旅立ちの朝
アロゴの作ってくれたごはんは、今まで私が食べてきた高級料理よりも優しい味がして、本当に美味しかった。
ただ、美味しいごはんを食べると思い出すのが、母の作ってくれた豚汁だった。
私の母は、料理がそこまで得意ではなく、どちらかと言うと父の方が料理好きで美味しいごはんを振る舞うことが多かった。
だからこそ、母が一生懸命作ってくれたごはんで、とりわけ豚汁は大好きだった。
アロゴも、もしかすると、そうした母の手料理を思い出しながら料理を作っていたのかもしれない。
私もアロゴも、恐らく二度と肉親に会うことはできない。
そう思うと自分自身も不憫になってきたが、元の世界に変える術がないのであれば致し方ない。
この世界にいて、自分ができることをするだけだ。
もしかしたらその“自分ができること”は、私がずっと思い描いていた“何者かになりたい”を叶えるきっかけになるかもしれない。
アロゴの復讐は手助けをする。
しかし、命までは殺めない。
そこを止めるのが私の役目だ。
お腹いっぱいごはんを食べた私たちは、気持ちよくなり、アロゴに案内された部屋でくつろいでいた。
部屋も魔法のように出現し、三人が大の字になって寝ても余るほどのスペースの巨大ベッドが出現し、どこかの貴族のような天葢つきのふわふわな白いクッションと布団がふわりと現れた。
「さぁ、作戦は宴で話した通りだ。難しいことはないから、明日はよろしく頼むぞ」
ヤァヤァはそう言うと、妖艶な金色の目を細めて私たちに御休みを言った。
豊満なボディをマントで翻して、ドアの向こうに消えた。
確かに、私たちが依頼されたことはとても簡単だった。
だからこそ、本当にそれで行けるのかと言う疑惑はあったが、ヤァヤァもアロゴも悪ふざけをしている風には到底思えなかったので、本気なのだろう。
とんだ1日だったなと、寝室の高い天井を見て思い返していた。
異世界にやって来たのが昨日。
今日はヒルナとバニーガールのようなメイドのような服を着て接客をして、ヒルナの魔法を見せてもらい、そしてクロノが文字通り飛ぶようにしてやって来た。
極めつけは、ウカのお婆だという魔女のヤァヤァと馬顔の執事に出会い、壮絶な過去を告白され、ユニコーン殺しを依頼された。
元の世界で社畜会社員をしていたら、決して体験できない出来事だった。
楽しい、と感じていた。
心がとてもワクワクしていた。
高鳴る鼓動を感じていた。
そして同時に強い疲労と眠気を感じていた。
「おやすみ…」
ヒルナもクロノもいつの間にか寝息を立てながら寝ていた。
クロノはあんなにもヒルナのことを嫌がっていたが、寝るときは一緒になって寝ている。
まるで姉妹のようだ。
電気を消すのはどこだろうと思いながらうとうとしていると、いつの間にか私も寝てしまっていた。
異世界はとても刺激的だ。
明日もきっと記憶に残る日になるだろう。
こうして、怒濤の異世界生活二日目が幕を閉じた。
朝起きると、アロゴがワゴンで朝食を持ってきてくれた。
「おはようございます、皆さま。昨晩はよく眠れましたか」
「ん…っ…アロゴさん、おはようございます」
ワゴンのタイヤが転がる音でクロノが目を覚ました。
「目覚めがよくなる紅茶をお入れしました。また、消化のよいごはんを作りましたので、お口に合うと幸いです」
「かたじけない」
ヒルナもすくっと起き上がり、アロゴが用意してくれた朝食を食べた。
「今日は私にとっては特別な日でございます。皆様にはご迷惑をお掛けしますが、どうか愚民の戯れと思わず、ご協力いただけますと幸いです」
アロゴは深々とお辞儀をした。
「いえいえ、そんなことないですよ。お力になれれば私たちも本望です」
「ありがとうございます。それでは、作戦通り、私と奥さまは気配を悟られないようにこの館におります。何かあればヒルナさまかクロノさまの魔法でお知らせください。いつでも飛んでいく準備はできています」
「もちろんだ。アロゴの幸せを私たちも望んでいる」
ヒルナは口いっぱいにごはんを頬張りながら堂々と言った。
「クロノも手伝う」
にこりと笑いながらクロノも返事をした。
「それでは、よろしくお願いします」
アロゴはまた深く一礼すると、部屋から退出した。
「さて、昨日の作戦通り、みんなで頑張ろう」
三人はお互いに同じタイミングで頷いた。
「ユニコーン殺しに行くわよ」
「御意」
「はーい!」
着替えと用意をほどほどにして、私たちはヤァヤァの館から旅立った。
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