処女性
アロゴが話し終わったあとには、妙な空気が流れていた。
まるで種族が大火とユニコーンによって殲滅させられた余韻が時間と場所を越えて、この魔女の部屋に立ち込めているようだった。
「間違いなく、ユニコーンなのだな?見間違いはないと?」
ヒルナは冷静に状況を分析している。
この話に乗るかどうかを見極めているように思える。
「あぁ、それは私が確認をした」
それまでずっと沈黙を続けていたヤァヤァが答えた。
「そのあとは、妾から話そう」
ヤァヤァは、組んでいた長い脚を組み直して、ふぅと息を吐いた。
「アロゴは只で転ぶ男ではなかったというわけだ。最後の気力をふりしぼって、そのユニコーンに突進をかましたのだ。そして自分の体をその長いユニコーンの体に突き刺したのだよ。並大抵の奴にできることじゃあないな」
ヤァヤァは側に仕えているアロゴを尊敬の目で見上げた。
「種族が絶えた以上、僕ひとりで生き残っても意味がありません。僕の命があるのであれば、最後に無駄だと分かっても一矢報いることが、家族やカブイーラに向けたせめてのものはなむけです」
「どれ、見せてみたらどうだ?」
ヤァヤァは頬杖をつきながら、馬顔の執事に向かって提案をした。
「奥さま、見世物ではございませんよ」
「これで、皆の意見が同意されるなら安いだろう」
「それはそうですね」
そう言うと、アロゴは「少々お目汚しとなりますことご容赦願います」と断りを入れて、上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ、タイを外して、上半身を露にした。
「嘘…」
息を飲む姿だった。
なんとか、皮膚は治癒をしているものの、心臓の辺りに大きなボールサイズ、大玉のスイカくらいの大きさの穴を無理矢理塞いだような跡が見えた。
あまりにも惨すぎるこの傷跡は、ユニコーンの角に自らの体を串刺しにしたときの壮絶さを物語っている。
痛みの度合いは、どんなに想像しても想像の域を越えない。
「これって…」
ヒルナも思わず息を飲む。
クロノはあまりの悲惨さに目を背けた。
また小学生くらいのクロノに、この傷はあまりにも生々しすぎる。
大人の私でも、これはキツイ。
どんなにショッキングな映画よりも、現実の方が手の施しようがないほどにむごいのだ。
「…信じて、いただけましたでしょうか?」
アロゴは、体を見せたあとにすぐに服を着て元通りに直った。
「私の回復魔法や知っている限りの回復系に能を持つ物達を集めても、一年ほどかかったよ。いやぁ、もう二度とやりたくはないね」
「…ですよね」
言葉が続かない。
「傷の治療をしているときに、ユニコーンの毛がアロゴに付着していてね、それで確信を得たんだよ。アロゴの種族を襲った犯人はユニコーンだってね」
「…うむ」
ヒルナも私も完全に話を信じた。
「しかし、だ。私たちはいくら頼まれても生き物を殺めることはしたくない」
「それは、ご安心ください。最後の決着は私が着けます。皆様には元凶であるユニコーンをつれてきてほしいのです」
「連れてくる?」
「はい、それだけで構いません。そのあとは、私と奥様の出番になりますから」
アロゴは目を細めて優しく笑いながら言った。
「では、次に具体的な作戦に移ります。ユニコーンは私や奥さまでは会うこともままならない。たったひとつ、あるものが必要なのです」
「あるもの…?」
「そうです。処女性です」
アロゴは再び顔に笑みを浮かべて言った。
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