真実は常に見えるとは限らない
「ねぇ、ロキ。それってどういう意味?」
ロキはまだその老女の手を握り、地面に膝まづいたまま、顔を伏せている。
「言葉通りの意味だよイズミ。僕は彼女以上の徐魔法の使い手を知らない。その彼女がたった今目の前で息を引き取った。それがすべてさ」
村の人々もこの老女の死を悼んで集合を作っていたのか。
女性や子供、男たちも顔をしかめたり涙を流したりしている。
「この人が亡くなったのはとても残念だわ。あとでしっかり御悔やみとお別れをしましょう。徐魔法の方は…他にできる人を探しましょう」
「それが、できないんだよ!」
それまでの穏やかなロキはどこかないなくなり、荒々しく叫ぶ少年がそこにはいた。
「ヒルナがかけた精神と肉体の分離魔法はこのネモフィラが作った魔法なんだよ。そしてその解き方を知っているのもネモフィラだけなんだよ!」
語気がとても強い言い方だった。
まるで、精神の場で私を威嚇していたあの頃のロキそのままだった。
「…ごめん」
私は反射的に謝った。
「…。謝るのは僕の方だよ。急に怒鳴ったりしてごめん。ネモフィラは古くからの数少ない僕の友達で、イズミのことも助けられるって思っていたから、つい…」
物事がうまくいかないときのその気持ち、手に取るように分かるよ。
自分だけが神様に試練を与えられている気がして、何処にぶつけたらいいか分からない気持ちと感情だけが永遠に沸いてくる。
「私は…大丈夫だよ!もともとは、亡くなるはずだった運命だし、見てよ!この体!どんどん制御もできてきたし、こんなに身軽に動けるのってすごく便利だよ!」
私はロキに元気になってほしくて、目の前をくるくると蛍のように回って見せた。
「イズミ、本当にすまない。謝ることしかできない」
「大丈夫だよ!もしかすると、後継者とかがいるかもしれないから、聞いてみようよ!
それに、ネモフィラさんとは、しっかりお別れの時間が必要でしょう?」
「うん…」
ロキは力なく答えた。
数十分前のロキとは全くの別人のように感じた。
心なしかこの短時間でやつれたようにも思える。
「ミー…」
「お姉ちゃん…」
気がつくとヒルナとクロノも円の中心にいた。
雰囲気から察するに、一連の話は聞いていそうだった。
「…ということで、まずは予定通りこの村に泊めさせてもらいましょうか」
私はなるべくみんなが気を落とさないように明るく振る舞った。
心の中は不安しか渦巻いていなかったが。
「みなさま、ネモフィラさまにわざわざ会いに来てくださり、誠にありがとうございます」
村の長である50代くらいの男性が深々とお辞儀をした。
やはり、歴史の教科書で見た通りの、弥生時代か縄文時代を思わせる高床式の建物や土器は、なんだか親近感を覚える。
「まさか、不死のネモフィラが亡くなるとは思えなかった。前日には元気な生体反応を感じていたのに、急だったな。なにか病気か?獣か?」
「それかですね…」
村長もネモフィラの死に動揺しているのか、言葉に詰まっているようだった。
「あ、今はお辛いですよね。おいおい聞かせてください。今は喪に服しましょう」
私は村長を気遣った。
村長は、ほっとしたような顔でぺこぺこと頭を下げた。
この村は、日本人のようなアジア系のテイストをした顔立ちの人が多い。
ヒルナやクロノ、ロキは完全に西洋に近い顔立ちをしているが、ネモフィラも含めて、まるで日本に帰ってきたかと思うような雰囲気を感じる。
悲しいはずなのに、なぜだか少しだけ心が軽くなった。
「ねぇ、ロキ、ネモフィラさんのところに行きましょう。お別れの言葉をかけてあげるのはどうかな?」
「…うん。そうする」
さすがのトリックスターロキも旧友の死は、深手なのだろう。
「村長さん、寝床から食事までいろいろとありがとうございます。そんなに長居はしませんので。では、失礼しますね」
私たちはネモフィラが眠るという場所に向かった。
外はすっかり真っ暗になってしまった。
クロノ曰く、移動魔法は時間も移動するので、移動元が朝だからといって必ず移動先も朝ではないらしい。
時差のようなものなのかもしれない。
私たちがこの村についたとき(時空の扉を開けたとき)には、すでに夕方だったようだ。
高床式の部屋を部屋を後にしたとき、私たちはまだ気づかなかった。
村長の視線と、部屋の明かりの炎がゆらりとゆれたことを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
更新の励みになりますので、いいね!やブックマークをどうぞよろしくお願いします!




