私らしく、生きるには
私は、マイチーチャルの助言どおりに、アナパウロの穴の前にいたオタマヒコに乗って、クロノがいるという価値なる器に行った。
(クロノ…早まらないで…)
心なしか急ぎ足のオタマヒコ(牛とカバのハイブリッドのような生き物)の背中に揺られながら、固唾を飲んだ。
『イズミさん、大丈夫ですよ。私の感覚器で、クロノさんの心肺や息づかい、体温や脈拍などはすべて分かります。
安心してください。クロノさんは、ただ泣いているだけのようです。』
マイチーチャルが、脳に語りかけてくれた。
「ありがとう。でも、それがいちばん心配なの。
早まったりしないかとか…ね。もう誰も失いたくないの」
まだネモフィラさまが亡くなったとは断言できない。
自分の目で確かめるまでは、信じたくない。
だって、あんなに辛い思いをしてきたネモフィラさまだもの。
幸せにならないと、いけないんだ。
「命も心も守りたいの」
『…イズミさまに思われる方は、とても幸せですね』
「え?そうなのかな?
私、前の世界でも大したことできなかったし、今の世界でも“運命の力”とか“ジャッジメントアイズ”とか言われているけど、何かを成し遂げられた試しがないの。
それは、この世界に来てから、まだ間もないってこともあるかもしれないけれども、それでも確信がないんだ。
たぶん、ウリの言っている“運命の力”が正義と悪に分かれるなら、私は悪なんだと思う。
だって、現にネモフィラさまが危険な目に遭っているみたいだし、ネリさまも生まれ変わったけれども死にかけていたし、クロノだって…」
そこまで真剣に言うと、なんとマイチーチャルは『ふふふ』も笑ったのだ。
「え!マイチーチャル、私は真面目な橋をしているのよ」
小馬鹿にされたみたいで、少し腹が立った、
『すみません。つい、私も嬉しくなってしまって』
「え?」
『イズミさんは、まだ理解されていないようですね』
「なんのことよ?」
まだ小馬鹿にさてれているようで、私は本格的に不機嫌になり始めた。
『運命の力があるなしや、前の世界でどうだというのは、きっと本人の事情なんだと思いますよ。
大切なのは、“今どうするか、自分が何をしたいか”なのではないでしょうか。
クロノさんは、イズミさんが能力を持っていてもいなくても、気にしないと思います。イズミさんがいてくれさえすれば、クロノさんは大満足です。
だって、現に今クロノさんは“お姉ちゃん”ってずっと呟いていますよ』
「…クロノ」
ますますクロノに会いたくなってしまった。
見ず知らずの私をお姉ちゃんと親しみを込めて呼んでくれるのは、この世でクロノだけだ。
妹みたいな、かわいい存在。
私はクロノに会って、まずは抱き締めたい。
「さぁ、オタマヒコ!急いでいくわよ!フルストロットルでお願いね!」
眼下にオタマヒコのびっくりしたような表情が見えて、私もくすりと笑ってしまった。
そうだ。
運命の力がなんだ。
私は、私らしく生きればいいのだ。
「クロノ!」
マイチーチャルの言ったとおり、クロノは価値なる器の前にいた。
クロノの価値なる器は、糸巻き車が、
膝を抱えて、顔を深く埋めていた。
私の声にぴくりと反応をして、ゆっくりと顔をあげた。
「おねえ…ちゃん…?」
クロノは目から涙、鼻から鼻水、口から涎を出して顔をグシャグシャにしながら、私の名前を呼んだ。
「クロ…」
クロノ、心配したよと言いたかった。
でも、言葉は続かなかった。
「え?」
状況を飲み込むのに、時間はかからなかった。
瞬時に理解した。
全身の力が抜けていく。
私は自分のちょうど胸の下から股間の上まで、“白くて太いトゲのようなもの”が刺さっていることに気がつく。
「…嘘…でしょ?」
どんどん力が抜けていく。
そして足元に力の海が出来上がる。
体から体温が瞬間的に抜けていく。
そして、意識が無くなる。
「お姉ちゃん!」
その声が、最後に聞いた“音”だった。
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