次の瞬間には、小枝のように小さく干からびていくのです。それも手のひらにのるくらいの大きさにですよ。
そうでなければ、手足やからだの一部がドロドロと溶けたり、関節がいろいろな方向に曲がるのです。
もっと恐ろしいのは、そうした症状が痛みを伴わないことです。皆笑いながら、息耐えていくのですよ。それはそれは、もう地獄絵図です?
村の道は、笑いながら死んでいく人々の遺体で埋まっていきました。
これには、ネモフィラさまも、持っている力を存分にお使いになられたのです。魔法や魔術を駆使したり、あらゆる手だてを尽くしました。時にはお仲間や知見を持つ方をたくさん連れてこられました。
そうして、最終的に出た結論は、“自らを、生け贄にする”ということです」
付き人の話は、まだ続く。
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