妖艶な金目の魔女
扉の中は、想像以上だった。
まるで未来から来た猫型ロボットが引き出しの中にある移動機で、特定の次元に移動するときに通る背景が広がっていた。
どこかの遊園地のアトラクションで体感できるような幻想的な雰囲気がそこにはあった。
どっちが床か天井か分からない包まれたような空間があって、全体的に白っぽいクリーム色の空(地面)にマーブルカラーで様々な色彩の色が混ざりあっている。
魔法の世界と言われると納得できる独特の空間があった。
さらには、この空間にはさっき見た金色をした大きな扉がいくつも空中に浮遊している。
ここはそうした移動や異次元をつなぐ世界の通り道なのかもしれない。
もしかすると、元の世界に戻る扉もこの中にはあるかもしれない。
けれども、今はこの世界が好きになり始めたばかりで、ヒルナやクロノ、ムァ、そしてウカなど顔馴染みも増えてきて楽しくなってきた。
まだ帰るのは早い。
帰ってもどうせ仕事ばかりの日々で、残業のオンパレードだ。
恋人もできなければ、仕事で出世することなく、趣味の小説も鳴かず飛ばずだ。
私のことを心配してくれるのは親くらいのものだが、それでもまだこちらにはいたい。
いずれは帰りたいけれども、それはこちらの世界を堪能してからにしたい。
寒すぎず暑すぎないこのちょうどよい体感の空間はとても居心地がいい。
ずっとここにいても良いと思えるほど、良い空間だった。
三分ほど歩くと、クロノが「ここじゃ」とある扉の前で立ち止まった。
その扉は他の扉とは見た目が全く異なり、とても年季が入った焦げ茶色の木製でできた普通のものだった。
ドアの中央には、映画でしか見たことがない鉄で出来たドアノッカーがあった。
しかしクロノはそのドアノッカーでノックするのではなく、魔方陣から何やら真っ白な金平糖のようなものを数粒出して、そのドアノブに近づけた。
すると、さっきまで只の鉄のドアノッカーが一瞬で双子の女の子に変わった。
ただ、変わったのは上半身だけで、下半身はドアノッカーにそのままくっついている。
双子のドアノッカーは嬉しそうにその白い金平糖のようなものを食べると、「開けてあげる」「開けてあげる」と声を揃えて言い、自分達の体をコンコンとノックした。
すると、扉がゆっくりと開き、中に部屋があるのが見えた。
ごくり、と私は息を飲んだ。
扉の向こうにいるのが、ウカのお婆さんだ。
ウカに似て、単純にカバのようなウシのような姿をした老女かと思いきや、全く意外な展開となった。
果たしてウカのお婆さんとは一体どんな人物なのだろうか?
「行くぞ」
クロノは特に変化なく、そのまま部屋の中に入っていった。
ヒルナも少し不安そうな表情を見せつつも、端正な顔立ちをさらに美しくして、長い赤髪をなびかせながらクロノについていった。
そして私は一番最後に、部屋に入った。
中に入ると、そこは普通の部屋だった。
部屋自体は普通なのだが、ドライフラワーのような乾燥植物が天井から吊り下げられていたり、大量の瓶や大きな土鍋、何やら怪しいものがたくさんところ狭しと積み重ねられていた。
人がようやく通れるくらいの道を体を横にしてゆっくりと物を崩さないように歩みを進めた。
少し開けたところに出ると、顔が白馬で体が人間、しかも服装は執事のような出で立ちをした者が深々と挨拶をした。
イケメン、だと思った。
競馬や乗馬など馬には全く関係ない人生を歩んできた私だが、理由は分からないものの、この馬顔の執事(文字通り)は、絶対にイケメンだという謎の確信があった。
「お待ちしておりました」
その馬顔の執事は、低く響く声で私たちを出迎えてくれた。
「奥さまがお待ちでございます」
白い手袋をした手は指先すべてがきれいに並べられ、奥を示していた。
そして、奥を見ると、そこには大きな鍋を掻き回す女性の姿があった。
魔女だ。
大きなとんがり帽子に、見たこともないくらい巨大な鍋、そして脇には黒猫のような生き物が足元をすり寄って、紫色に近いローブを纏った後ろ姿が目に入った。
「思ったよりも早かったね」
ウカのお婆さんと思わしき人物はこちらを振り返らずに言った。
そして、「まぁ、こんなところだけれども、ゆっくりしていってよ。お茶でもいれてくれないか、アロゴ」
「仰せのままに」
アロゴと呼ばれたその馬顔の執事は会釈をして、闇の中に消えた。
「さぁ、まずはお茶だ」
振り返ったその人物は、ヒルナの何倍も美しく妖艶な女性だった。
金色の目をしておでこからは角を二本生やし、胸元を大胆に見せる下乳がこれでもかというくらいに露出したセクシーな服装をしていた。
「妾はウカのひいばあにあたるヤァヤァだ。どうも遥々ようこそ」
ウカとは似ても似つかない妖艶な魔女が両手を広げて私たちを出迎えてくれた。
異世界ってやっぱり面白い。
まだまだ帰るには惜しいところだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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