心臓が飛び出るくらいのサプライズ
「さぁ、できたよ」
「え?まだ何も始まっていませんよ」
ヤァヤァさんのどや顔の意味が分からず、私は即答した。
「なぁに、簡単なことだよ」
ヤァヤァさんは紫色と黒色の長いマントを翻して、私たちに背中を向けた。
「これだろう、ロキ」
ヤァヤァさんが私たちに見せたのは、朱色の少し大きめの箱だった。
両手を広げてさらに少し大きくしたくらいの箱をテーブルに置いた。
「これがそれって、だって僕まだ何も渡してもいないですよ」
「いや、いただいたよ。しっかりとね」
「だって、まだここに…」
ロキが例のものを確認するために、腰に手を当てた。
「あれ?無い?」
「だから言っただろう。しっかりといただいたって」
「盗んだのか?」
「まさか、何を言う。人聞きの悪いことを言うのではない」
「だって、僕は渡した覚えなんて…あれ?確かにヤァヤァに袋を渡したような気が…」
「徐々に記憶がついてきたのだな」
「ヤァヤァさん、どういうことですか?」
朱色の箱を囲みながら、ヤァヤァさんを除く三人は困惑していた。
「なぁに、簡単なことだよ。
さすがの妾でも、やったことがない魔術をやるのはいささか手間取るものよ。それにそもそと数時間でできる依頼ではないことは皆も理解できよう。
それもあり、少しだけ時間を“いじらせてもらった”のさ。ロキから物を貰ってから、妾は一旦過去のある時点に飛んだ。
そして、そこから時間をかけて魔術を始めた。そのあと、また再びこの時間に戻ってきた。
皆の記憶が混乱しているのは、記憶が時間に追い付いていないからさ。徐々に記憶が脳に馴染んでくるのが分かるだろ」
「そう言われると、確かに。ロキがヤァヤァさんに袋を渡して、それから、“ちょっと時間がかかる”みたいなことを言って、そしたら次の瞬間には“できた”って」
「そうだろう?妾は嘘はつかぬよ。
ロキよ、立派な代物をありがとう。いい経験をさせてもらったよ。それも、絶頂に近いな」
「ヤァヤァ、かたじけない。恩に着る」
「世代の有名人ロキから感謝の言葉を言われるとはな。妾も大きくなったものよのう。
さぁ、持っていくがいい。アロゴの二日酔いはそろそろ直るはずだ」
ロキはヤァヤァから朱色の箱を大事に受け取り、部屋から出ていった。
「ミーは一緒に行かなくてもいいのか?」
ヒルナが赤い瞳をこちらに向けた。
「うん、いいの。これはロキのサプライズだから。私たちはお手伝いだからね」
「ミーの優しさ、ヒルナにも染みた。ミーはやりいい主人だ」
「なぁ、お主たち」
ヤァヤァは、火にかけている大きな魔女鍋をかき混ぜながら背中越しに話しかけてきた。
「今のがロキのアロゴへのサプライズなら、私からロキへのサプライズもありだろう?言い換えると、私からアロゴのサプライズにもなるかな。
これを見てみよ」
紫色の布を被った大きな箱。
頭からおとなの胸くらいの大きさがあるこの箱には何があるのか。
ヤァヤァは躊躇いもなく、紫色の布を開けると、そこには、飛んでもないものが入っていた。
「ヤァヤァ、これはなんだ?話によっては、魔女裁判だぞ」
「なぁに、物騒なものではないよ。“正規のルート”から手に入れたものさ。ちょっとこれでサプライズをしても悪くはないかなとな」
「ちょっとどころじゃないと思いますよ」
私はヤァヤァがこれからしようとすることが良いことなのは分かっているが、“倫理的”に良いのかは判断ができなかった。
「この機会くらいでしか恐らくできぬ。さらに言えばある意味運命なのではないか」
「ヤァヤァ、ヒルナはなにも言えぬぞ。お主がやろうとしているのは神の領域の話だ」
「なぁに。神族に喧嘩を売ろっていうわけではいよ。ただ、目の前にあるチャンスを逃したくないだけさ」
まだヤァヤァさんと出会って数日だが、今が一番優しい目をしている。
「ヤァヤァさん、手伝わせてください」
「おや、お主は賛成派か。まぁ、お主は余所の世界から来たものだからな。じゃが、妾は誰がなんと言おうとやってのけるぞ。またとないチャンスをみすみす逃すほど、のろまな魔女でなはないぞ」
ヤァヤァさんは再び金色の瞳に力を込めて言った。
とんだビックサプライズになりそうだ。
アロゴさんの心臓が飛び出るくらいのね。
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