精霊魔法 プセオドス
目が開けられないほどの眩しい光が収まり、ゆっくりとまぶたを開くと、霧がとても深い場所が目に入った。
辺り一面景色がはっきりしないほどの場所で、来た瞬間にここに来たことを後悔するほどの場所だった。
目に見える一帯はグレーや黒や灰色などの色ばかりで、見る分には全く気持ちがワクワクしない。
建物もの木々も生命力を感じる色合いは全くなく、どんよりと重苦しい雰囲気に満たされている。
「ここって…場所合ってる?」
目の前に広がる光景に唖然とする。
「合っておるぞ。これくらいの近い距離の移動魔法は間違う訳がない。ここがウカのお婆さんの住む村じゃ」
「村と呼べるところが無いな」
これにはヒルナも言葉を失っている。
「どこにいるのかな…」
私は道なき道を進み、膝丈まで鬱蒼と伸びた草を掻き分けながら、人が住む場所を目指して歩いた。
辛うじて、かつて石畳が並べられていたであろう道を見つけて歩を進めると、そこにはボロボロの空き家が一軒あった。
窓ガラスはすべて割れていて、壁や屋根はあちこち穴が空き、草が辺り一面生えている。
どうも人が住んでいる気配は全くなく、むしろ虫やカラス等の生き物のほうが多く住んでいると思われる。
「クロノと言ったよな?未来が読める力を持っているのは、なかなかいない。かなり位の高い身分なのだろう。それもあって、素性を明かせないと私は思っている」
ヒルナも私のあとに続いて草を掻き分けながら、廃屋の前についた。
「そうじゃな。今は言えぬがかなり偉いのじゃ」
幼女なのに、なかなか年寄りみたいな言葉遣いをする不思議な子だ。
背中の羽は本物みたいだし、胸についている大きなリボンは可愛いし、つるぺたのお腹も素敵だ。
「未来が読めるってことは、この後どうなるのかも分かるってことだよね?なら教えてもらえたりするの?」
私たちはボロボロで薄気味が悪い家の辺りを探索し始めた。
「それは…言えぬ。そういう決まりじゃ。未来が変わってしまうからな」
後から草を掻き分けてきたクロノは、背が高い雑草に埋もれてほとんど姿が見えなかった。
唯一頭に乗っているムァだけが見えて、クロノがどこにいるかが判別できる。
「じゃあウカの家で、連絡が来るっていうのは本当は言ったらダメだったんだ」
「それは問題ない。あの世界線はどう転ぼうが変わらないからじゃ」
「難しいなぁ」
「分岐点になることは、直接は言えぬ。だが、ヒントは出せる」
クロノがもじもじしながら小さい声で言った。
私は彼女の言葉の行間を読んでみた。
「つまり、ここに来たのは“間違っていない”。“ここ”にウカのお婆さんがいるってことね」
「…」
クロノは何も言わなかった。
「沈黙は肯定と見なして良さそうだ」
ヒルナが答えた。
クロノは再びもじもじしながら言った。
「“真実は目に見えるものだけじゃない”」
私とヒルナは顔を見合わせた。
「つまり、この鬱蒼と繁る雑草やボロボロの屋敷は偽物ってことね!きっと魔法で、仮の姿になっているのね!」
私は自信満々に言った。
「それはちょっと違う」
クロノは呆れ顔で言った。
「それは否定してくれるのね~」
イマイチ未来が読めることに関する条件が曖昧な気がするが、“ウカのお婆さん”は必ずどこかにいるのは間違いなさそうだ。
「ねぇ、ヒルナの魔法で何とか見つけられたりする?このままだと日が暮れて野宿になりそうだわ。そうしたら怖いモンスターとかが出てくるかもしれないし」
「そうなったら、主人であるミーを全力で守るよ。それが私の役目だ」
頼もしいヒルナに思わず恋をしそうな気分だった。
「どこまでできるか分からないが、探してみよう。私の精霊魔法で嘘を見抜いてみよう。真実が大好物で嘘を暴くのが得意な光の精霊を召喚しよう。名前はプセオドスだ」
ヒルナはそう言って、手のひらを合わせてゆっくりと開いた。
両手には大きな金色の光の玉が浮いており、ふわふわとヒルナの顔の前まで来ると、ぱんっと小さな音を出して幾千もの小さな光に散らばった。
それらの小さな光たちは蛍ように空中を浮遊し、辺り一面に飛んでいった。
本当に嘘を暴いているかのようにあちこちのものに触れたり観察したりしているようだった。
「すごい…綺麗」
深い霧のなかで唯一光る光の玉たちは幻想的な世界そのものだった。
「お、あそこに光がたまっているな」
しばらく見ていると、光の玉はある一ヶ所に集中し始めた。
私たち三人はその場所に向かった。
「ここ…?」
「ここのようだ」
「うむ」
三人はそれぞれの反応を示した。
光の玉はそれこそ宝石のように輝くので、まるでボロボロのその物体は、電飾がつけられたおもちゃのように眩しく見えた。
「tdpgm.66]``']`」
ヒルナが小さく呪文を唱えると、光の玉たちは、一瞬で粉になって空中に溶けていった。
音もなく消えるその精霊たちがどうなったのか気になったが、それよりもいまはウカのお婆さんかまいるであろう場所のほうが気になってしまった。
「ホントにここなんだよね?」
「“真実は目に見えるものだけじゃない”」
クロノは真剣な眼差しでそれを見つめる。
到底真とは信じがたいが、目の前にあるのは壊れてボロボロになった犬小屋だった。
屋根が壊れているので、外からでも底が見えるくらいに腐敗が進んでいる。
すぐ横にたたずむ家が廃墟なら、この犬小屋も廃墟マニアには堪らない立派な廃屋だ。
「ここにいるのは分かったけど、どう見てもいないよね…?」
「そうだな…」
「“真実は目に見えるものだけじゃない”」
私たちはオンボロの犬小屋を囲って、沈黙してしまった。
ウカのお婆さんは、どこにいるのだろうか?
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