血の惨劇、一夜にして種族壊滅の悲劇
「兄ちゃん、何飲むね?」
「じゃあ、ウーゾをいただけますか」
「あいよ」
酒場のマスターが目の前に出してくれたのは、白っぽい透明なお酒だ。
僕はその日、辺境に近い街での仕事を終えて、一杯酒場で酒を飲んでいた。
翌日は恋人であるカブイーラと共にちょっとしたデートに行く予定だった。
デートというのは名目で、僕は彼女に結婚の申し込みをするつもりで、仕事で街に出てきて、カブイーラに渡す婚約指輪を探しに来た。
彼女が好きなピンク色で小さな花を模した指輪がちょうど見つかったので、婚約指輪として渡して、結婚指輪は後日二人で見に来ることを想定していた。
カブイーラとは幼馴染みで、物心つく前から一緒にいて、これからも側にいて歳を重ねて一生添い遂げる中だとお互い自然に思っていた。
付き合い始めたのは僕らが16回目の夏を迎えたときだった。
お互いに性を意識し合う歳になり、心も体も求めるようになってきたので、正式に交際を始めた。
父も母も兄弟も、皆僕たちの交際を快く認めてくれ、村をあげて公認の仲となった、
カブイーラは真っ白な馬だった。
僕たち馬族は、起源に馬を持つこともあり、体の一部が馬に似ることが多い。
僕は顔が馬で体が人間だが、彼女は上半身が人間で下半身が馬という出で立ちたった。
体は全身的に白く透き通った色をしており、太陽の光を宝石のように反射させる艶やかな肉体をしている。
髪は背中まで豊かに流れる白髪で、ウェーブがかった髪は、蜘蛛の糸のように細く金糸のように輝きを称え、尾も同じようにたわわに若さを象徴していた。
道行く者は誰もが彼女を美しいと感じた。
村の者は僕のことを心底羨ましいと思っていたが、昔からの幼馴染みという間柄には誰一人として間を割って入れるものがいないほどに、僕たちは愛し合いお互いを強く求め合っていた。
僕たちの村はそこまで大きくなく、100人ばかりの人工で辺境の小さな集落に近い。
ただ、種族の特徴としては争いを好まず、話し合いなど平和的な解決方法で交渉をしたりとその交渉力を買われて、外交などを得意としていた。
日々平凡だけれども、慎ましさこそ幸せという毎日を過ごしていた。
その日、僕はカブイーラへの婚約指輪を握りしめて村に戻った。
村に到着したのは、みんなが寝静まり始めた頃だったが、カブイーラは僕の帰りを待って、村の門に寄りかかりながら月を見ていた。
「カブイーラ、こんな遅くに一人で家を出てはいけないよ。危ないじゃないか」
「だって寂しかったんだもの。2日も村を開けるなんて、想像以上にあなたが恋しくなったわ」
「仕事だからね、すまなかった。これでも予定よりは早く切り上げたよ」
「知ってるわ、ありがとう」
僕たちは月が明るく輝く星空の下で口づけをして、お互いの家路に向かった。
同棲の話も婚約後にしようとしていた。
そのためのお金も貯めていた。
「ねぇ、アロゴ、月がきれいだわ。ずっとずっと輝いているのね」
「そうだね。僕たちを永遠に照らしてくれるよ」
「明日は朝からたくさんの花が咲くあの草原で遊びましょう。私、本当に明日が楽しみ。眠れなくなってきたわ」
「明日は長いよ。今夜はゆっくり休んでおくと良い」
「そうね」
そうして僕たちは家路が別れる道で強くお互いを抱き締めて体温を交換しあと、ひとしきりキスを交わして、帰宅した。
しかし、彼女が再び月の光を浴びたのは、血の海の中だった。
僕の大切な世界で唯一の彼女であるカブイーラは、その絹のような真珠のような真っ白な体全身を真っ赤な血で染め上げ、目を剥き出しにして息を引き取った。
僕の腕の中で事切れるカブイーラを僕はただただ呆然と見ているしかなかった。
何故なら、彼女に致命的な一撃を与えたのは、他ならぬ僕自身だからだ。
一族が一夜にして消滅する血の惨劇は、僕が眠りについた直後に起こる。
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