ガリヴァー旅行記
「ミー。お待たせして申し訳ない。元気か?」
巨人になったヒルナは、呑気に話しかけてきた。
やはりからだが大きくなると、声も大きくなるようで、常にエコーがかかったやまびこのように声がこだまして聞こえる。
「ヒ、ヒルナ…?!」
私まだ状況が飲み込めずにいる。
「あなたの、知り合いだよね?フェンリルが痛め付けてしまった…」
これには白の少年も困惑しているようだ。
「…確かに生命の波動は完全に消えていた。残る魂のオーラも感じとることができないまでに薄まっていた。しかし、同じだ。フェンリルが傷つけてしまったあなたの友人と全く同じオーラだ。間違えるなんてできない。あなたの友人は、生き返ったということなのか…?」
「ヒルナ…生きていたの…?」
直接ヒルナの遺体を見たわけではなかったので、ヒルナが亡くなった実感はほとんど沸かなかった。
でも、もう二度と会えないと思っていた人に出会えるのは、こんなにも嬉しいものなのだ。
「すなまない、ミー。傷が思っていたよりも深くて手間取ってしまった。けれども今は大丈夫だ。クロノも無事だ」
「クロノも無事なの?!」
「お姉ちゃーん!」
今度は巨人の声ではなく小人の声で、元気な幼女の声が外から聞こえた。
「お姉ちゃん、遅かったね!ちょっとこっちも手間取ったけど、なんとか無事だよ」
「良かった…本当に良かった…」
クロノは未来が見える能力があるので、やはりなんとか回避したのだろう。
急な安心感からか、体から力が抜ける感覚と目から涙が出るような感覚が同時に押し寄せた。
しかし、今物理的な肉体がない状態なので、あくまでも“感覚”に留まっているが、体があるなら床に座り込んで大粒の涙を流していたことだろう。
「…そやつが、ユニコーンの正体か?」
巨人の声でも声色がわかるくらいにトーンを落として、ヒルナは白の少年に視線を合わせた。
「うん、そうだよ。でもやっぱり、ユニコーンではなかった。ユニコーンに化けて戻れなくなったかわいそうな少年なの。話は全部聞いたからあとで話すね。アグロさんにも説明しないと。アグロさんの村を襲ったのは、この少年ではなく、別にいるみたい」
「そうなのか…?まぁ、ミーが無事で何よりだ。そやつからは、あとでじっくり話を聞かせてもらおう。精神の核に到達するとは、さすがミーだ。
さぁ、ミー、おいで」
ヒルナはそう言うと巨人の手を私に向かってゆっくりと差し出した。
まさに、昔見た絵本のようだと、過去の記憶がフラッシュバックした。
何だっけ?あの、巨人が島に流れ着いて、島の住人に縄で縛り付けられたあの作品はー。
「まるで、“ガリバー旅行紀”みたいだね」
ヒルナの指は、まるで大きな太鼓のように、綺麗に伸びた輪切りの大木のように大きくて、温かくて、柔らかかった。
さながらアスレチックで遊ぶ子供のようにヒルナの指にしがみつきながら(体はないものの、しがみつくように這った)、ヒルナの手の上に乗った。
私がしっかりと手の中に収まったのを確認してから、私はゆりかごに揺られるようにゆっくりとヒルナの手を渡舟のようにして精神の核から脱出した。
外から見る精神の核(場)は、内側から想像していたとおりに、黒い卵の殻のように真っ黒な見た目をしていた。
精神の核の中は、温かくも寒くもない状態だったが、外は少しだけひんやりと冷たく感じた。
それは、ヒルナの手が動いていて、風を切っていたからかもしれない。
心地よい空気が私に生きている実感を与えてくれた。
ヒルナの手は、彼女の顔の前に止まった。
目の前に大きな赤髪の美少女エルフの顔が見えた。
赤い瞳に笑うと少しだけ見える八重歯。
近くで見るとその瞳の美しさやキメ細かに輝く肌の感じや長い睫毛の先までよく見える。
ヒルナの手の下を覗くと、クロノがこちらに向かって羽をパタパタとさせて近づいてくるのが見えた。
「お帰り、ミー」
「お帰り、お姉ちゃん」
私の大切な二人。
大きな仕事を一つ終えた気分だった。
「ただいま」
私は精一杯の笑顔を二人に振り撒いた。
三人無事で、生きてヤァヤァとアロゴさんのもとに帰れそうだ。
あたりは、夕闇に差し掛かり始めていた。
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