ユニコーンの大罪
「今でもはっきりと覚えています。肉をえぐる感覚、誰かの臓器を鷲掴みにするあの柔らかさや程よい温かさ、差し込んだ右手を押し上げる肉片の圧力、腕に垂れる最愛の者の血液」
アロゴは、その場からピクリとも動かずに今までの壮絶な話を語りきった。
決して作り話ではないと、誰もが感じていた。
まるでほんの数分前の出来事かのように鮮明に細部まで語られた過去は、常にアロゴが心の中で思い出していることなのだろう。
「明らかに感覚があるのです。自分というものが、自分という目を通して、自分自身の意思でカブイーラの体をつきしているのです。否定も逃れようもできません。私は自ら彼女を殺めてしまったのです」
「でも、アロゴさんはカブイーラさんを愛していたのだし、探していたんですよね」
「そうなのです。ほんの一瞬、瞬きをしたら、目の前にいた彼女が僕の腕の中で絶命していたのです。誰かに乗り移られたのか、幻覚なのか、もう今では分かりません。確かに言えるのは、僕が彼女を殺してしまったということです」
「ここまで聞くとユニコーンが悪者という話はないな」
ヒルナ最興味深そうに入ってきた。
「話はまだ続きます」
そうして、アロゴは忌まわしい記憶を再び話し始めてくれた。
僕はもう何が何だか分からなくなっていた。
父さんも母さんも亡くなり、最愛のカブイーラをこの手で殺め、さらには同胞たちは遺体で転がっている。
火事は消火される様子もなく、鎮火する気配もなく、逆に業火を強めていった。
叫び声も逃げ惑う人々の足音も全く聞こえない。
恐らくこの炎に巻き込まれてしまったのだろう。
何故僕だけがこうして無事に意識を保っているのかが分からなかった。
生きていても意味がない。
次は僕の番だと覚悟を決めた。
左腕で抱き締めるカブイーラの体は硬直が始まり、この火事の熱さの中でも体温が下がり、冷たくなって来てるのが分かる。
自分で抜いたカブイーラの心臓はどうすれば良いか分からず、右手で握り続けていた。
「カブイーラ…」
僕はどうすることもなく、多だ自分の死の順番を待ってた。
薄れ逝く視界の中で、僕は父さんや母さんに感謝をしつつ、満足に親孝行できなかったことを悔やんだ。
そして、肉親を守ることもできず、恋人をこの手に掛けるという最悪を犯した。
そんな僕にも走馬灯と呼べるものが見えており、楽しかった思い出が1枚のフィルムのように目の前を流れる感覚を感じた。
愛すべきカブイーラと、もっとたくさんの思い出を作りたかった。
いつか子宝にも恵まれて、教育を受けさせて、たくさんの景色を見せたかった。
子供が独り立ちしたあとには、二人でろうごをゆっくり村で過ごす。
そして、カブイーラが寂しくないように、彼女よりも長生きをして、孫に看取られながらこの世を終えたかった。
ただ、それだけだった。
僕のこの短い人生もそろそろ終わりが来ているのか、最後に神様がカブイーラの幻想を見せてくれた。
あの真っ白な行きのように輝く髪に再び触れることができたなら、どんなに幸せだろうか。
僕の目の前に現れた幻想のカブイーラは音もなく空から現れ、その長い髪を炎の風に揺らしていた。
しかし、神様は僕に最後の試練を与えたのだ。
「朦朧とする意識の中で見たその白馬はカブイーラではありませんでした。彼女の上半身は人間の姿です。それに瞳は髪の色と同じく白に近い灰色です。僕が見たその白馬は上半身は馬そのもので、額から大きな角を生やしていました。見た目こそ似ているものの、紛れもなくカブイーラではなく、ユニコーンだったのです」
アロゴの語気が自然に強くなる。
「さらにその白馬は角を真っ赤に染め、体のあちこちに鮮血を浴びたあとがありました。ユニコーンこ特徴である、あの角です。臭いでわかります。その数々の血は同胞のものであり、父さんと母さんのものでした。私はあの白馬、いいえ、ユニコーンのことは絶対に忘れません。青い瞳をしたあのユニコーンこそが、わが村を殲滅に追い込んだ元凶なのです。僕は奴を許すことはできません。僕の命が助かったのは、奴に復習をするためなのです」
アロゴは最後、声を震わせて、涙を流しながら言った。
ユニコーンの犯した罪の大きさは、計り知れない。
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