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死が体を別つとき

クロノが出してくれた移動魔法用の大きな扉に入ると、ヤァヤァの家を探したときのような不思議な空間が広がっていた。


青や白の色を混ぜたマーブル調の空間に、様々な色や形の扉が重力を忘れたかのように浮遊している。


「ねぇロキ、惨憺さんたんの姫がいる村って、どんなところなの?なんだか、ちょっと不気味な響きのお姫様なんだね?」


重力を感じず、むしろ逆らっているのは私の方かもしれない。


光の粒が集まったような球体の体を宙に浮かせながら、先を歩くロキに訪ねた。


「あぁ、惨憺の姫は、僕の昔からの知り合いでね。なかなかの癖が強い人だよ。でも、魔法の力については、お墨付きだ。必ずイズミを元のからだに戻してくれるよ」


ロキは騎士のような白い服に身を包み、優しく微笑んだ。


「惨憺の姫に了承を得たら、またクロノの移動魔法でお姉ちゃんの体を持ってくるのじゃったな?全く、クロノの無駄遣いをしないでほしいのじゃ」


文句は言いつつも、頼られると嬉しそうなクロノなのであった。


「惨憺の姫か。私も長生きをしているが、聞いたことがない名前だな」


ヒルナが首をかしげながら言った。


「それはそうさ。村外れも村外れ。外から人が滅多に来ないような秘境にある村なんだ。村人もかき集めて100人もいない。そこに惨憺の姫がいる」


ロキは旧友に会うのが楽しいのか、ワクワクしていそうだった。


「物騒な名前はどこからきたの?安全なんだよね?」


異世界では命をすり減らすようなことが日常茶飯事的に起こりそうだったので、私は心配になってしまった。


「惨憺の姫はね、ある儀式から来ているんだよ。あ、ここの扉だね。この扉から姫の生体反応を感じる」


ロキは数ある扉の中から、ひとつの扉の前で立ち止まった。


扉は木の枝や葉っぱ、木の実や蔦などとても原始的なもので形作られていた。


ヤァヤァの場合は、おしゃれなドアノッカーがついていたりしたので、この扉はその先の世界の象徴なのかもしれない。


苔で覆われた緑と茶色の扉をゆっくりと開けて、私たち四人は新たな世界へと踏み行った。










扉の向こうは、森だった。


しかし、生えている木々が少し違っていた。


なんだか木なのだが、どこか生き物のようにも見える。


黒っぽくて細長くて、葉っぱは肉厚で生き生きとしているが、どこかよそよそしい。


なんだろう、この不安な感じは。


“惨憺の姫”という言葉のイメージに引きずられてしまっているのだろうか。


私はみんなの最後尾を歩き、その村を目指して重い足を前に進めた。


「?!」


先頭を歩くロキの様子が急に変わった。


「なんだ?!どういうことだ?!」


「どうしたロキ?」


ヒルナはロキのすぐ後ろを歩いていたので、ロキの変化にいち早く気がついた。


「…」


クロノは何かを知っているのだ。


これは大きなターニングポイントになるということか。


ロキは足早に村に向かって進んだ。







森を抜けると、村の入り口らしきところまでやってきた。


切った木で作られた門のようなアーチの向こう側に人だかりができている。


「あそこだ…!」


ロキはとても焦っているようだった。


途中何回か転びそうになりながら、森を抜けて村にたどり着いた。


「ロキ!」


私の声が届かないのか、もう人混みを掻き分けて次の瞬間には姿が見えなくなった。


あれだ。


昔、歴史の教科書で見たことがある。


弥生時代か縄文時代かは忘れたけれども、麻のような布地を身に纏った民俗が群れをなして何かを取り囲むように見ている。


「…ネモフィラ?」


人混みの中心からロキの絞り出したかのような声が聞こえる。


「すみません、すみません」


私は光の体をうまく使って、人々の間をすり抜けて、ロキのもとへ行った。


人だかりの中心はぽっかりと空間が空いていて、そこには人が一人、横たわっているように見えた。


色とりどりの花びらに囲まれて、たくさんの果物が備えられているベッドのような長四角の祭壇のようなところに、老女が一人寝ていた。


「…イズミ、すまない。“惨憺の姫”は、たった今亡くなってしまったらしい」


「…へ?」


「イズミ、本当に申し訳ない。僕がふがいないばかりに、こんな…」


「ロキ…?」


ロキはその老女の手を取り、必死に涙を堪えているようだった。


「この“惨憺の姫”がいなければ、イズミの精神は元のからだには戻らない。一生、そのままだっていうことだよ…」


見知らぬ土地で、見知らぬ人々に囲まれながら告げられたのは、そんな衝撃的な言葉だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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