温かい絶望の中で
ウリがあまりにも強く抱き締めるので、何も身動きがとれなかった。
止まることのないハリムシャヒャッキの血の雨は、本当に生臭くてべとべとしていて気持ち悪さしか感じなかった。
けれども、ウリの底無しの優しさで、そんなこともどうでもよくなってきた。
「マイチーチャルが、教えてくれたのです。連絡鈴は、あくまでもネリが私に連絡を寄越すものなので。
マイチーチャルからの連絡でなければ、間に合わなかったです」
にっこりと笑うこのメイド戦士は、どこもかしこも真っ赤に染まっていた。
血の戦士じゃな、とクロノはぼんやりとした頭で考えた。
「あ、そういえば、イズミさまはどちらにいます?マイチーチャルからは、“危ない”とだけしか言われていなかったので」
キョロキョロとお姉ちゃんを探すウリは、まだ惨劇の結果を知らない。
しかし、ここで時間を過ごしても意味がないと分かっているので、クロノはそばにある肉片を指差した。
「…ふぇ?」
後ろを振り替えると真っ二つに切り裂かれたハリムシャヒャッキがいる。
「どこか、物陰に隠れていますか?」
ウリは、それまで抱いていたクロノの体からゆっくりと離れて、ハリムシャヒャッキに近づきながらイズミの姿を探した。
(ウリ…お主が思い描いているお姉ちゃんの姿形はもうないのじゃ…)
残酷な真実を告げることが、こんなにも辛いのは、クロノ自身よく分かっていることだった。
(マイチーチャルよ、内なる声がウリに届けられるなら、届けてくれないか?
クロノの口からは到底伝えられぬ。辛すぎるのじゃ…)
クロノはあまり視界に入れないように、敢えて上を見た。
そこには、クロノがフォイで心身を湯治した価値なる器があった。
この価値なる器のシンボルは、糸車だった。
糸車は、まさに運命を司る三女神の象徴である。
クロノたち三人で、この世に生を受ける全ての物達の運命を決める。
運命の元となる糸を紡いで、そして細長く成形をして、そしてその者が持つ運命の長さを計り、運命の鋏で断ち切る。
これが、絶対神ゼウスを父に持つクロノたち三姉妹の役目だった。
それもあり、糸車がシンボルだったときは、もう笑うしかなかった。
価値なる器のシンボルはそれぞれ人によって異なる。
ヒルナが果実だったのも、納得の結果だ。
さぁ、これから運命はどうかわるのか?
どうせ最後は死ににいく世界線ならば、少しの間だけお姉ちゃんがいない世界線を生きてもいいかもしれないな。
今日も空は青いぞ。
皮肉なまでに、な。
「う…嘘でしょう…?」
ウリが震える声で体を小さくさせた。
「…マイチーチャルからきいたか?」
「…いや…いや…っ!」
ウリは崩れるように膝間付いて、泣き始めた。
(マイチーチャル、かたじけない。面倒を肩代わりしてもらってすまぬな)
『いえ、私にはそれしかできませんから。
あとは、ネリさまのみが運命を握りますね』
マイチーチャルはそう言うと、そのあとは沈黙した。
ハリムシャヒャッキの滝のような雨に打たれたお姉ちゃんの肉片は、さらに痛みが進み、固まりと呼べるものもほとんどなかった。
ハリムシャヒャッキの血に混じって、ところどころ申し訳なさげに肉片が地面に落ちているだけだった。
なぁ、ニュッカよ。
なぜクロノにばかりこの運命を押し付けるのじゃ?
クロノはもう疲れた。
そうして、クロノは再び自分の首に爪を立てて自害する寸前に至る。
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