あなたの大切な人は、あなたの心の中で永遠に生き続けるわ
その白の少年は虚ろな目をしたまま私を見つめていた。
「お名前から、聞いても良いかな?」
まずは少しでも仲良くなろうと名前から聞いたものの、反応はなかった。
「あ、こう言うときは私から名乗るべきよね。私は橘和泉。好きなものはアニメ…えっとこの世界では何て言うのかな?本を読んだりすることや、食べること。
今はここから大分離れたところにあるウカという主人のもとで奴隷契約をして働いているわ。他にヒルナっていうエルフの子やクロノっいう天使みたいな子もいるよ。よろしくね」
私はよろしくと手を差し出そうとしたが、ヒルナに体を一時的に溶かしてもらったので、今は私自身も精神のとなっているのに気づいた。
しかし、白の少年は私の動作を察してくれたのか、「よろしく」と手を差し出してくれた。
「あなたは、なぜ僕のところに来たの?」
少年はまだ生気がない目をこちらに向けて質問をした。
私がここに来た目的。
それはー。
「あなたを守るためよ」
「本当?そんなの信じられない」
少年は再び体を小さく丸め、顔を伏せた。
「本当よ。あなたのお話を聞きたいの。そして、あなたを暗闇から救いたいの」
本当に罪を犯したのなら、それはそれで償ってほしい。
ただ、それがもしも致し方ない理由なのであれば、その訳を聞くくらいなら私にもできる。
「ねぇ、あなたの名前を聞いても良いかな」
私は白の少年の肩にそっと触れた。
すると、ものすごい熱波が少年の体から吹き出して、私は遠くに飛ばされてしまった。
時刻は私が白の少年と出会う少し前のこと。
(遅い。あまりにも遅すぎる)
ヒルナとクロノは焦っていた。
私が肉体を一時的に捨てて“精神”となり、ユニコーンの鼻の穴から精神の核に辿り着くために突入してから早くも三時間が経過していた。
相変わらずユニコーン擬きは眠るようにしてクロノの膝の上ですやすやと寝ている。
精神の核は、そこまでして見つけ出すのが難しいのだろうか。
ヒルナもクロノも、精神の核というものは見たこともないし、触れたこともない。
しかし、確実に“ある”というのは知っている。
心の奥底にある精神の凝縮体にした、どんな強い者でも打ち勝つことができる唯一の弱い部分である。
そこに直接アタックすれば、何かしらの変化がある。
ここは、待つしかない。
ヒルナとクロノは、今か今かとその時が来るのを待った。
(期限は、日が暮れるまでだ。日が暮れてしまうと、手遅れになってしまうー。)
まだ日は十分に高いが、時間は刻一刻と迫っていた。
突如現れた熱風が収まったかと思えば、次はとてつもない殺気を感じた。
今まで生きてきて、“殺気”を肌で感じたのは生まれて初めてだった。
しかし、これが殺気なのだ。
冷たくて、鋭くて、肌がビリビリとする。
紛れもなく、白の少年から出される殺気は人を近づけないくらいの圧力があった。
「あなたの、この殺気は、自分を守るためなのでしょう?何に怯えているの?」
私は何とか距離を縮めようと歩を進めるが、ギリギリと胃が痛くなるような殺気に近づくことすら許されない。
「私は、あなたのこの心のバリアを解放したい。ただれそれだけ。少しでもあなたを救いたいの」
「黙れッッッ!」
白の少年は真っ赤な目を鬼のように吊り上げて、殺気を可視化できるくらいに体から滲み出させてていた。
「お前に何が分かる…!僕のことなんて、誰も理解してくれないッッッ!誰も僕のことなんか気にかけてくれなかった…ッ!殺してやる…殺してやる…ッ!」
「だめ…!誰かを殺したら、またその誰かが誰かを殺めてしまう。連鎖を止めないと」
白の少年は、怒り狂っていた。
「僕の気持ちが分かるものか…大切な人を失うこの気持ちが…」
「分かるわよ!」
「…え?」
「私だって、大切な人を失ったことがあるわ!涙を流した夜もある…でも、それで誰かを殺して言い訳じゃない…!」
「…嘘だ。みんな僕を騙そうとしているんだ。嘘をつくんだ。そして誰も信じてくれないんだ」
「私は違うわ…!命を懸けて、あなたを助けに来ている。私の大切な人はもう二度と生き返らないけれど、私の心の中でずっと生きてる。だから、死んでなんかいないの…!」
私の大切な人ー。
そう、それは、私がこの異世界に来る前に死んでしまった(殺されてしまった)、アニメの推しのことである。
その推しは、奇しくもヒルナにそっくりで、ある意味で生き写しで、私の心の中で生きている。
他にも小さいときにおばあちゃんやおじいちゃんを亡くした。
それでも、二人の思い出は心の中にずっと残っている。
「生きてなんかいないッ!僕は見た、この目で、この手で、この体でッ!」
白の少年の怒りはまだ収まらない。
「生きているわ!だって、いまでも思い出せるでしょう?その人の笑顔とか、笑い声とか、楽しかった記憶とか…!」
私は殺気に押し負けないくらいに大声でさけんだ。
「…ラトゥリア…?」
一瞬、殺気が急に止んだ。
(これは、いける…!もう少し…!)
「そう!ラトゥリアよ!あなたの大切な人は、まだあなたの中で生きているわ!あなたが殺してしまったら、本当に死んでしまうわ!」
「…ラトゥリア…」
白の少年は膝をつき、顔を両手で覆った。
「…僕は…僕までも…君を殺してしまったのか…」
殺気が止んだことで、私は白の少年に近づくことができた。
「ラトゥリアは、死んでいないわ。あなたのそばに、すぐいるはずよ」
できる限りの優しい言葉で、話しかけた。
「ラトゥリア…僕の唯一の愛…」
白の少年は、完全に殺気を殺した。
しかし、同じ頃、ヒルナとクロノは瀕死の危機に陥っていたのを、私はまだ知らない。
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