最後の晩餐
異世界に来る前は、何者かになりたいとか、私にしかない才能があるとか、根拠もなく漠然と思っていた。
そのうち著名な人から声をかけられて、一般人の道から有名人の世界に飛び込めると、そう信じていた。
10年ほど書き続けている小説も、いつか日の目を見て、出版されて、作家としての道があるのかな、なんて夢見がちなことを思っていた。
しかし、異世界ではそんな無駄なことを考える余裕もなく忙しい日々を過ごしていた。
初めて見る魔法だったり、異世界の人々だったり、魔女だったり。
いかに自分がのうのうと幸せに生きてきたのかを思い知らされると、自分の人生は当たり前で平凡で、いかにその事が、尊いのかと言うのを思い知らされた。
目のまで家族が死ぬことも、恋人の心臓をえぐることも、自らの手を引きちぎることもなかった。
毎日残業で安月給で彼氏もいない孤独な日々だったが、かけがえのないものだと思うと急に自分を大切にしたくなる。
元の世界にいる両親はすでに60歳を越えているし、まだ親孝行も済んでいない。
このままでは死んでも死にきれない。
しかし、それは後回しだ。
今はこの不運で残酷な運命に遭遇してしまったアロゴという青年を助けたい。
それが倫理的にどうかという問題はあるが、それは元いた世界の話であって、この世界の話ではない。
ウカという主人の命令だからではい。
これは、私の意思だ。
アロゴが生き残った意味が復讐を果たすのであれば、私が異世界に来たのはアロゴの復讐への手助けをするのが目的なのかもしれない。
私とユニコーンは正直無関係ではある。
しかしながら、ユニコーンの悪事は許されるものではない。
せめて、なぜそうしたことを行ったかだけでも聞きたい。
そして、せめてできることならアロゴに再び殺生をさせるのではなく、ユニコーンからの謝罪でアロゴの復讐をベストな形で終わらせられないか。
そのために私がいるなら微力でも力添えをしたい。
「私、やります。手伝います」
迷いなく言った。
「ウカの奴隷でもありますが、これは私の意思です。手助けさせてください」
「ヒルナの主人であるウカとミーが言うのであれば、私にも二言はない。同乗しよう」
「クロノは…お姉ちゃんといたいから」
それまで口をつぐんでいたクロノもようやく言葉を話した。
未来を読むことができるクロノは、この復習劇が迎えるラストをすでに理解しているのだろうか。
「ヒルナも昔、大切な人をなくした。気持ちはすごくわかる。だからこそ、アロゴを助ける。しかし、人を呪わば穴二つだ。それは覚えておいてほしい」
「もちろんです」
アロゴは目に涙を浮かべて、深くお辞儀をした。
ヒルナが、昔誰かを失ったのか。
まだヒルナと会って二日しか経っていないので、まだまだ知らないことばかりだ。
いつか、ヒルナの過去を癒すために力になれたらいいなと思った。
「皆のもの、協力感謝するぞ。さて、作戦含めてまずは腹ごしらえだ。アロゴはかなりの料理の腕前だ。とくと味わうがいい」
パンパンッとヤァヤァが二回拍手すると、本当に魔法のように(“ように”ではなく、魔法なのだが)、それまでごちゃついていた部屋が瞬く間に綺麗なお城の大広間のような様変わりした。
天井は空よりも高く、赤いカーペットの上に白い長テーブルが出現し、宙に浮かぶシャンデリアが私たちを優しく照らした。
「ご用意ができるまで、少々ご歓談ください。私は如何せん魔法使いではないため、調理に時間がかかるのです」
アロゴは笑いながら言って、一礼をすると部屋の奥に姿を消した。
「すごい…これが魔法」
「さぁ、ではまず乾杯酒といこうか」
ヤァヤァが指をぱちんと鳴らすと、今度は扉の奥からワインのようなボトルがふわふわと宙を舞いながらやってきた。
つづけて、寸胴な盃もゆったりと空中を浮遊しながらきた。
「今日は長いぞ」
ヤァヤァは嬉しそうに言った。
これが最後の晩餐にならないよう、私たちは気合いを入れながら、ユニコーン殺しの前夜祭を行った。
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