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クロノの使い魔

「クロノ…って言ったか?本当に予知能力があるんだな…?」


ウカは何か怯えるようにクロノと名乗る幼女に聞いた。


「そうじゃ。嘘ではい。我は純血だからな」


「純血なのにどうして奴隷になりたがる?」


「そ、それは…」


ウカとクロノの会話は不穏な雰囲気に満ちている。


「ヒルナ、どういうことか分かる?純血ってなに?」


「あぁ、分かる。エルフは長寿だから何でも知っている。純血とは、貴族や王族に近い、特別な能力を持つ正統な種族のことだ。私たちエルフも純血に近い正統な種族ではあるが、私は目的を持ってウカと奴隷契約をした」


「正統な種族…」


この世界では名ばかりの奴隷契約で労働契約に近い体制である。


「純血であれば、生きていることそれだけで価値があるので、特に奴隷契約なんて一般庶民が行う契約は要らない。家に帰れば召し使いや小間使い、執事に庭師までいるはずだ」


クロノは回答に困っていた。


「嬢ちゃんはまだ小さいから分からないかもしれないが、契約は何でもできるわけじゃねぇ。純血となれば、後ろ楯がある訳で、ことによっちゃ俺が罰せられちまう。誰か召し使いでも小間使いでもいいから、連れてきてくれれば別だが…」


「誰かをつれてくればいいのだな!」


それまで眉間に深い皺を刻んでいたクロノの顔が一気に明るくなった。


真っ白な羽を一回はためかせて、また胸元が眩しい緑の光を放った。


今度は小降りの魔方陣が出現して、中からまた丸い玉が出現した。


その光の玉はウカの前まで進むと空中でふわふわと浮き、徐々に光を落としていった。


ちょうど手のひらに乗るくらいのサイズで、見るからにもふもふとしたさわり心地が想像できるなその生き物が、勢いよく「むあー!」と言った。


からだ全体は球体に近いがウサギのような猫のような耳を生やして、くりくりとした黄金色の丸い目をぱちぱちさせた生き物だった。


手足はとても短いが、尻尾は体よりも長い。


「むぁ!」


しかし言葉は話せないようで、「むぁ」と何回もウカに向かって言うだけだった。


「嬢ちゃん、使い魔は数に入れられねぇよ」


「えぇ、そんなぁ!ムァは私の大切な仲間なんじゃ」


「なぁ、嬢ちゃん分かってくれよ」


クロノはムァを抱き締めながら泣きじゃくり始めた。


「今度こそ上手く行くと思ったのにぃーっ」


道行くものたちが、何事かと足を止めるくらいに騒がしくなってきたので、ウカは居てもたってもいられず、


「あぁ、分かった分かった。じゃあ仮契約だ!いま契約書を持ってくるから、それで対応だ。後から文句いうんじゃないぞ」


「わーいわーい!」


緑髪で羽が生えた予知能力を持つ幼女は、またパタパタと空中を飛んで喜びを露にした。


そして、


「おねぇーちゃーん!」


と私に勢いよく抱き付いてきた。


きっとなにか訳ありなのだろう。


家で華族と喧嘩でもして飛び出してきたんだろう。


事が収まるまで面倒を見よう。


これもきっと異世界の醍醐味であるのかもしれない。


いつもとの世界に帰れるかはわからないので、それまでここで徳を積むのも悪くはないはずだ。


クロノは花のような甘くて柔らかい香りがした。


ウカが契約書を取って来るまで、クロノは私にずっと抱き付いて何度も頬を擦り付けてくれた。


「よーし。クロノって言ったよな?これが仮契約書だ。そして、さっき予知してくれた電話だが、みんなで依頼に行ってくれるか?」


「もちろんだ」


「もちろんじゃ」


ヒルナとクロノが同時に返事をした。


「依頼は俺の婆さんのところだ。今から飛行で行っても、丸3日はかかるからそのつもりで用意をしてくれ」


「藁の移動魔法で行けば一瞬じゃよ」


クロノは自信たっぷりに鼻の穴を広げて言った。


「であれば話は早い。早速行ってくれ」


異世界生活2日目。


新しい冒険がいま始まろうとしている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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