目に見えるものだけじゃない
「とりあえず、くまなく探してみようか?どこかにヒントがあるのかも」
私はボロボロの犬小屋を目の前に、提案をした。
「そうだな。もしかしたら、ウカと違って、とても小さなお婆さんなのかもしれない」
ヒルナの発想は面白かったが、その可能性は捨てきれない。
私は膝をついてボロボロの犬小屋をくまなく見た。
ただ、どこからどう見ても、中をじっくり見ても、壊れかけた犬小屋なのは変わらず、朽ちた木しか確認できなかった。
「おかしいな。プセオドスは嘘をつかないから、ここで間違いないはずなのだ」
「うーん。何か落ちてたりしないかな?」
クロノは答えを知っているようだが、何も言わずに私たちの様子をうかがっている。
「手を入れてみるね」
見た感じ、クモの巣や虫はいなそうだった。(この世界にクモや虫が存在するかは分からないが)
そっと犬小屋に手を伸ばしてみるとー。
「?!」
なんと犬小屋は、私の手に触れるどころか、私の手を上手く吸収するかのごとく、そこに残像だけを残したのだ。
つまり、この犬小屋は完全に偽者で、映像のような物体の無い存在だった。
「“目に見えるものだけじゃない”」
クロノは頭にムァを乗せて、得意気に鼻の穴を広げて言った。
「え~不思議。これどこからどう見ても本物にしか見えないよね。となると、あの後ろにあるオンボロの建物もきっと偽物なんだろうね」
「そうかもな」
「これも魔法なのかな。異世界に魔法って本当にあるんだね」
現代技術をもってしても、なかなかここまで精巧な偽物は作り出すことはできない。
「かなり高度な魔法技術だ。ウカのお婆さんか誰かは知らないが、相当の使い手がいるらしい。なんだか、ウカの依頼は並大抵なものではない気がしてきたぞ」
「右に同じく」
「さて、ウカのお婆さんに会いに行くぞ」
クロノはムァを頭から下ろし、地面に置くと、手のひらに魔法陣を出した。
手のひらサイズの魔方陣からは、棒のようなものが眩しい光と共に出現した。
「魔法のステッキ!」
昔テレビでかわいい魔法少女たちがこぞって持っていた魔法の杖だった。
「この魔法で作られた犬小屋は、対魔法でしか開けることができんのじゃ。余所者はお呼ばれではないということじゃな。クロノは上位魔法が使える希少な存在だから、この先も問題はない!」
元気に答える小学生くらいの女の子は、自分の身長の半分以上もある魔法のステッキを犬小屋に向かって振りかざした。
「ルーゼン!」
クロノが力強く叫ぶと、魔法のステッキと犬小屋の間に再び魔方陣が出現し、あたりを緑色の光に包んだ。
同時に風が吹いて、クロノの髪を一瞬でなびかせる。
かと思えば、犬小屋は光の粒になってゆっくりと空気の中に溶けていった。
「嘘…」
そして、なんと目の前に現れたのは、大きな扉だった。
絵本の中で見るような、2メートル以上はある重厚感がある金色の扉が空気の中からじんわりと現れた。
「さて、ヤァヤァのところに行くぞ。首を長くして待っておる」
クロノはにこにこしながらその大きな扉のドアを軽々と開けた。
扉の隙間から霧のような煙が漏れている。
これが、魔法か。
夢のようなワクワクする世界に感動を覚えつつ、興奮を押さえながら私とヒルナはその金色の扉の向こう側へと足を踏み入れた。
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