真っ暗な世界に現れた白の少年
暑くもなく寒くもないが、快適とは言えない空間がどこまでも広がっている。
ここにあるのは真っ暗な世界だけで、生命の欠片すらも感じられない。
鼻の穴から入れと言われたので、言われたとおりそのまま水泳で泳ぐように穴に向かって飛んでいった。
鼻毛が生えていたり、喉や口に通じる体内のトンネルがあると思いきや、ここは真っ暗なだけの世界だった。
とりわけユニコーンに化ける物の鼻の穴がこんな暗闇だけの空間なのかもしれないが。
ここは異世界だ。
元の世界と違うことが起こっても驚くべきではい。
私はヒルナに言われた“精神の核”を探しに、肉体を捨てた体(精神)を、ゆらゆらと波に揺られるように漂わせながら奥へ奥へと進んでいった。
どのくらい経ったのだろうか。
数分かもしれないし、数時間かもしれない。
ここでは時間的感覚が完全に麻痺してしまう。
私は文字通り宛もなく、闇雲に“精神の核”を探し続けた。
どこまで行っても、暗闇は暗闇のままで、わずかな光さえ見当たらない。
本当に“精神の核”はあるのだろうか?
徐々に不安になりつつある心を抑えて、歩き回った。
それからまたしばらくして、どのくらい経ったかは分からないが、ふと自分の中である考えが浮かんだ。
もしかすると、この空間自体が、“精神の核”なのではないかという考えだ。
ヒルナとクロノが嘘をつくわけもないし、命を懸けたこの勝負で茶番をするような余裕もない。
私がすぐにでも“精神の核”を探さなければ、二人がいつまでも危険にさらされることになる。
(精神の核…)
私は問いかけた。
(教えて、あなたの心。内側に抱えた悩みを聞かせて。私なら、あなたの話を聞いてあげられるよ)
じっと願い続けた。
集中力を高めて、この空間の中に隠れるものを見いだそうとした。
するとー。
音もなく、ほわりと遠くに光の粒が浮き上がった。
それは遠くから見てもとても儚くて脆くて、今にも消えてしまいそうな程に弱く光を放っていた。
(早く行かないと)
私はできる限り加速させてその光のもとへ飛んでいった。
(男の子…?)
光の粒はずいぶん遠くにあったが、近づくとそれは男の子だということが分かった。
体育座りで顔を埋めるその男の子は、私の存在に気がついていないのか、無反応のままである。
「ねぇ、あなたが、ユニコーンの中身なの?」
優しい声で語りかけてみた。
「…」
少年は無言だった。
「ねぇ、お話聞かせてくれる?」
この言葉にぴくりと体を反応させた。
「…本当?」
男の子は俯いたまま尋ねた。
「うん。あなたの話を聞くためにやって来たの」
男の子は私の言葉を聞いて安心したのか、ゆっくりと顔を上げた。
ボロボロの服を着ているが、顔はかなりの美少年だった。
白い髪に白い肌、目は真っ赤な色で虚ろだった。
「あなたのお話聞かせてほしいな。生まれてからここに至るまで」
私は目線を少年に合わせた。
「僕のお話…」
真っ暗な世界に私たち二人だけがいる。
音も響かないこの空間で、“精神の核”という確証はないが、目の前に現れたいたいけな少年の話を聞き始めた。
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