第二の危機、大狼フェンリル
突如現れた大狼は、荒くて熱い息を吐きながら、私と白の少年のすぐ目の前でその存在感を増していた。
長く豊かに生えた灰色の毛を揺らしながら、金色の目をした大狼は、次の瞬間にも私たちの頭を食い千切りでもしそうな雰囲気を出していた。
音もなく気配もなく姿を現したこの大狼に、とてつもない高い能力を感じざるを得なかった。
もう、終わりだと悟った。
訳も分からず、誰も救い出すことも、何か成し遂げることもできずに、私はこの異国の、いや、異世界の土の上で死に絶えるのだ。
さらに言えば、ここは精神の核であり、最早肉体すらない状況だ。
土すら踏めないままに、私の命は終わりを迎えるのだ。
人は危険を感じたら、何を考えるのだろうか?
私の場合は、走馬灯すら見ることもできずに、獣臭い息を顔に浴びて、死ぬのだ。
あぁ、短い人生だった。
恋人もいないし、子供もできなかった。
世の中に名前を刻むこともできなかった。
次もしも、生まれ変わることがあったのなら、もっとまともになりたい。
そう願い、固く目をつむった。
今から大狼から逃げようと必死に走っても意味がないのは明白だ。
建物の二階に匹敵するほどの大きさの大狼だ。
完全に腰が抜けてしまっているので、走ることもできないのだが。
「あなたの人世は、それほど悪いものでもないよ」
聞こえたのは、白の少年の声だった。
「あなたを救えなくて、ごめんね」
「もう一度僕はあなたに救ってもらったよ」
「でも、二度目はないわ。今からこの大きな狼にやられてしまうんだもの」
「ん?どういうこと?」
「どういうことって…」
そう言って恐る恐る固くつむっていた瞼を開けてみると…
そこには、愛犬と戯れる愛犬家の姿が広がっていた。
さっきまでのシリアスな雰囲気とは全くことなり、日常的なほんわかとした風景があった。
大狼は完全に野生を失い、飼い犬のごとく飼い主になつき、ゴロゴロと喉をならして、「もっと撫でて!」と言わんばかりに白の少年にすり寄っている。
そして、白の少年も大狼の首をわしゃわしゃと豪快に撫でまわして、その大きな毛に手を埋めながらスキンシップをとっていた。
「…え?」
急な展開に頭がついていかなかった。
「もしかして、知り合い…?」
「知り合いも何も、フェンリルは僕の子供さ」
「えぇ?!子供?」
「そうだよ。詳しいことは割愛するけれども、僕と血が繋がっている。つまり、フェンリルはあなたを襲わないよ」
そう聞くと、安心感からか、へなへなと私は地面に着地した。
「良かった~」
泣きそうな気持ちだった。
「あれ?フェンリル、口の周りや爪に血がついているよ。どうしたの?誰かにやられたの?」
フェンリルと呼ばれたその大狼は、白の少年の耳元で何かを話しているようだった。
「タチバナイズミ、すまない」
白の少年は改まって私の方に向き直った。
「どうやら、フェンリルがあなたの仲間を殺してしまったらしい」
「…へ?」
「すまない、僕を助けてくれたのに、あなたの大切なものを傷つけてしまった」
私は再び頭の中が、真っ白になってしまった。
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