決戦前夜
「なぁ、ミー。私はアロゴが見たのはユニコーンではないと思うんだ」
「え?そうなの?」
時間は戻って、決戦前夜である。
アロゴとヤァヤァが盛大に用意してくれた晩餐会の場で、ヒルナは突然そんなことをいった。
「クロノもそう思う。だって、もともとユニコーンは人を好まない生き物じゃ。わざわざ命を奪うために村に下り立つようなことはしないはずじゃ。それがよほど気が狂ったユニコーンか」
アロゴの美味しい晩餐は、一気に雰囲気を変えて、再び重々しい雰囲気になった。
「エルフもユニコーンも、どちらも不老不死という属性ではとても似ている。そのため、種族間を通して、本当にたまにだが交流することがあった。私も何度かその席に参列したことがあるが、とてもじゃないが話し合いでどうこうできる奴等ではなかった。荒々しく、常に気が立っていて、一緒に友好を深めたいという者には見えなかった。
しかし、幼女や生まれたばかりの赤子にはかなり優しく接していることから、異質な奴とは言える。ユニコーンたちの、処女性への強いこだわりは最早病的か宗派の何かに感じるくらいだ」
ヒルナはワインのような葡萄色のお酒が入ったグラスを持ちながら口早に言った。
「クロノのときもそんな感じだった。ユニコーンは、同じような見た目をしたペガサスのことを兎に角毛嫌いしているようだった。
ペガサスは藁がいた天空でよく飛んでいる者で仲は良かったが、ユニコーンとペガサスをよく間違えられるというので、父に文句を言っていたのを陰で聞いたことがある。
何でも“時を戻して、ペガサスを絶滅させてくれ。若しくは、ペガサスが生まれない世界線にしてくれ”という要求だったと、父が食事の時に話していたのを覚えている」
「そうなんだ…。私が元いた世界では、とても気高くて高貴な存在って言うイメージだったの」
「そうなのか?それはとても愉快だな。うぬも御主の世界にいつか足を踏み入れてみたいものだ」
ヤァヤァが水タバコのような煙をふかしながら、妖艶な金色の瞳を細めて言った。
「ちなみに、ヤァヤァさん。ヤァヤァさんやクロノは魔法の力で私の元いた世界に行くことはできないんですか?」
元いた世界に帰れる手だてがあるかもしれない。
「いや、無いな」
ヤァヤァは即座にきっぱりと言った。
「あはは…無いんですね」
「そうだな。厳密には“うぬは持っておらん”が正しいな。御主がこちらの世界にこれたと言うことは、逆にこちらから向こうに行くことができるとも解釈できる。
ただ、そこには弁のように来るもの拒まずといった何かしらの力が働いていることは確かだろう。
うぬはあくまでも魔女である。魔女は何でも屋ではないからな。できること、できないことがあるのだよ」
「そう…ですよね」
私は一抹の希望を持ったことを若干後悔した。
帰られる選択肢を持っていて帰らないのと、帰られる選択肢がなくて帰らないのは、似ているようで大きく異なる。
「クロノも分からないよね」
ダメもとでクロノにも話を振ってみた。
するとー。
「お姉ちゃん…言えない」
クロノの答えはとてもごまかされたものだった。
ただ、クロノは未来が見えるがゆえに、あまり言えないのだ。
言ってしまうと世界線が変わってしまい、未来も変わってしまうのだそうだ。
それは、父である時の神クロノスへの反逆であり、最も控えるべき行動なのだ。
「ありがとう、クロノ。時が来たら教えてね」
私はできる限りクロノの気持ちを落とさないように優しい声と顔でお礼を伝えた。
「じゃあ話を戻して、ユニコーンの対策だけれども、そんなに大変な存在ならどうやって生きて捕まえる?」
私もワインのような葡萄色のお酒を一口飲んで、気分を変えた。
「それなら、私に策がある。
先ほど、アロゴにお願いして、過去の記憶を見させてもらった。すると、やはり奴はユニコーンではなかった。ユニコーンは、夜空をもっと深くしたような藍色の瞳をしているが、アロゴが見たユニコーンは鮮血ような炎のような赤い瞳をしていた。特異体質なのかもしれないが、ユニコーンで赤い瞳はいないと思ってもいい。つまり、アロゴが見たユニコーンは偽物であることが高い。
ユニコーンの皮を被って真似事をして、更には種族に恥をかかせるようなことをしたとユニコーン達が聞くと、必ず黙ってはいないだろう。
もしかすると、アロゴからの制裁よりも酷い仕打ちを受ける筈だ。それもあり、私たちは一先ずユニコーンもどきを生け捕りにする。
見てわかる通り、私たちは戦闘には向いていない。ミーは異世界から来た生身の人で魔法も使えない。クロノは能力は高いがまだ幼いゆえにパワーもそこまで強くない。私は光魔法をメインに使うが戦闘をした経験がない。故に生け捕りにするくらいしかできない。
ユニコーンは処女には狂ったように近づくはずだ。近づいてきたものがユニコーンであれば、この事実を伝えると、血眼で犯人を探すだろう。もしも犯人であれば、それは生け捕りにするだけだ。
更に言えば、ユニコーンは処女性を強く好むがそれ以外は全力で拒否をする。つまりアロゴの仮の腕を見せるくらいで発狂するはずだ。そこで興味を示さないのであればクロである。あとは、結界魔法か何かで全力で一時的に拘束をする。そこからはヤァヤァの方が向いているだろう」
「なるほどな。考えたものだな。人間の娘よ、良い従属を持ったな。誇り高いぞ」
「私にはウカとミーという立派な主人がいる。主人の顔に泥は塗らない」
「そこまではわかったわ。どうやって捕まえるの?私たち、戦えないよね?」
「お姉ちゃん、そこは安心して!」
クロノが元気に答えた。
「ここは、お姉ちゃんにも大活躍するところだから!ここは、未来に影響がないところで、クロノが教えちゃうねー!」
人の話を聞くくらいしか能力がない私に、ユニコーン擬きなんて存在と戦えるのか?
不安しかない状態だが、クロノの話を信じて、ユニコーン殺しへの最後の秘策に耳を傾けた。
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