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復讐に生きる

「私は決してふざけているわけではありません。ユニコーンとはそういう生き物なのです。あの獰猛性を唯一失わせ、ひれ伏させるには、処女性が必要なのです」


アロゴは真面目な顔で言った。


「処女性って、つまりそういうことですよね?」


私は質問をした。


「はい、そういうことです」


アロゴは続ける。


「ユニコーンは、かなり切れ者でいくら暴力的に捕まえたとしても、捕まるくらいなら自害を選ぶ性格です。また、どんなに断崖絶壁まで追いやっても、あの長い角を緩衝材にして、飛び降りて捕まることを避けます。


そんなユニコーンですが、唯一の弱点があります。それが少女の処女性なのです。ユニコーンにしか感知できない少女の処女性を嗅ぎ付けて寄ってくるのです。そのときばかりは、ユニコーンは我を忘れたかのように、猫のように喉をならして獰猛さを捨て去り、すり寄るのです。そこを捉えたいのです」


「妾たちも、まずは二人で力を尽くしたのだが、奴はなかなかにずる賢くてな。何よりもアロゴが不憫に思えてな、付き合うことにしたんだよ。何百年も生きると毎日がつまらなくなってしまうんだよ。そんな退屈を解消してくれたのはアロゴだからな。何かしら恩を変えそうと思ってるんだよ」


いつの間にかヤァヤァは、どこからかキセルを取り出して優雅に吸い始めていた。


キセルから放たれる甘美な甘い匂いは、ヤァヤァのイメージ通りで、心が溶けそうな効果を感じだ。


「ちなみにな、妾が“修復”したのは、アロゴの胸だけではなくてね」


「奥さま、そこまではよいのではないでしょうか。私の過去の過ちであり、戒めなのです」


「まぁ、良いではないか。この場では、依頼を受けてくれるのが一番の目的だ。あともう一押しといこうか」


「奥さまがそう仰るのであれば…」


アロゴは少し控えめに白い手袋をおもむろに外し始めた。


「…」


今度は言葉すらでなかった。


アロゴの両手は、最早手と呼べるものではなかった。








まるで宇宙を凝縮してぐちゃぐちゃにかためたかのような煤のように黒く灰色が混在した手らしきものが腕から“生えていた”。


「アロゴはな、妾と会ったとき、まず第一声で何と言ったと思う?たまたま用事が終わり家路に着いていたときに、大火を遠くから見つけたもんで、野次馬精神で見に行ったのだよ。するとな、真っ赤な炎の中に一人だけ膝をついて女性を抱き締める者がいて滑稽だなと思っておった。せめてのも情けというもので、二人を火のないところで永眠させようと股がっていた箒から降りたときだった。


“僕の両手を切ってもらえませんか?”と、アロゴは言ったのさ。もう遠目では死んでいるようにしか見えなかったんだがな、まだ意識ははっきりしていた。


理由を問うと、“大切な人の命を奪ってしまった手なので要らない。彼女を抱き締める資格が今のままではないので、せめてこのまま彼女を抱き締めるために、忌まわしきことをしたこの手を切ってほしい”と言ったのさ。


もちろん妾は断ったさ。面倒そうだし、もうすぐ息耐えるのにそこまでする必要はないとな。しかし、アロゴはその精神力の高さで、自ら片腕を食いちぎったんだよ。驚いたね。馬の種族にこんな者がいたかと興奮したさ。


自ら食いちぎったことで、切断面はボロボロだし、痛みも倍増だろう。妾であれば魔法で多少は痛みを和らげることができる。それもあって、代わりに腕を切断することにしたのさ」


「奥さまは、お優しい方で、こんなぼろ切れのような存在に慈悲をかけてくれました」


アロゴは心底感謝の気持ちを込めて、ヤァヤァの方を見て会釈した。


「妾もしばらくひとりでいてつまらなかったこともあるし、魔女としての仕事も忙しかったから、誰か一人くらい召し使いがいても良いなと思っておった。そこで、腕を切る代わりに、妾の奴隷にならないかと提案したのだ。そのときにすでにアロゴからは復讐の強い匂いが充満しておった。お主の腕は切る、その代わりに妾に仕えよ。また、お主の復讐に協力しよう。それまでは切断した腕の代わりになるものを与えようとな」


「この黒く淀んだ手は私の復讐の気持ちを奥さまが形にしたものです。私の復讐の気持ちが完全に消えると私の両手としての役割は終えます。それまででよいのです。私は復讐するために生きているのですから」


アロゴはそこおぞましい両手を再び手袋で隠した。


「どうだろう。話に乗ってくれるだろう?あ、これを言ってしまうと元も子もないが、ウカからはすでに許諾を得ている。殺生に関わらず、“ただユニコーンを誘き寄せるだけなら”いい、とな」


主人であるウカがそう判断したのであれば、私たちには断る権利はない。


ユニコーン殺し。


異世界に来てまだ2日目ではあるが、身に余るほどの急展開を迎えている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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