神族からの復讐
まさか、自分の息子の腸で体を縛られるなんて思いもしない人生だった。
しかし父の怒りは僕を捕らえるだけでは済まなかったんだ。
父は僕をあえてすぐには殺さずに、じわじわといたぶりながら精神的にも攻撃する方法で怒りをぶつけてきた。
神族は爪は甘いが、怒りはどこまでも果てしなくついてくるんだね。
神たちが神たる所以はこの貪欲さと執着心なんだと僕は気づいた。
それはさておき、息子の腸を鎖に変えて、僕は山奥の洞穴の中に幽閉された。
そして息子のヨルムンガンドを模したような蛇を頭上に置いたんだ。
その蛇からは滝のように口から毒が絶え間なく流れるんだよ。
その毒は酸性でとてつもなく染みるんだよ。
まるで大きくて何万本の針で全身を刺されるみたいに。
ラトゥリアが、僕の頭上にいる蛇の毒から守るために水瓶で毒を取ってくれるんだ。
しかし、この蛇は絶えず口から毒を出し続けるものだから、水瓶はしばらすくるといっぱいになってしまう。
そうなると、洞窟の外に捨ていかなければいけないんだが、ラトゥリアが水瓶で毒を受けてもくれないと、僕に直に蛇の毒が当たる。
この毒は高い殺傷能力はなく致死性は極めて低いものの、痛みにはかなり特化した毒で、毛穴という毛穴に入っては大暴れするんだ。
どう体をくねらせても捩らせても、父が岩に打ち付けた鎖(ナリトの腸)は奥深く頑丈に埋め込まれていて、僕自信身動きがとれない。
僕は毒を受けることを覚悟して、1秒でも早くラトゥリアが帰ってくることを祈ることしかでなかなかった。
しかし、ラトゥリアが帰ってきても、水瓶はすぐに毒でいっぱいになるのでまた覚悟の時が訪れる。
しかも毒は厄介なもので、すぐそこに捨てると毒性が増すようで、必ず洞窟の外に捨てなければ毒性が浄化されない特徴を持ったいるんだ。
足元で毒を捨てたものなら、僕だけではなくラトゥリアにも被害が及ぶ。
父がなぜ子供たちを殺したのにラトゥリアだけを生かしたのかが、徐々に分かってきたよ。
こうしてチクチクと針で指すような痛みを断続的にかつ半永久的に与えることが父の目論見であり、さらにはラトゥリアと僕を精神的に追い込むことが目的だったんだ。
これは針で一撃でやられるよりもキツイことなんだ。
しかし、ラトゥリアは文句も言わずに、ひたすらに水瓶を捨てることを続けた。
僕と出会わなければ、ラトゥリアはこうして肉体的にも精神的にも辛いことを強いられることはかなかった。
僕はラトゥリアに謝り続けた。
けれども、ラトゥリアは「いつだって、あなたといることに意味があるのです。私に“やること”をくださってありがとうございます」と言うだけだった。
位の高いラトゥリアは、自分で身支度することも許されない高貴な存在だった。
何をやるにも召し使いが着いてきて、着替えるだけなのに、自分ではしていけない決まりだった。
お手洗いにいくときですらそうだったんだ。
そんながんじがらめになっていたからこそ、“自分の意思”で何かできることが、本当に嬉しかったらしかった。
ラトゥリアは、よく「今、生きている気がしますね」と口癖のように言っていたよ。
「ラトゥリアさん…」
出会ったこともないが、人よさをこれほどまでに感じることは、私の人生でもないことだった。
きっと本当にこの白の少年が好きで、生きる喜びを感じていたのだ。
確かに白の少年がしてしまった兄弟殺しは見栄以外の何物でもないし、ラトゥリアさんは巻き込まれただけの無垢な被害者に過ぎない。
それでも、人それぞれ大切なものは異なる。
白の少年にとって大したことがないことでも、ラトゥリアさんにとっては、とても大切なことなんだ。
「そのあと、どうなったの?」
「あぁ、そうだね。そのあとは、父も見かねて僕たちを解放してくれた。僕は日々の痛みからすっかり髪が真っ白になってしまったし、毒の影響か分からないけれども、体も脱色してしまった」
「もともと真っ白ではなかったんだね」
「うん。もともとは、普通の焦げ茶の髪に、日に焼けた褐色の肌をしていたんだよ。今は髪を染めても、太陽を浴びても、決して変色しないんた。これが、ユニコーンの呪いだよ」
「ここで、ユニコーンが出てくるのね」
「…うん」
白の少年は、含みを持った返事をした。
「僕の愛するラトゥリアは、ユニコーンに殺された。そして僕はユニコーンから元の姿に戻ることができなくなった。ユニコーンの呪いさ。僕の話ももう少しで終わるから、もう少しだけ付き合ってもらっていいかな?」
「もちろんよ。最後まで、聞くわ」
私は白の少年が行き着いた過去を見届けるために、彼の声に耳を澄ませた。
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