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金目の魔女の偉業

「アロゴ、僕がんばるね」


「はい、よろしくお願いします。私はしがない魔法も使えない一般市民です。あなたのような偉大なる方がいれば百万力ですね」


楽しい。


こんなに誰かと穏やかに話すことなんて、本当に僕にできるんだ。


良かった。


ずっと殻に閉じ籠っていないで、勇気をもって、本当に良かった。


コンコンッ


誰かが扉をノックするよく響く音が部屋に鳴った。


「すみませ~ん。お取り込み中、いいですか~?」


少しだけ空いた扉の隙間から顔をひょいっと覗かせたのは、イズミだった。


「もちろんですよ、イズミさま」


「あぁ、良かった。ちょっとお邪魔しますね」


イズミに続いて、部屋に入ってきたのはヒルナだった。


「ロキ、例のもの、渡したの?」


イズミはアロゴを気にするように、少し小声で僕に話しかけた。


「うん、気に入ってくれたよ。でも、今はつけられないって。なんでも、復讐が終わったときでないとってことだった。それが、一族が殲滅した証というか、区切りなんだって」


「なるほどね~」


イズミは何やらニヤニヤした顔で何かを企んでいるようだった。


でもそれは、悪意のある企みではない。


イズミから放たれるオーラは、太陽のように温かいものだ。


「あのね、アロゴさん。実はもうひとつサプライズがあるんです。よかったらこっちも受け取ってもらえますか。もしかしたら、こっちは結構ビックリしちゃうかもしれないんですが…ヤァヤァさん考案だからな…」


イズミの声は尻すぼみ的に小さくなっていった。


「ミー、最後のは言わない約束だぞ」


「あ、ごめん、つい勢いで」


「今日は皆さん私にたくさんプレゼントをくださる日なのですね。二日酔いになるのも悪くはないですね。お酒を飲むのは、村の大火の日依頼だったもので。なんでしょう?いただけるものであれば、何でもいただきますよ」


アロゴは胸に朱色の木箱を胸に抱きながら、微笑んだ。


この馬顔の執事は、海よりも深い優しさを持っているようだ。


「よかった。びっくりしないでね。私はびっくりしちゃったけど…喜んでくれるといいな。じゃあ、ヒルナお願いね」


「うむ。まだ寝ているようだ。ゆっくり渡すぞ」


ヒルナはそれまで胸までマントを被っていた。


寒いのかな?と思ったが、そんなことはないはずだった。


マントの下の膨らみから、出てきたのはヒルナの腕だった。


しかし、何かを抱えるように腕を膨らませて、アロゴに差し出した。


「こ、これは?」


ヒルナは何かをアロゴに渡したが、その腕の中にあるものは透明で見えない。


何かの悪戯か冗談だろうか。


いや、違う。


これは、まさかー。


「すまない。魔法を解除するのを失念していた。あくまでもサプライズにこだわっていたからな。ミーの作戦は、この辺りで解いてよいか?」


「うん、いいよ。アロゴさん、本当にびっくりしないでね」


ヒルナは何か呪文を唱えると、その抱えるの腕の中に、なんと白いタオルに包まれた赤子が現れた。


すやすやと息を整えながら眠るその赤子は、天使のように白い髪をして真珠のように白い肌を覗かせていた。


「…」


アロゴはびっくりした表情で固まっていた。


何も言葉がでないようだった。


「ちょっと、お待ちください」


ぎこちなく僕が渡した朱色の木箱をゆっくりとベッドの上に置いて、再度状況を確かめた。


「この赤子は?」


「きっとアロゴさんなら、分かるはずです。抱いてみてください」


「分かりました」


ヒルナはゆっくりとそのタオルに包まれた赤子をアロゴに手渡し、そしてその腕に抱いた。


「…?!」


「分かりましたよね?」


イズミは確信を迫るように言った。


「いや、嘘です。そんなことはありません。いや、だって、あのとき私が」


「そうです、あのときアロゴさんが意図せず引き抜いてしまったカブイーラさんの心臓。その心臓がそのあとどうなったか分かります?」


「わからない。私はあの後廃人のようになってしまったから、てっきり奥さまが対処してくれたものだと…」


「ヤァヤァさんは、その心臓をずっと大切に保管していたみたいなんです。あなたが、“犯人はユニコーン”と言っていたのを覚えていて、いつかユニコーンの角を手に入れたときに、復活させようと思っていたって聞きました」


アロゴは何も言わずに赤子のカブイーラを見つめていていた。


「本当に…皆様…なんとお礼を申したらいいのか…」


「ユニコーンの角は少量でもかなり強力な薬だ。アロゴの両手を直すのなんて、ティースプーンよりも少ない量で足りてしまったのだ。ヤァヤァはすべて計算していたのかもしれないな。


本来生命を作り出すことは、神々の所業であり、魔女がその領域に踏みいることは固く禁じられている。しかし、ヤァヤァはそのあたりを魔女法をうまく掻い潜って、今回赤子の再生に成功したのだ。“産み出していない、形を作ったのだ。もともと生きていたのに形を与えた”と、魔女庁からも正式に認められた。リスクを知りながら、偉業を成し遂げたのだ。


ちなみにロキのからだの一部であったユニコーンの角をこの赤子の再生に使ったので、からだの半分はロキのようなのだ。


ロキ、お主のユニコーンの角、すべて使わせてもらったとヤァヤァが言っている」


ヒルナも嬉しそうに補足してくれた。


なるほど。


ヒルナの透明魔法で姿を消していたこともあって、道理で生体反応で察することができなかったんだ。


「あの、奥様は、どこにいらっしゃいますか?」


「ヤァヤァはいないよ。でも、ここはヤァヤァの館であり、彼女の体内のようなものさ。すべて知っている」


「本当に…本当に…何とお礼を申したらよいのか…皆様、奥さま、本当にありがとうございます」


アロゴは目から大粒の涙をたくさん流しながらお礼を言った。


「あんまり大きな声を出すと、赤ちゃんが起きちゃいますよ。これからは、復讐なんて考える暇がないくらい忙しくなりますよ」


イズミもウキウキしていた。


「アロゴ、その赤子を抱くにはその両手は相応しくないのではないか?」


ヒルナがベッドの上にある朱色の木箱を指差しながら言った。


「ははは、そうですね。こんな無垢な天使を抱くのに、復讐の両手では不釣り合いですね」


アロゴも生まれ変わる。


復讐は完全には終わっていないが、今日と言う日を境に、明るい未来に向かって歩いていくんだ。


僕も、そして、みんなもー。


オレンジ色の西陽だけが、変わらずにこの部屋のみんなの顔を優しく、そして暖かく照らし出していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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